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10.他人のために犠牲にするもの

 翌朝、窓から差し込む朝日に照らされ目を開けたフィルは、全身を激しい筋肉痛に襲われていた。


 なんとか立ち上がろうとしていると、すでに起きていたリアが声を掛けてくる。


「おはよう。体大丈夫? とりあえずお昼まではここにいていいみたいだから、ついでにお昼ごはんを用意してもらよう言ってくるわ」


「ありがとうリア。昨日散々殴られた上にその体で無理に戦ったから」


「そうよ。ほんとなら二、三日は安静にしておくくらいの傷よ。宿のおばさんに言って交渉してみようか?」


「いや、やめておこう。聖都にはなるべく早く行きたいし、ゾネの村が襲われたことも伝えたい」


「そう。だけど絶対に無理はしないでね?」


「分かっているよ。全力でみんなを頼らせてもらうさ。そういえばノクトはどこかに出かけたの?」


 起きた時に見当たらなかったノクトの所在をリアに聞く。


「ノクトは必要なものを買いに行ってくれたわ。昨日の盗賊たち、この辺では割と有名な盗賊だったみたいで、少しだけど懸賞金がかかってたみたいなの。ただ、捕まえることができたのは六人だけだったみたいよ。獣男と黒いフードの男はいなかったんだって」


「そうか」


 フィルは昨日のゴラムの強さを思い出し、再び戦うことがない未来を願う。今まで生きてきた中で、あそこまで一方的に嬲られたのは初めてだったのだ。


「まぁフィルはゆっくり休んでて。わたしたちでできることはしておくから。さぁ!あんたはいつまでも寝てないで、さっさと起きて手伝いなさい!」


 カイトの腹に無慈悲にも手刀が振り落とされる。


「痛てぇぇぇぇぇ! なにすんだリアてめぇ! オレだって全身痛てぇんだぞ! フィルと一緒だろうが!」


「あんたはせいぜい二、三発殴られただけでしょ。その程度の痛み我慢しなさい。さっ、早く行くわよ。ノクトだけ準備させたらかわいそうだわ」


 颯爽と部屋から出ていくリアの後ろを、幽霊のように虚ろな目をしながらカイトが付いていく。扉が閉まる直前、カイトがぼそっと口にした。


「フィル、お前覚えてろよ」


 それは逆恨みだよ、と思いながらフィルは再び微睡むと、しばらくして漂ってきた香ばしい匂いに気付き目を覚ました。


 幾分かすっきりした頭で体を起こすと、部屋に誰もいないことを確認し下の食堂へと降りて行く。今日の昼のメニューはパンと小耳兎ウポルの煮込みのようで、食欲をそそる香りが食堂中に漂っている。


 フィルは食堂をさっと見渡すと、手を挙げてこちらを呼んでいるリアを見つけた。


「体調はどう? 多少痛みは和らいだように見えるけど」


「おかげでだいぶ良くなったよ。みんな、準備任せてしまってごめん」


「いいのよ。こっちも街を見れて楽しかったし。やっぱり村じゃ手に入らないような食材がいっぱいあったわ! この煮込みも、この辺で採れる薬草と一緒に煮込んでるんですって。ゾネの村で食べてたのと全然違うわよ」


 リアに促され視線を目の前の皿に移すと、一口すくい口に運んでみた。なるほど、確かに臭みがまったくない。小耳兎ウポルは雑食でどうしてもその肉は獣臭かったのだが、これはまったく嫌な匂いを感じない。フィルは一口、また一口と口に運んでいく。


「ほんとに美味しいね。肉も柔らかいし、味付けもあっさりしてるからいくらでも食べれそうだ」


 カイトを見るとすでに二杯目を注文している。反対にノクトはまだ半分程度しか食べていない。相変わらず食が細いようだ。


「これからどうするの? とりあえず聖都までは少なくてもあと四つは村を越えないといけないらしいわ」


 リアは自分の分を食べ終え、フィルに聞く。フィルはパンを齧りながら答える。


「みんなが準備をしてくれてるから、食事を終えたらこのまま出発しよう。できれば今日中には次の村に行きたいところだけど」


 カイトが二杯目のスープを猛烈な勢いで啜りながら指摘した。


「それは無理だぜフィル。次のファンマルの村はどれだけ頑張っても二日はかかる。今から出ても今日は野営だぞ」


「そうなんだ。う~ん……いや、やっぱり今から出よう。聖都に近づくほど晶獣オーロも少なくなるだろうし、街道を通ってファンマルの村を目指そう。今日の野営は我慢するしかないよ」


「オッケー。準備はできてるし、ファンマルの村は天然の湯が沸き出てることで有名らしいぜ。せっかくだから寄ったついでに入ってこうぜ!」


 カイトの発言に珍しくリアが同調する。


「たまにはいいこと言うじゃない。一度入ってみたかったのよファンマル名物の湯場に。それに前の村を出てからしばらく水浴びできてなかったでしょ? 急ぐのも分かるけど、どうせなら寄っていきましょうよ」


 たしかにここ最近水浴びもできず、濡れたタオルで体を拭いていた。そろそろ全身の汚れをしっかり落としたいと思っていたところだった。


「分かったよ。そういうことならせっかくだから入っていこうか。ノクトもそれでいいかい?」


 ようやく食事を終えたノクトに同意を求める。ノクトは出てきた食事の量が少し多かったのか苦しそうにしている。


「ふぅ~、もちろん僕は賛成だよ。みんなと同じでファンマルの湯に入ってみたいし」



 方針が決まったフィルたちは支払いを済ませると、荷物を持ち足早に宿を出て街へと歩みを進めた。


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