救世主?
あれからどの位のた打ち回ったのだろうか?日は傾き、空は僕の心の中を表すように青暗く淀んていた。僕は一旦落ち着きを取り戻し我に返ったが、その反動で疲れが僕を襲い寝落ちしてしまっていた。
起きると日が僕を照らし、雲一つ無い空が無限に広がっていて、まるで今までのことが夢の中の出来事だと言っているように思えてくる。しかし、その束の間の安堵も鼻に付く様な匂いが現実に引き戻してきた。
自分は前を向いて生きよう。そう決心し、立ち上がり歩いていく。風が通り過ぎた。どす!鈍い音が鳴り、その場に倒れ込んでしまった。左腕の方に違和感を感じる。恐る恐る腕をチラリと見ると矢が肩に刺さっていて、そこから血が滴っていた。刺さった矢尻の方向を見るに自分の後ろから打たれたらしい。
「刺さった!!あそこだ!」
遠くから小さくそう聞こえた。敵国兵が残党狩りしに来ているようだ。敵との距離は300m近くある。僕は目の前にある森に急いで駆け込んだ。森は鬱蒼としていて簡単に見つかりそうにない。しかし見つかったらどうなるかは想像が着く。
僕は矢を引き抜き変な方向に投げ捨て、左腕の袖を引きちぎり刺された部分を強く締め付けた。そして、一心不乱に走って逃げた。
朝日を6回は迎えただろうか?もう走る体力はほぼ残ってない。ここに来るまではとにかく走った。
お腹がすいたらセミやゴキブリを取って食べて凌いだ。水は途中に小川があったので水を体に取り込み、小さな水筒に入れた。それが無くなると、自分の小便を水筒に貯めて飲んだ。何とも表せないくらい不味いがそれしか無いので吐きそうになりながらも飲んだ。
だが、それも意味が無かったのかも知れない。もう左腕もほとんど動かない。こんな森で誰にも気付かれずに野垂れ死ぬんだ。意識が薄らいでいながらも歩き続ける。
「もう何日も寝てないから疲れたな」
声にならない声で呟いた。その時ガサガサッと音がしたと同時に
「誰かいるのか!」
と聞こえたような気がしたが分からない。僕はその場で倒れ込んでしまった。
目覚めると見知らぬ天井。窓からは光が鋭く差し込んで来ていて、僕はベッドと布団に挟み込まれていて、しかも上裸になっている。
「ここは・・・どこだ?」
ふと、遠い記憶の中で人の温かい温度を感じ、優しく包み込んでくれるような声が聞こえたのを思い出した。すると、ドアの向こうから足音が近づいてくる。その音は次第に大きくなり、ドアノブを捻った。
向こうに見えたのは、同じくらいの歳の少女であった。その容姿は少し幼いながらも美麗で、金色の艶やかな髪に似合う白く透き通った肌。まさに女神と言うのに相応しい人であった。
彼女は起きている僕を見るなり固まってしまい、固まったかと思うと、安堵したのか肩の力が、ぐっと抜け落ちベッドに倒れ込んできた。
「痛っ!!」
キズから痛みがぶり返してくる。
「おい!大丈夫?‥‥‥寝てるのか」
ベッドからそっと出ると彼女を待ち上げてベッドに優しく寝かせ、僕はそばにある椅子に座った。
結構痛かったが、あの時動かなかった左腕が普通に使えている事を不思議に思い、巻いていた包帯を解き矢が刺さっていた所を見ると、確かにキズの痕は残っているが、それ以外、腕の壊死していた部分は無くなり、キズの穴は完全に塞がれている。
その様はまさに奇跡であり、この場にいる彼女は何なのかも分からない。
しかし、僕はこの人が聖人に見えてしかたがなかった。