メメント・モリ
故人は古くからの友人という意味です
「生きないと! 僕は絶対に死にたくない」
草木が生い茂った森を走って進んでいく。左手はもう使い物にならず、森の中の草を右手を使い掻き分ける。
突然
「おい! 誰かそこに居るのか?」
知らない男の声がした。
僕の人生はここで終わるかもしれない。
僕は傭兵団の隊員の中に産まれたらしい。僕の生活の中には常に死と生が付き纏っていた。時には、隣人がいつの間にか消えたと思ったら赤の他人が増えていたり、ある日はとても豪華なご飯があるが、何日もパンが3欠片みたいなひもじいご飯があったりした。
それでも皆で助け合いながら楽しく暮らせていた。
しかしそんな日々もいつかは終わりを迎えてしまった。
伝染病が流行ったのだ。
それは多くの人に移り、そして神は愛すべき人の命と父の笑顔を持ち去っていった。
ある日から父は酒に溺れ、金を使い果たし、仲間に借りるまで落ちぶれてしまい、周りの仲間達からは同情されてしまう始末。その父親からは武神として讃えられた時の尊厳を失い、多くの借金と役立たずの息子だけが残った。
これまでの記憶が頭の中を駆け巡る。僕は目を開いた。灰色の空が目の前に広がっている。ふと横を向くと横たわる人々が連なっていて、それに大小様々な蝿が群がっている。
ここは戦場で僕は戦いで気を失っていたんだ。見たところ軍は全滅しているようでただ一人ここに取り残されてしまった。
とりあえずここから逃げなければいけない。
周りに敵は居なさそうだが万が一のために這って進むことにした。
土、煙、人? の匂いが混ざって鼻の奥を噛み付いてくる。
空腹を何度か経過した位のこと、赤い小川を隔てて人の声が聞こえてくる。声の方を見ると傭兵団に居る一緒に戦に来た友人が骸骨と踊っていた。
僕は幽霊などの現象を信じていなかったので、とても非現実的でそれが目に焼き付いて離れない。その光景を見て驚いてしまい、音を立ててしまった。
2人が気づきこっちを向いた。
すると、故人が
「何日ぶりだね、こっちに来て一緒に踊ろうよ! 楽しいから」
と呼んできた。
僕が返事をできないでいると
「じゃあそっちに行くから待ってて! 早く行こう!」
骸骨の手を引く。
「無理だあっちには行けない。だからここで踊ってよう」
骸骨が言った。
そうして2人はあちらで楽しそうにおどっている。
僕は、まばたきをした。
その時、友人が視界から消えてしまっていた。急いで立ち上がり、元いた場所を見ていると彼は倒れていた。見るからに息はしていない。
さっきまで立っていた彼と、倒れたようにして這っていた自分が入れ替わったみたいだ。
「なぜ倒れている」
骸骨に問いた。
「死んでいたからだ」
一言答えた。
「いつ死ぬのかは誰にも分からない。しかしお前もいつかは、こうして踊る」
「己の死を忘れるな。おぼえていろ。死はいつかお前らの前に
姿を現すことを」
気づけば骸骨は消え、赤い小川は枯れていた。しかし友人の死は目の前に残された。彼は膝から崩れ落ち、自分だけが生きていることに嘆いた。
「なんで自分だけなんだ! 誰か俺もいっそ殺してくれ! この苦しみから救ってくれ!」
彼は掠れた声で叫んだ。
しかし死は彼の前に姿を現すことはなかった。
死はいつ何時も残酷な現実を押し付けてくる。