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神和ぎ

 すぐに問い質しに来るかと思われた竜輝は夜になっても訪れては来なかった。

 その間に両親や宗次からの返事は来ていたのだが――。


 両親は身代わりが明るみになる可能性を考えていなかったらしく。

『とにかく謝罪を!……いや、まだ誤魔化せるんじゃないのか⁉』

 などとかなり動転していた。

 すぐに招を見つけるつもりだったからこその考えなしなのだろうが、少しは考えておけという内心の突っ込みと、呆れるほどの動揺っぷりに逆に梓は冷静になれた。

 冷静になった頭で、両親は当てに出来ないと判断し引き続き招の捜索と龍見家への謝罪の準備だけはするように伝えておく。


 両親からの電話が終わると、ほどなくして宗次からもかかってきた。

『梓、今はどういった状況なんだ? 竜輝様に知られてしまったと言うが、それは竜輝様だけになのか? 他の者にも知られてしまったのか?』

 次々と出てくる質問に答える暇もない。

 それでもある程度質問が落ち着いたところでどういう状況なのかを説明した。


「……そういうわけで、竜輝様には確実に気付かれてしまったけれど他の方々には知られていないと思う、という状況よ」

 あれから時間は経っているが、屋敷の中が騒がしくなっている様には思えない。

 竜輝がわざわざ言いふらすようなことをするとも思えないので、おそらく彼以外には知られていないだろうと思った。


『そうか……。だが、やはり巫であるお前が覡として仕えるには無理があったのだな』

 宗次の言葉に、頑張ってみると宣言していた梓は気落ちする。

「うん……そうみたい。竜輝様のお顔の鱗が増えてしまったし……」

『まあ、それもあるが……。昼間の地震は気付いたか? 竜輝様の荒御霊が鎮められていないせいで起こったことだ』

「え?」

 前当主である竜輝の父が言っていたと宗次は話してくれる。

『本来神和ぎとは神降ろしの一族だ。神をその身に降ろし神意を人々に伝える者』

 神和ぎはその能力を使い、今は龍が宿す荒御霊の神気をその身に受け日の本の国に行き渡らせているのだと。それが最終的に結界へと行き着くのだと説明された。

『荒御霊が鎮められなければ、その神気は人の形をした龍からあふれ出て、直接人の世へと叩きつけられる』

 そのため、大地を司る金龍の場合地震を引き起こすのだという。


『そうして溢れ出る際に人型の体に影響が残り、あの様なお姿になるのだ』

「そう、なんだ……」

 龍見家、竜ヶ峰家の役割。そして結界に繋がる神力の流れ。

 今まで簡単にしか知らなかった事を詳しく教えられた。

 そして、声だけでも分かる真剣さで告げられる。

 

『梓、覚悟を決めろ。もう猶予は無い。巫として竜輝様の荒御霊を鎮めるんだ。そうしなければ、竜輝様はお姿も龍となり人の世からいなくなる』

「っ!」

『そうなったら、別の龍が当主となるだろう。そして、招が見つからない今その新たな当主に今度こそお前が巫として嫁がなくてはならなくなる』

「え……?」

 宗次の言葉に頭が真っ白になる。

 竜輝と想いを交わすことは出来ないだろうと諦めた。

 今とて、あくまで招の代わりだからと側にいるだけだ。

 竜輝が人の世からいなくなるのは嫌だと、ただそれだけを思って。

 でも、このまま竜輝が龍となりいなくなってしまった場合の事は考えていなかった。


 次代の神和ぎを産み育てるために他の人間を婿に貰うだろうということは漠然と考えていた。

 相応の男性と結婚し、竜輝への想いを忘れてその人と家庭を築いていくのだろうと。

 だが、愛されぬ花嫁として竜輝以外の龍に嫁ぐ事になるなど考えた事も無い。

 真っ白になった頭の中で、一番に浮かんだ思いは一つ。


(愛されぬのが同じなら、私は竜輝様が良い)

 他の相手など考えられなかった。


『……梓、お前の未来だ。選択肢は少ないが、お前が決めて行動しなさい』

 宗次はそう告げると電話を切る。

 通話の切れたスマホ画面を見つめながら、梓は叔父の言葉を反芻する。

 選択肢が少なかろうと多かろうと、答えは決まっていた。


「私は、竜輝様の巫になりたい」

 例え想いが通じなくとも、あのお方のお側にいたいのだと強く決意した。

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