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君の心臓を頂戴

作者: 水無月 宇宙

こんにちは。水無月 宇宙です。

本作品を選んでくださり、ありがとうございます。

この作品を読んでくださる人に、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

突然ですが、皆さんはたいして知らない人に、「心臓を頂戴」と言われたら、どうしますか?

その人に心臓をあげますか?断って、その人の分まで生きようと思いますか?

僕はどうするんだろう。分からない。言われたことがないから。

でも、言った方からしたら、きっと生きてほしいんじゃないかな。


僕には昔から持病があった。歳を取るごとにどんどん心臓が弱っていく病気なんだって。

でも、普通に走り回れるし、食事制限もない。一見、健康な男子だ。

けど、心臓の方は確実に弱っていってるみたいで…。

「…君の余命は一年だ。心臓のドナーが見つからない限り」

「そーなんだ」

「…ドナー、見つかるといいな」

「そーかなあ?僕、別にいいよ?ドナー見つからなくても」

「……」

「ねー、先生。これからも外、出歩いていいんでしょ?食事制限もないよね?」

「あぁ。それは自由にしてもらって構わない。…事故とかは気をつけろよ」

「どーせ死ぬのに?(笑)」

「…やめなさい、そういうことを言うのは」

「事実じゃん(笑)まー、気をつけるけどね。事故は、もう片方の人にも迷惑かかるし」

「………」

「何で先生がそんな暗い顔してんの?(笑)」

「……」

「…僕、もう寝るね。おやすみなさい」

「…おやすみ」


ベッドに入った僕は目を閉じて先生のことを考える。僕が小さい時から担当してくれていた。

第二の親と言っても過言ではないくらい、良くしてもらっている。

だから、僕が死ぬことを悲しんでくれてるんだ。僕以上に。

僕は別に悲しくない。友達もいないし、親も別に僕に興味がないみたいだから。

でも、先生のことはちょっと心残りかな。あと、まだやりたいこともたくさんある。

生きたいか、死にたいかで言ったら、生きたい。

でも、誰かの心臓をもらうくらいなら、僕が死んだ方がいい。だって、それって誰かを殺すのと同じことでしょ?それは嫌だから。――でも。

「家に…帰りたい」

僕は病院に入院している。元気なんだけど、突然発作を起こしたりするかもしれないから、と入院させられた。親に。この時だけだった。親が、僕の親であったのは。その前も、そのあとも、両親は僕に構わなかった。

僕の病気が見つかった時も、興味を示さなかった。それでも僕は両親が好きだった。だから、いつも両親にくっついていた。でも、両親はそんな僕が鬱陶しかったみたい。僕を入院させると、どこかに行って、見舞いには来ずに、僕の前から消えてしまった。

そんな僕を支えてくれたのが、先生だ。だから、先生の方が親っぽいと言えば親っぽい。

「……そんなこと考えても、何にもならないのに。どーせ僕は……死ぬんだから」


「先生、おはよ~!」

「ん、ああ。想か。おはよう。今日は早起きだな」

「今日はね、街にお出掛けしようと思って」

「そうか。気を付けてな」

「うん。行ってきます!」


ガヤガヤと騒がしい街は、通る人みんなが明るく、楽しそうだ。もうすぐ死ぬ人がいるなんて、誰も考えもしないんだろう。

僕は少しだけ街から離れた公園の芝生に転がった。

僕の大好きな水色が視界いっぱいに広がる。

「綺麗だなぁ…。僕と違って」

もうすぐ散ってしまう僕とち違って、空はいつもそこにある。羨ましい気持ちもある。

その時、僕の顔に桜の花びらが降ってくる。

満開の時は綺麗だとみんなが見に来るのに、散った途端、誰も見に来なくなる。僕みたい。

「持って帰ろ」

僕は持ってきた本に桜を挟んで、かばんにしまった。

「…ちょっと歩くかぁ…」

僕は立ち上がって、伸びをする。と、視界に入った光景に目を見開いた。

「え、ちょ、ちょっと待って!?」

僕は戸惑いつつも、走り出す。僕が見たのは、屋上のフェンスの外側に座る人影だった。

僕はその人がいたビルに入って、屋上まで走る。

「…死なないで…っ」

あの人が死のうとしていたかは分からない。でも何となく、何かを諦めたような空気をまとっていた気がする。

「はあ…はあ…つい、た…」

屋上の扉を開けて息を整えつつも、人影の方へ走り寄る。

「…誰?」

「死ぬの?」

相手の質問を無視して尋ねる。その人は少し驚いた顔をして答えた。

「…死にたいけどね。俺にはそんな勇気、無いんだ」

少し悲しげに笑って、フェンスの内側に戻ってくる。

「名前は?僕は想」

「…純」

純くんは身長が高くて、僕より少し年上のようだった。

「純くんね。もう危ないことしないでね。じゃあね!また会えるといいね!」

「……」

僕が手を振ると、純くんも小さく手を振った。


「純くんかぁ…。どうしてあんなに悲しそうだったのかな。…生きてるのに」


「おはよー、先生」

「おはよう、想。今日も街に行くのか?」

「うん!行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


「ふんふん~♪ふふふ~ん♪」

僕は鼻歌を歌いながら道を歩く。

「今日はどこに行こうかな~」

街を歩いている今だけは死ぬことを考えなくていい。健康な人と変わらない生活を送っている気分になれる。

「今日も純くんと会えないかな~」

そんなことを考えながら、ぶらぶらあてもなく歩き続ける。

今日は、いつもは行かない一本向こうの通りに行こうか、と横断歩道の方へ向かって歩く。

「なあーんだ。点滅信号か…」

青じゃないことにがっかりしながら止まる。次の瞬間、信号が赤になる。

「!?」

止まった直後、僕の足は走り出した。横断歩道に向かって。

人が多くて見えなかったけど、真ん中にいたんだ。

みんな、悲鳴を上げてる。でも上げてるだけで、誰も何もしようとしなかった。

助けようとしなかった。

「純くんっ!」

僕は夢中で走る。横断歩道の真ん中にいる、純くんを助けるために。

誰かに掴まれた腕を振って、手を振り払う。

「…っ!」

僕は純くんを掴んで、横断歩道の向こうへ走り抜けた。

「良かった…」

「何で…?」

車のぎりぎりのところを走って、助けれた。思わず、「良かった」とこぼれてしまう。

「何で止めるの…?」

「死んでほしくないから」

止める理由なんて一つしかない。死んでほしくない。生きててほしいから。

「…もう、やめてって言ったよね?何でまたこんなことするの?やっぱり死ぬの?」

僕の問いに少し迷って、純くんは頷いた。

「もう…疲れたから。死ぬよ」

何で死のうと思うんだろう。まだ生きることが出来るのに。

それなら。


「それならさ、―――君の心臓を頂戴」


「え…?」

「僕、持病があってね。心臓移植しないともうすぐ死ぬんだって」

「死ぬ…?」

僕は別に本気で純くんの心臓が欲しいわけじゃない。

「そうだよ。ねえ、僕にくれないなら、ちゃんと生きて?自殺なんて、許さないから」

僕は純くんとそんなに仲が良いわけじゃないけど、なんとなく、純くんには生きてほしかった。

こう言えば、たいていの人は生きようと思ってくれる。きっと純くんも例外じゃない。

「…考えさせて」

純くんは小声で呟くと帰っていった。

僕も、もう帰ろうかな。そう考えてるうちにもう足は病院に向かっていた。


「ただいまー」

「おう、おかえり…ってどうした?その怪我」

「え?」

先生が指した先は、僕の膝だった。血がだらだら出ている。

多分、純くんを助けたときに怪我したんだろう。

「んー、色々あってねー」

説明するのが面倒になって、病室に戻ろうとすると、腕を掴まれた。

「手当てしなさい」

「…はーい。めんどー」

「こら」

「あはは」

僕は傷の手当てをしながら、今日のことを考える。

あの後純くんはどうしたのかな。ちゃんと無事に帰れたかな。

ちゃんと生きようと思ってくれたかな。

「…ちゃんと、生きてくれるかな」

「ん?何か言ったか、想?」

「何でもないよ」

僕は小さく笑って、救急箱をしまって病室に戻る。ベッドに入って目を閉じた。


数日後。

あれから僕は、純くんと会ってない。何度街に行っても、会うことはなかった。

自殺しようとか、考えてないといいけど。

「想!いい知らせだぞ!」

「先生。どーしたの?」

「心臓のドナーが見つかった」

「え…?」

「今すぐ手術にとりかかる」

「ちょっと待って、本当?」

「あぁ。本当だ」

「提供者さんは誰?」

「…そんなことは後でいいから、早く」

「…?分かった…?」

先生が何を焦っているのか分からないけど、僕は先生の言う通りに従った。


「…ん…」

「お、起きたか、想」

僕がかすかに目を開くと先生が僕の顔を覗き込んだ。

「手術は成功したぞ」

「…!やったあ!」

「良かったなあ…」

「わぁ~先生泣かないで~!!」

やっぱり先生は僕よりも僕のことを大切に思ってくれてる。


「ねえ、先生。僕に心臓をくれた、ドナー提供者さんは誰なの?」

先生が泣き止んだのを見計らって僕はずっと抱いていた疑問を口にする。

途端、先生の顔が曇った。

「先生…?」

「…これ」

「…何これ?」

先生から渡されたのは一通の手紙。先生は僕に手紙を渡すと、病室を出て行った。

僕は手紙を開いた。

 『想へ

 まず始めに、謝っておく。ごめんな。2回も助けてもらったのに。

 でもやっぱり俺は生きることに疲れちゃって。

 俺の家、荒れててさ。学校でもいじめられてて。俺の居場所なんて無いんだな、って思って。

 でも、そんな時に想と出会った。嬉しかった。

 俺のことを見てくれる、俺に生きててほしいって思ってくれる人がいるって知って。

 だけど、家の問題も、いじめも全然終わんなくてさ。というか、悪化したんだよね。

 みんなに「死ね」とか「お前なんかいらなかった」とかよく言われるようになって、少し苦しいなって、感じちゃった。今まで何も感じなかったのに。

 きっと、想に優しくされたからだと思う。

 それで、俺、「死にたい」って強く思っちゃって。そしたら、想の病気のこと知って。

 だったらドナーになりたいなって。

 想はまだやりたいことがたくさんあるんだと思う。

 だから、俺の心臓をあげれば一石二鳥だと思った。だからドナーになった。

 ごめん。俺、気付いてたよ。

 想は俺にドナーになってほしいなんて思ってなかったんだろ?

 俺が生きたいと思えるにしてくれたんだよな。

 でも、ごめん。

 死にたい俺が生きるより、生きたい想が生きる方が良いと思ったんだ。

 だから、俺の心臓で、やりたいこと、たくさんやってほしい。

 あと、手術前に提供者確認させなかったのは、俺が頼んだからだよ。先生を責めたりしないでな。

 それと、遅くなってごめん。想。

    手術成功おめでとう。

                                           純より』

「純…くん」

手紙に僕の涙が落ちる。にじんで、広がる。何度も、何度も。

「…僕が、あんなこと、言った、から…」

そうだ。元はと言えば、「心臓を頂戴」と僕が言ったからこうなったんだ。

「違うよ。純のせいじゃない」

「え…?」

いつの間にか病室に戻ってきていた先生が僕の肩に手を置く。

「その子はね、よく病院に来ていたんだ」

「純くんが…?」

「そう。ドナーになりたいって。誰か心臓が必要な人はいないかって、よく聞きに来ていたよ。でも、健康な人の臓器はもらえないからって断っていたんだ。

だけど、この前来たときは少し様子が違ってね。「想っていう子いませんか?」って想を探してたんだ。

でも、病室に連れて行こうとすると、嫌がった。

「想に内緒で、想の心臓になりたいんです」って言って、それまでの経緯を教えてくれた。

その時の純くんの顔は楽しそうで、嬉しそうだった。そんな様子を見ていたら、純くんの願い、叶えてあげたいなって。

純くんも必死に頼み込んできてね。他の先生と相談して、良いってことになった。特別にな」

「…純くん」

僕は自分の心臓の音をきく。僕の心臓で、純くんの心臓。

二人の心臓を今、僕は持っている。大切な、大切な、二人の宝物。

「純くん…ありがとう」

これから先何があるかは、分かんない。

楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、苦しいこと。

いろんなことが、あると思う。でも僕らなら、大丈夫。

いつだって一緒にいるんだから。さみしいことなんて、ない。

空にいる純くんと、ここにある純くんの心臓と、ここにいる僕は、全部つながってる。

この、心臓のおかげで。


「純くん。僕に心臓渡したんだから、僕の人生全部に付き合ってもらうからね!」

最後まで、お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

楽しんでいただけたでしょうか。

もし良ければ、コメント、ブクマ、評価など、していただけると嬉しいです!

誤字等は、見つけ次第教えてくださると幸いです。


自分は、医療関係に詳しくないので、心臓移植のことは、よく分かりません。

おかしな点があるかもしれませんが、多めに見てください。


それではまた、他の作品で会えることを楽しみにしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] この小説を読んだとき、あるボカロの歌詞が思い浮かびました。 そのボカロは、こんな世界と嘆いてる誰かの心臓になりたい、と歌っていました。 きっと、この主人公もこれから誰かの心臓になっていく…
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