一般型会社員の俺、謎の仮装パーティーで美人上司にお持ち帰りされちゃいました。
こんにちは!抹茶風レモンティーです!
投稿日は10月31日、ハロウィンですね!
なお、作者に予定なんてありません!(泣)
ある日、いつものように朝早くから会社に出勤した俺は、デスクのパソコンに一通の怪しげなメールが来ているのを見つけた。
『拝啓、神川月夜様。
貴方を今宵、10月31日のハロウィンの夜に催される宴に招待させて頂きます。
この宴には以下の規定を設けております。ご注意下さい。
・携帯やパソコンなど、外部への連絡が可能な機械は、全て会場に入る前に回収させて頂き、宴の終わる頃にお返し致します。
・この宴の存在は、第三者に明かすことは出来ません。
・来場者の方には宴の最中、特別な仮装を施させて頂きます。
本日20時に貴方の元へカボチャの馬車が迎えに参りますので、お好きな場所でお待ち下さい。
お会い出来るのを楽しみにしております。
なお、この宴への参加の拒否権は存在致しません』
……なんだこれ、何かのイタズラか?それとも日々の業務でパソコンを酷使しすぎて、いよいよ寿命でも訪れたか?しょうがないなぁ…。
そう思って、俺は当然のようにメールを削除しようとした。……んだが、何故か消えない。
「ん?なんで消えないんだ、これ?…おいおい、もしかしてウイルスにでもかかったか?」
勘弁してくれよ…。中に入ってるデータ、今日中に必要な物もいくつかあるんだぞ。
「あら、月夜君。さっきからひたすらメールボックスを眺めてどうかしたの?……もしかして、良い人からのメッセージでも見てたのかしら?ダメよ、会社のパソコンなんだから個人的な利用をしちゃ!新人教育の時に言ったでしょ?」
「あっ、霧島さん!おはようございます!」
そんなこんなでパソコンとにらめっこをしていた俺に話しかけてきたのは、俺の上司である霧島真紀さん。
異例の速さで出世して、今も大きなプロジェクトを任されている凄い人だ。
しかも社内で一番とも言われる程の美人で、以前にその美貌と出世の速さから他の女性社員に妬まれて、あまり良くない噂を流されていた事もあったくらいだ。…まぁ、最終的に時間と共に払拭されたんだけど。
俺が新人の時に教育してくれたのも霧島さんで、仕事の全てを教えてもらった大恩人でもある。とても尊敬している自慢の上司だ。
「誤解ですよ、霧島さん!ちょっと変なメールが来ていて、どうしようかと悩んでいただけです」
「ふふっ、冗談よ。月夜君は真面目だから信頼してるわ。彼女との連絡くらいちゃんと公私混同せずにしてるわよね」
「…残念ながらそもそも彼女なんていませんよ」
ははっ、こちとら生まれてこの方、彼女どころかまともに女性と関わっていたことすらないんですよ!……泣いて良いか?
「あっ、…ふーん。彼女いないんだね。……まぁ、気にすること無いわよ。私も恋人なんていないしね」
「…えっ!?」
「…何?もしかして自分も彼女がいない分際で哀れんでいるのかしら?」
「い、いえ…てっきり恋人の一人や二人いるものかと。霧島さん、美人ですし」
「私はきちんと好きになった人とお付き合いするって決めてるのよ。そもそも恋人が二人もいたら浮気じゃない!……美人という評価は嬉しいけど」
まぁ、霧島さんがそういうところで誠実な人なのは知ってますよ。伊達に霧島さんの部下やってないんでね。
「ところで話を戻すのだけど、しきりにメールばかり見て、何かあったのかしら?」
「いえ、なんか会社用のパソコンなのに奇妙な招待メールが届いていたんですよね。これなんですけど」
「うーん、ちょっと見るわね」
どうでもいいけど、霧島さんがこっちに顔を近づけてきて甘い匂いがする。
「あら?このメール私にも届いていたわよ」
*
「まじでカボチャの馬車が来たよ…」
結局あの後霧島さんとも話したんだが、俺は本当に20時にカボチャの馬車なんて物が来たら行ってみる事にした。
拒否権はないという話だったから参加しなければ何があるか分からないし、なんだかんだ面白そうだったのが大きい。俺自身、ありふれた日常に退屈さを感じてたのかもしれない。
馬車の中は無人で、それでいてどこかおしゃれな雰囲気が見え隠れしていた。本当に絵本の世界から出てきた乗り物みたいだ。
10分程揺られた頃だろうか、馬車は止まって俺の目には豪華な建物が映っていた。
まるで現実と物語が入り交じったようなその不思議な建物は、一度見たら絶対に忘れることが無いような美しさだが、俺が20年以上過ごしたこの街で初めて見るものだった。
俺は久々に胸が高鳴るのを自覚しながらその建物の方へ歩を進めた。
*
会場の中は既に多くの人が料理に舌鼓を打っているようだ。
辺りを見回すと可愛らしいお化けやコウモリで綺麗に装飾された空間に、狼男や雪女、吸血鬼なんかの妖怪が蔓延っていて、まさにモンスターたちの宴みたいだ。
これが特別な仮装ってやつなのかな?
「ちょっと良いかしら、そこの骸骨さん?」
へぇー、骸骨なんて者もいるのか。結構多種多様な感じなんだなぁ…。
というかさっきの声、なんか聞き覚えがある気がする。
「ちょっと、無視しないでくれないかしら?っていうか君、月夜君でしょ?」
…っえ?
「そんな驚く事ないでしょ?立ち振舞いですぐに分かるわよ。…………いつも見てるんだから」
「えーと、…もしかして霧島さんですか?」
「…気づくのが遅すぎないかしら?」
…いや、仮装してるんだから仕方ないじゃないですか。
なんとも偶然な事に、俺はこんな多くの人がいる中で早速霧島さんに出会ったらしい。
…って言うか俺の仮装、骸骨だったのね…。いや、別に不満はないんだけどさ、もっと人間っぽい見た目のやつが良かったかな?
ちなみに霧島さんの仮装は魔女だった。…解せぬ。
「まぁ、良いわ。そんな事よりもここのお料理、かなり美味しいわよ。お酒もきっとかなり良いものね。貴方も飲んでみたら?はい、これ」
「それじゃ、お言葉に甘えて頂きます」
俺は差し出されたお酒を飲んだ。
マイルドな口当たりに甘い香りがして飲みやすいな。それでいて少しほろ苦さがあって、それが逆に美味しさを引き立てている。
うーん、確かに良いお酒だと言われても納得出来る。
強いて残念な点をあげるなら……俺が酒を飲むとすぐに眠くなる体質なのを忘れてた事か。
そしてパーティー開始早々、俺は無事に意識を手放すことになった。
*
「知らない天井だ。…っていうか頭痛い」
俺は目が覚めたらいつもと違うベットで眠っていた。
女性らしい甘い香りが漂っていて、ここの持ち主が誰であるかを物語っている。
「あら、起きたかしら?月夜君」
隣で横になっているのは予想通り霧島さんだった。
控えめに言っても美人な霧島さんのベットに入っている事を認識すると、体が自然と熱を持ち始めた。
「あの、ご迷惑をおかけしました」
「本当よ。まったく、月夜君ったら。私、初めてなのに、激しいんだから…」
……?っえ?…はっ?…マジで?
俺の熱くなり始めた体と引き換えに、頭は急速に冷えていった。
「すみません!俺、寝ぼけて変な事しましたか!?」
「…」
霧島さん無言だし、本当にやったのか!?俺の人生終了か!?
「…っぷ、はははっ!冗談よ。何にも起こってないわ。かわいい反応してくれるわね」
「よかったー!マジでビックリするんでやめてくださいよー!本当にやらかしたかと思って焦りましたよ」
「……まぁ、今から冗談じゃなくなるんだけどね」
そして、俺の口に甘酸っぱい味が広がった。
…5分くらいだろうか?いや、きっとそんなに長くないだろうけど、俺には永遠にも感じる時間が流れて、やっと口が自由になった。
「き、霧島さん…?」
「真紀って呼んで」
「…酔っ払ってるんですか?」
「いいえ、酔ってなんかいないわ。私は自分の意思で、貴方とキスしたのよ」
「……霧島さ…」
俺が話そうとした直後、また口が熱い物で覆われた。
「言うことが聞けない悪い口は塞ぐわよ」
「………真紀さんは、俺の事が好きなんですか?」
この状況で言葉にして貰わないと分からないようなヘタレな俺の事が?そんな事あるんだろうか?
「えぇ、好きよ。最初の頃からずっと真面目な子だと思って、印象は悪くなかったわ。久々に育てがいのある子が来たなー、って思ってたわよ。そんな時、私が上層部に体を売って昇進している、っていう噂が立ったじゃない?」
……あぁ、結局時間が解決してくれたあの事件か。
「あの時、辛かった。身に覚えのない話で、仕事としての立場も、女性としての尊厳も奪われていって、怖かった。…でもそんな時、君だけが正面から啖呵切って庇ってくれた。君だけが何の疑いも持たずに信じてくれた。君だけが噂の出所を探って、払拭しようとしてくれた。…まぁ、残念ながら新人の君じゃあ、証拠までは見つからなかったみたいだけど、…私は救われた。多分、君が思っている何十倍も救われた。そんな事をされて、恋に落ちないほど私は女を捨ててないのよ」
「……」
「貴方の言葉も聞きたいわ。"はい"だったら襲うし、"いいえ"だったら私の事を好きになるまで襲う」
………そんなのずっと前から決まってますよ。
「俺は…」
*
「パパー、ママー!トリック・オア・トリート!お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞー!」
「そうだそうだ、ママ!お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞー!」
「はいはい、ツキにはお菓子をあげるわ。…………パパは夜にイタズラしてあげるわ……」
「っ…!?」
「なになにー?ママがパパにイタズラするのー?」
「……ツキにはもっと大人になったら教えてあげるわよ」
10月31日ハロウィン、我が家は今日も賑やかです。
ハッピーハロウィン!