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番外編その2

結婚後の二人

 王族や貴族が直接自分の手で子供を育てることはない。というのが通例ではあるが、ラゥルウント国ではそうではないらしい。王族であっても大いに子育てに関わるようだ。


 この日、ラゥルウントの女王及び王配、王子が改めてヴェルターとリティアの結婚祝いを持って来ていた。

 とは口実であろう。もうすでに結婚祝いは受け取っているのだから。アンたちはフリデン王国、とりわけ王都ルーイヒを大層気に入った様子だった。

 

「いいえ。わが国も同じです。ただ、私が子育てに関わりたいだけですわ。最初は侍女たちに叱られていましたが、今はもう皆諦めたようで」

 アンは、8人目の赤子をあやしながらそう言った。侍女に《《叱られる》》とは、噂の高慢な悪女は侍女たちとも気さくに接し、仲の良さが伺える。


 リティアは赤子を抱くアンを見ながら初めて会った日を思い出していた。

 ……確かにアンはあの時たくさんの子どもたちを“私の子どもたち”だと言った。あれは国民を表現する比喩だと思っていたけど、本当にアンの子どもたちだったのね。10人のうちどの子が実子か気づかなかった。ということは養子と分け隔てなく育てているのだろう。アンは本当に素晴らしい女性だ。


 王子はアンの産後とは思えない豊かな紅の髪を引っ張って遊んでいた。やがて飽きたのか落ち着かない様子にペールが引き受けた。


 「さぁ、PAPAのところにおいで、ルーイヒ」

 ペールは末の息子に別人のように目じりを下げていた。

「こら、PAPAの目に指を入れてはいけない。二つしかないのだから。いっ、やめなさい」


 ヴェルターとリティアはペールの“パパ”の発音が癪に触っていたが指摘せずに親ばかぶりを微笑ましく見ていた。が、ふと引っかかることがあった。


「今、王子の名を何と? 」

「ルーイヒです」

「……その名をつけるほどここが気に入られたようですね」

「ふふ。ここで授かった子なので」


 アンと目を攻撃され続けているペールは揃って頬を染めた。ヴェルターとリティアは絶句し、好きにしてくれと肩をすくめた。


 しばらくして、ヴェルターは子供が珍しいのかペールに王子を抱かせてもらっていた。ペールも無口ながら王太子とコミュニケーションをはかっている。


 アンが、そっとリティアに小声で言った。

「リティア。あなたの夫は素晴らしい人だけど、理性がすぎるのよね。……あの日、あなたたちもぎこちなかったでしょう? だから彼にアドバイスしたの“時には感情をむき出しにする方が相手にとって心打たれることもあるのよ”ってね」

「……あ、建国祭の日」

 リティアはアンが耳打ちしたのはそうだったのかと思った。

「まぁ、あと“押し倒したら”とも言っちゃったけど。彼、そうした? 」

「ふふふふふ、まさか! 」

 リティアはこらえきれず笑いを漏らした。

「そうでしょうねぇ、あの紳士は」

「そこが彼の良い所なの」

 アンとリティアは顔を合わせて笑った。アンがおもむろに柔らかなリボンを手渡して来た。アンの瞳と同じ深い紫の美しいものだった。良い香りがする。

「……綺麗」

「ええ。私からのプレゼント」

「もうたくさんいただいたのに? 」


 アンが妖艶な微笑みで耳打ちする。

「少し刺激が必要な時は、それで縛って。時々は女性も主導権を握らないとね」

「……縛る。これで。主導権」

 リティアは単語だけを拾った。


「私もよく縛るの。彼、可愛いのよ」

「よく縛る。……可愛い」


 リティアは瞳をリボンとペールを何往復かさせて、理解が追いつくと目を見開いて一気に顔を赤くした。


「あああああああありがとう」

 リティアは慌ててリボンをしまった。


「どうしたんだい、楽しそうだね」

 すぐ後ろにヴェルターが立っていてリティアは飛び上がった。

「ふふ、女性同士話してたのよ。ヴェルター、あなたは良い夫かってね」

 ヴェルターが片眉を上げ、リティアの顔を窺ったが

「二人になってから聞いて頂戴ね」

 とアンは笑った。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 いつものように国境を越えた友人たちと馬車二台分のプレゼント交換を終えるとヴェルターとリティアは息をついた。

「はぁ、いつもながら嵐のような人だね」

「ええ。でもとっても楽しかった」

 人は自由な人の前では自由になれるものだ。


「僕は彼女に出会えて良かったって思うんだ」

「ええ」

「王であろうと、自由であっていいと思える。そうしていいんだってね」

「ええ、そうね。あなたには変えられる力があるってこと」


 ずっと自らを律して生きてきたヴェルターにとってアンはやがて同じ王になる立場として肩の力を抜いてくれる存在だった。

 リティアは自分の存在意義を考えるのに開放されたかったのはヴェルターも同じだったのかもしれないと思った。だから、ヴェルターの気持ちをリティアはわかってあげられると自負した。


「さぁ、リティ。少し散歩でもして、花を見にいかないかい? 」

 ヴェルターがリティアの手を取った。

「ええ」

 庭園では、二人の記念樹が盛りと花を咲かせていた。


「こども、可愛かったね。リティ、君も自由にしていいんだ。剣を持っても、自分で子供を抱いたって」

「ええ。ありがとう、ヴェルター」

「まぁ、その、まだこどもはもう少し後でもいいと思っているんだけど。……僕たちはまだ若いのだし」


 急にはにかみ出したヴェルターにリティアは愛おしさがこみ上げた。

「……なるほど。可愛い」

「え、なんだって? 」

「いいえ。何も。ヴェルター、お願いがあるんだけど聞いてくれる? 」

「もちろん。君の願いなら叶えるのは僕の役目だ」

「……二人の時は、自分のこと“俺”って言って」

「……」

「叶えてくれるって言ったわよね」

「ええ、レディ。喜んで。では、私からも」

「……嫌な予感がするわね」

 リティはある程度覚悟した。

「二人の時は自分のことを“リチィ”と」


 リティアがまだ舌足らずだった時の言い方だった。


「もう! また昔の事を! あなた幼児趣味でもあるの!? 」

 宮廷でのリティアの大きな声にヴェルターは慌ててリティアの口を塞いだ。その唇で。


「……ヴェル」

「見られたって構わないさ」


 ヴェルターはリティアの腰を引き寄せた。盛りの花から甘い甘い香りが漂う。


「ヴェル、もう一ついい? 」

「仰せのままに。俺のレディ」


 微笑むヴェルターにリティアも微笑みを返す。そっとどちらともなく柔らかく唇を重ねる。リティアの頭の中で深い紫のリボンがするするとヴェルター肌の上をなめらかに動く。……さすがにどうかしら。リティアは躊躇し一人頬を染めた。キスが終わるとヴェルターはレディの願いを聞き逃すまいと目をきらきらさせて待っていた。







 おしまい。

 



完結しました。お付き合いありがとうございました。

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