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第10話 建国祭(フィナーレ)3

 ラゥルウントの子供たちはこの前の煩さをどこかに置いてきたようで、マナーの行きわたった小さな紳士と淑女そのものだった。さすがはアンだとリティアは感心した。アンと同じく切り替えがとてもうまいのだ。


 リティアはヴェルターにアンについて早く聞きたかったがヴェルターはダンスが終わるとさっさと背を向けてしまった。それにいち早く気づいてくれたウォルフリックがリティアにダンスを申し込んでくれた。べルティーナ嬢はリティアに笑顔を向け、自分は兄の方へと行った。


 ……余裕だわ。ウォルフリックの愛を疑っていないのね。と、羨ましい気持ちでいた。

「ウォル、彼女とうまくいったのね」

 リティアはべルティーナ嬢の様子からそれを悟りウォルフリックに良かったわねと囁いた。ウォルフリックは顔を赤らめはしたが幸せそうに

「ありがとう」

 と言った。素直な態度にリティアも当てられてしまう。

「実は、早いかなと思うんだけど、プロポーズするつもりだ。正式にスタイニッツ家に求婚の手紙を出す前に彼女に伝えたくて。……うまく言えるかわからないけど」

「ウォル、その気持ちで十分だわ。おめでとう」

「ありがとう。まぁ、結婚となると君の方が早いだろうけど。私たちも、君と殿下のように信頼しあった仲になれるように努力するよ」

「あ、はは」

 リティアは苦笑いでやり過ごしたが、幸せいっぱいのウォルフリックは気づくことはなかった。

「リティア、君はどんなプロポーズをされたんだい。殿下はきっと気の利いたことをされたんだろうね」


 リティアは言葉に詰まった。


「……どう、でしょうね」

「はは。きっと二人だけの秘密なんだね。それはそうか。当てられるな……」


 リティアは微笑みを作る。胸が痛み、苦しいくらいだった。まさか、されていないなどと言える雰囲気ではなかった。


 されていないのは当然だとリティアは頭ではわかっていても虚しかった。政略結婚なんて、そんなものだ。そして、それすらもうすぐ破棄するのだ。リティアはウォルフリックとのダンスが終わると、疲れたふりをして一息つけるところを探した。どう努力しても笑えそうになかったのだ。


 せっかくヴェルターが考える時間をくれたっていうのにこんなところで泣きそうになるなんて。リティアは人気のないテラスへと逃げ込んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ヴェルターは今度はしっかりとウォルフリックと踊るリティアを見つめていた。ダンスが終わるとすぐに会場を飛び出したリティアをすかさずに追った。


 ……シュベリー卿がべルティーナ嬢と結婚するなら、リティアは辛い思いをしている。だけど、これは……そう思うと何も考えられず駆け出していた。まだ、――俺にもチャンスがある、ということだ。


 ――――…………


 外の空気に当たると、意図せずリティアの目からぽろり涙が零れた。

「ダメ、お化粧が……」

 そうは思っても次から次へと涙が溢れた。ヴェルターの気持ちが自分に無いのが辛かった。ずっと隣にいたのに。


 カタンとドアの開く音がして、リティアはわざとらしく咳ばらいをした。誰かが先にテラスにいれば遠慮するのが筋だ。ましてや、先にいるのが女性だとわかればすぐに出て行かなければならない。今は誰とも話したくはないし、話せる状態ではなかった。だが、一向に出て行く気配がなく、リティアは振り返らずに話しかけた。ここにいるのが王太子の婚約者であるリティアだとわかれば慌てて退散するだろうと思ったからだ。権力を使うことにしたのだ。


「すみませんが、ここは……」

 涙で喉が塞がってうまく話せなかったがわかるはずだ。だが、相手は気配はするものの動こうとしない。なんて失礼な人なのかと思った時だった。


「リティア、泣いてるのかい? 」

 声の主にリティアはひっと肩をすくめた。リティアにとって今一番会いたくない人だった。だが、権力を行使するならリティアの方が弱い立場だった。

「ごめんなさい、ヴェルター。今は一人にしてくれないかしら」

 優しいヴェルターならそうしてくれるはずだった。いつもの優しいヴェルターなら。だが、この時はそうではなかった。

「断る」

 リティアはヴェルターの強い口調に驚いて勢いよく振り向いた。そこには怖い顔のヴェルターが強い態度で立っていた。


「君が泣いているのに一人に出来るわけがないだろう」

 驚きで止まった涙が再び溢れる。

「お願いよ、ヴェルター」


 リティアの顔が歪んだ。ヴェルターは何も言わず、一歩一歩とリティア近づくと腕を伸ばし、リティアを胸に引き寄せた。リティアは息が止まった。脳が状況を把握出来ない。ヴェルターはリティアを抱きしめているのだ。状況を把握出来たところで、今度はなぜかが理解できなかった。


 ヴェルターは感情を抑えて生きてきた。これからもそうするつもりだった。だが、この時は例外だった。


「リティア、今、俺にこんなことを言われても困るだろう。だが、最後に付け込ませてくれないか」

「ヴェル、一体どうしたの。離して」

 リティアは自分の心臓がどうにかなりそうで、ヴェルターの胸を押し返したがヴェルターはびくともせず、腕を緩めなかった。


「リティア、俺は何をしても許される身だ。それは、君の言う事を聞く立場ではないということだ」

 ヴェルターはなおも強い口調でそう言い放った。リティアはそれは遥か昔から知っていた。ヴェルターは、この国の王太子なのだから。リティアがヴェルターの優しさに甘えていただけだ。だが、もうそれも出来そうにない。リティアはもうヴェルターを押し返すことはしなかった。

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