1億点
エルヴィンはさっそくディートリンデに初仕事を命じた。
ゲルマニア帝国の情報を教えるように命じたのだ。
ディートリンデは、怜悧な女性だった。
エルヴィンが、真っ先にゲルマニア帝国の情報を欲しがると予想し、膨大な書類を持参していたのだ。
ディートリンデの持参した書類は、ゲルマニア帝国の人材、財政、地理、城塞や砦、各地の貴族の人名一覧、気候、農作物の収穫高など多岐に渡っていた。
情報は時に、一個師団の軍隊に勝る力を持つ。
ディートリンデはそれをよく理解していた。
「見事だ、ディートリンデ」
エルヴィンは資料を見ながら褒めた。
ディートリンデは特に数字に強いらしい。書類は、どれも数学者のように綿密な数値化が成されていた。
「お褒めにあずかり光栄です」
栗色の髪の才媛は誇らしげに言った。
「卿は予の臣下となった。予は有能な人材にはそれに適した地位を与える。ディートリンデよ。卿はこれより、財務大臣となり、予を支えよ」
「ざ、財務大臣!」
ディートリンデは驚いて眼鏡がズリ落ちた。
以外に間の抜けた所もあるようだ。
「不服か?」
「めっ、滅相もありません! か、かような大任を拝命できるとは予想外でした。が、頑張ります。常に1000点の仕事をします」
「常に1000点だと、少々疲れるだろう。身体を壊さぬ程度に勤務に励むように」
エルヴィンが、微笑を向けた。
「ほ、惚れました。1億点です……」
ディートリンデが、小声で呟いた。
エルヴィンには聞こえなかった。