ミネルヴァ皇女とディートリンデ
一人はミネルヴァ皇女。
年齢は10歳。
灰金色の髪と瞳をした可愛らしい少女だった。
明るそうな雰囲気でどことなく、元気なリスのような印象である。
ミネルヴァは、故・皇帝ヴィルヘルムの異母妹だそうだ。
母親の身分が低い為に、ゲルマニア帝国の宮廷から疎まれて、辺境の小さな領主として暮らしていたらしい。
もう一人の女性は、ディートリンデ。
年齢は18歳。
栗色の髪と瞳をしており、眼鏡を掛けている。
栗色の長い髪を後ろで束ねて、紺色のスーツを着ている。
有能な女弁護士、もしくは外資系のエリートキャリアウーマンのような雰囲気だ。
ディートリンデはミネルヴァ皇女の遠戚であり、側近としてミネルヴァ皇女に仕えてきたらしい。
「それで、ミネルヴァ皇女殿下、ディートリンデ卿、お二方は何のために予の前に来られたのか?」
エルヴィンが、二人を椅子にすすめた。
ミネルヴァ皇女とディートリンデは一礼して椅子に座った。
そして、ディートリンデが口を開く。
「エルヴィン陛下に降伏し、陛下に服属する為に参りました」
ディートリンデが、理知的な口調で言う。
「直截だな。ゲルマニア帝国は今だ健在であろう?」
エルヴィンが、試すように問う。
「いいえ、もはや、ゲルマニア帝国の滅亡は明らかです。あのような帝国に固執するのは愚行です。点数で言うなら、0点です」
ディートリンデが、眼鏡をクイッとあげて言う。
(面白い口調の女性だな)
エルヴィンは心中で微笑する。
「何故、ゲルマニア帝国は滅びを確信する?」
「陛下の類い希な『力』によるものです。陛下に対抗出来る武力をゲルマニア帝国は保有しておりません。武力が強いものが勝つ。国家間の関係とは古代も、現代も未来も、永劫に変わる事なく、軍事力によって決まるのです。これは歴史が証明する永遠不変の真理です」
ディートリンデが、淡々と告げる。
「ゲルマニア帝国は卿らの祖国であろう? 祖国に対する忠義はどうなる?」
エルヴィンが、ディートリンデの知能を確かめる為にあえて意地の悪い質問をした。