ブレーデン宮廷魔導師長
彼女たちの手足の爪は全て皇帝ヴィルヘルムによって、剥がされており、身体中には無数の傷跡があった。
「見ろ。エルフの貴族様」
皇帝ヴィルヘルムが、野太い声を出して、エルフの奴隷の首輪を持つ。 そして、彼女を宙づりにして、前方の平原を魅せた。
平原にはアルヴヘイム妖精国軍の死体が散乱していた。
数千のエルフの死体が大地に横たわり、平原が血で充満している。
更に、戦場で生き残ったエルフの男女が奴隷の証である首輪を付けられていた。
エルフの女はその場でゲルマニア帝国の兵士達に強姦されている。
重傷者のエルフはゲルマニア帝国兵が容赦なくトドメをさして殺してた。
「お前の同胞たちのザマを見ろ。これが、我らゲルマニア帝国の力だ!」
皇帝ヴィルヘルムは狂笑した。
エルフの美女が屈辱と悲しみに嗚咽するのを見て、金髪碧眼の皇帝は愉悦で巨躯を震わせる。
「ブレーデリン」
皇帝ヴィルヘルムは、後ろに従う男に声をかけた。
ゲルマニア帝国の宰相、兼、帝国魔導師長ブレーデリンである。
年齢は76歳。
白髪白髭の痩身の老人である。
「我が機械化師団はまさに無敵だな! 全てはそなたの魔導の力添えがあったればこそ。あらためて褒めてつかわずぞ」
皇帝ヴィルヘルムの讃辞に、ブレーデリンは微笑とともに一礼した。
「全ては陛下のご威光にございます。臣下の功績とは、すべからく主君に帰するものにて……」
ブレーデリンの言葉に、皇帝ヴィルヘルムは相好を崩す。
ゲルマニア帝国の機械化師団。
ほとんどの文明レベルが、地球の14~16世紀程度しかない世界おいて、明らかにオーバーテクノロジーである。
この異質な軍隊は、宰相ブレーデリンの手によって生み出された。
今から、10年ほど前、ブレーデリンは召喚魔法を使って、「地球人」なる来訪者を大量に召喚して、奴隷とした。
ゲルマニア帝国の覇道に役に立つ人材を得る為だ。
来訪者の殆どが役に立たない凡庸な者たちだったが、その中に一人だけ、有能な男がいた。
男は「ヨハン」という名前だった。
ナチス第三帝国という国の科学者であった。
ブレーデリンは、ヨハンを奴隷として酷使し、彼の保有している科学技術を魔法を用いて脳内から根こそぎ搾り取ってから殺した。
ヨハンの知識を元に、ブレーデリンは魔導工学によって内燃機関を造り上げ、戦車や近代的な銃火器を造り上げた。
皇帝ヴィルヘルムはブレーデリンに莫大な投資を行い、瞬く間に機械化師団は巨大化した。