反乱軍
翌日の朝。
王城から三つの軍団が進発した。
北部に、エルヴィン、親衛隊長官ルイズ、宮廷警護隊総帥ソフィア。 総兵力は500名。
東部に、近衛騎士団団長グレーテル。兵数5000名。
西部に、王国騎士団団長トリグラフ。兵数二万。
ちなみに北部の反乱軍の総兵力は二万。
東部の反乱軍の総数は、四千。
西部の反乱軍の総数は、一万。
反乱軍には、大小の貴族が参加していた。
ヴァリス王国の国内貴族の内、二割が反乱を起こした。
いかに奴隷制度によって利潤を上げていた貴族が多いかが分かる。
エルヴィンは、愛馬を騎行させていた。
両隣に、親衛隊長官ルイズ、宮廷警護隊総帥ソフィアがエルヴィンを護るようにして騎行する。
空は晴天であり、春の風が吹いている。
エルヴィンは空を見上げながら、
(隣国の三大国が、動けない状況である事は幸運というべきだろうな)
と思った。
東のゲルマニア帝国。
西のガリア竜王国。
南のサルディニア法皇国。
この三ヶ国は、ヴァリス王国の潜在的敵国である。
だが、三ヶ国とも、それぞれ問題を抱えて、現在、ヴァリス王国に侵攻する余力はない。
お陰で、エルヴィンは国内の反乱軍の鎮圧に成功できる。
「あの……、へ、陛下……」
宮廷警護隊総帥ソフィアが、隣を騎行するエルヴィンに声をかけた。
ソフィアは盲目だが、魔力感知で周囲を把握し、聴覚や皮膚感覚で補って、普通人以上に自由に行動できる。
馬にも乗れるのはその為だ。
知らない者がソフィアを見れば、盲目とは思えないだろう。
「何か質問でもあるのか?」
エルヴィンが優しい声を出す。
白い髪のエルフの少女は、エルヴィンにとっては妹のような存在である。つい、エルヴィンはソフィアには優しくなる。
「は、反乱軍は、一万人、……、私達は500人だけ……、少し、兵力の差が、ありすぎ……ない、ですか?」
ソフィアが、恐る恐る尋ねる。
「そうだな。だが、心配は要らぬ。俺がいる。敵兵が10万だろうと俺一人でも勝てる」
エルヴィンは、誇る訳でもなく淡々と言った。
傲慢さは微塵もなく、大胆不敵なセリフを自然体で言ってのけるエルヴィンに、ルイズは微苦笑し、ルイズは少し驚いた。
「それとソフィア、無理して敬語は使わなくて良いぞ。お前に敬語は似合わん。それに俺自身も敬語がないソフィアの方が好きだ」
エルヴィンが、紫瞳に微笑を揺らした。
「あ、……は、はい……」
ソフィアは頬を染めて俯いた。
「陛下は、女の扱いが上手くなってきましたわね。元教師として喜ばしい限りですわ」
ルイズが、笑声をあげた。
「何を言っているんだお前は」
エルヴィンは、本気で分からず、ルイズに問うた。