表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞3

死の双六《すごろく》 賽子《サイコロ》次第でハラキリ候

 猪井直彦いのい なおひこは妻を迎えるために、古田家の屋敷へ来ていた。


 屋敷の門は開かれ、提灯が灯されている。

 月が雲に隠れているので妙に明るく思えた。


 やけに静かだな。


 屋敷の中は静まり返っており、人の気配がしない。


 座敷で一人座っていると、屋敷の主である古田伊左衛門ふるた いさえもんが姿を現した。

 古田は何も言わずに直彦の前に巻物を広げる。


 それは双六だった。


 白い紙の上には空白のマス。

 「あがり」と「ふりだし」だけが書き込まれている。


「どういうおつもりか、古田どの」

「なぁに、ちょっとした余興をと思ってな。

 今からこのマスを交互に埋めていき、

 駒が止まったら書かれている命令を実行に移すのだ」


 そう言いながら、古田は筆を執って空白のマスにこう書きこむ。

 切腹……と。


「ふっ……ふざけるなっ!」

「ふざけてなどいない。

 己の運命を信じて賽子サイコロを転がせ。

 そう簡単に止まったりはしない」


 さすがに躊躇する直彦。


 しかし、逃げたら男が廃る。

 勝負を受けることにした。


 それからマスを埋めて順番を決め、賽子を振った。

 切腹は無事に通過したものの、その先にも試練が待ち受けている。


『辻斬り』『謀反』『直訴』


 一発で人生が詰むようなマスが沢山。

 しかし、直彦はその全てをクリアした。


「大した男だ。しかし……寒くないのか」

「古田どのこそ」


 二人はふんどし一丁の姿。

 直彦は脱衣と書き込んだのだ。


「お互いに運がいい証拠だろう。

 しかし……次は分からんぞ」

「…………」


 上がりの手前にも、やはり『切腹』の文字。

 ここを越えて行かねば勝利はつかめない。


 直彦は最後の一投に力を籠める。

 そして出た目は……。


「がっ……切腹ぅ!」


 最後の最後で切腹のマスを踏んでしまった。


「くぅ……最後の最後で!

 しかし、約束は約束。

 今すぐに切腹を……」


 そう言って自分の腹に刃を当てた瞬間。


「みごとっ!」


 ふんどしを脱ぎ捨てて全裸になった古田が立ち上がって言う。


「直彦殿のお覚悟、確かに見届けたぁ!」

「……え?」

「貴殿こそ、娘の婿にふさわしい!」


 そうか、つまり自分は試されていたのか。

 ようやく義父の意図が分かり、ホッとする。


 すると……。


「お父さん! 直彦さんに何をするつも……あっ」


 妻が障子を開いた。

 彼女の眼には、全裸で向かい合う二人の男の姿。


「失礼しました……どうぞ、ごゆっくり」

「「ちがうっ」」


 なんとか誤解を解いたが、変なしこりが残ってしまった。




 その後も何度か双六に誘われたが、直彦は一度も応じなかったという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 爆笑しました!! なんというかこう、すごく綺麗にオチていて。 時代小説風なところとか、「どうぞ、ごゆっくり」といった台詞に、重なる否定とか、ふんどし一丁からのスッポンポ……とか。 ちょっと…
[良い点] なんだろう、何故か中村主水が浮かんだのは、昼行灯の必殺仕事人の若かりし頃みたいな(笑)
[良い点] 妻「あっ……(察し)」。襖ピシャ。 まあ、結局は仲が良さそうで何よりです笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ