執事の予感
投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。待っていてくださった読者の皆様には非常に感謝しております。
「彼女達を殺したのは貴方ですね、淵獄さん」
静かな空間にユウの落ち着いた声が響く。唖然とする舞と、俯く蓮間。真っ直ぐ蓮間の方を向き問いかけるユウ。蓮間の肩が微かに震えている。ユウがやはり、と漏らしたその直後、蓮間が叫ぶ。
「お前に何がわかる!人を殺したことも殺されそうになったこともないくせに!私は…私は彼女達が好きだった。感謝していた。お前さえ殺せば私は普通の女子学生として生きていけたのに…」
段々弱くなる言葉を聞き終え、ユウが話しだす。
「貴方に命令を出した人を教えてください。そうすれば貴方をこんなバカげた事から解放すると約束しましょう」
ユウが話し終えると蓮間が右手を舞の方に向ける。直後、ユウが舞の元に駆け寄り自分の後ろに引き寄せる。その瞬間ユウへと炎が襲いかかった。ユウへと襲いかかった炎はユウに触れることなく上へとはじかれた。…いや、流された。ユウの能力は『七性七武』《しちせいしちぶ》刀、槍、弓、槌、小刀、盾、自分の七つの武器に、雷、火、水、岩、風、陰、陽の七つの性質を与えて具現する能力だ。例えば剣に火の性質を与えれば炎を纏った剣を具現することが可能となる。そして今、淵獄の炎を流したのはユウの右手に具現した水の盾の力。直進するスピードの遅い物体を水の流れでいなす力。
「さすがだね、ユウ君。じゃあこんなのはどうかな?」
そう言って蓮間は右手を今度はユウへと向ける。そしてまた炎が出る。
「だから無駄だと!」
そう叫び、右手の盾を炎にぶつける。そして炎が上へと昇って行き…旋回してユウの元へと戻ってきた。直前で気づいたユウが左に跳んで避ける。そのまま炎は蓮間の前で止まりユウの方へと旋回する。その炎はよく見ると龍のような形をしており、そのことに今になって気づいたユウは自分の愚かさに苛立ちを覚える。
「気づいたみたいだね。そうだよ、この炎は私の意のままに動く炎龍なの。さあ、君は何分持つかな!」
そう言って蓮間はクックッと声を噛み殺す様に嗤う。その油断しきった蓮間の横顔に一撃入れる為ユウが足に力を込める。蓮間との距離は約8メートル、それを確認するとユウの足元が爆ぜて、大きく抉れる。その音に蓮間が顔を上げると紫色のオーラを纏った拳を大きく後ろに引いたユウがこちらに飛び込んできていた。自分へと勢いよく伸ばされた拳を腰を逸らして紙一重で躱す蓮間。そのままユウの顔面目掛け、思い切り足を上げる。それをユウは左手を突き出して掌から発生させた風で後ろへと下がることで避ける。たたみ掛ける様に蓮間が炎龍をユウに突っ込ませる。ユウはそれを水の盾で流すと蓮間へと駆け出して、6メートル程進んだところで右手に刀を製成し火の性質を与えて飛びかかる。しかしその直後ユウは背後から追い付いてきた炎龍に飲み込まれる。それを確認すると蓮間は舞の方へと歩み始める。しかし、歩き始めて数秒も経たぬ内に蓮間の首に鋭い衝撃が走り意識が遠のいて行く。崩れ落ちた蓮間をそっと抱き抱える白い影…そう、ユウが蓮間の後ろに立っていた。蓮間を床に寝かせると、ユウは、舞の方へと駆け寄り、大丈夫ですか!と、舞の安否を確認し、胸を撫で下ろす。
「大丈夫ですかじゃないよ!心配したんだから!あんな無茶二度としないでね!」
と叫ぶ舞。
「おや、私がどうして燃えていないのか分かったのですか?」
と、問いかけるユウ。その顔は心底不思議そうに月舞の顔を見つめている。その自分が本当に気づけていないと思っている顔に少しだけ不機嫌になったのか
「炎龍に包まれる瞬間に炎刀の炎を強くして、炎に包まれた様に見せかけて背中に具現させた水の盾で炎龍を全て流してたんでしょ」
と唇を尖らせて少し怒った様にユウのトリックを暴く舞。ユウの反応を見る限りそれで当たっている様だ。「というか君、一体どうやったら一撃で人を昏倒なんてさせられるのさ」少し呆れた様に呟く舞。確かに舞の言うように人を一撃で昏倒させるなんてのは人間ではありえない御技である。そんなことを軽くやってのけるユウは人間なのか、はたまた人のカタチをしたヒトガタなのか。そんな疑問が舞の頭にチラリと浮かぶがそれを振り払うように、舞は話題を変える。
「そういえばユウはどうして蓮間が犯人だって気づいたの」
そう問う舞にユウはさも当然といった口調で
「車で流れていたニュースがあったでしょう。おそらく彼女は本来あの事件を餌に私達を誘き出すつもりだったのでしょう。しかし、そこで予想外のハプニングが起こったのでしょう。おそらく、その現場を友人に目撃されてしまった。だから彼女達をここに呼んで気絶させ殺した。しかしニュースでは現場は道路だと言っていた。だから気づいたんです」
その話を聞き舞は、最初からわかってたのか、と安心し深呼吸して意識を切り替え、
「この子が一体誰に依頼されたかを帰ったら即座に調べること、拒否は許可しないよ。わかったね」
と、少し怒気を孕んだ声色でユウに告げる。その怒りは蓮間を雇い、彼女に辛い決断を強いた相手に対する怒りであり、それに従ってしまった蓮間への怒りであった。ユウはその言葉を聞くと深々とお辞儀をして蓮間の方へと向き直り…階段から降りてきた人影に即座に戦闘態勢を取る。人影は階段を降りきると蓮間に近づき抱き上げる。その行動を見た瞬間ユウが
「その人を離しなさい!」
と吠える。
「こいつはまだ必要なんだ。だから離してやるわけにはいかねえ」
人影はユウの威圧感に圧倒されることなく答える。その声を聞くとユウは驚き、あなたは、と小さく呟く。人影はその一瞬の内に廃ビルを飛び出し見えなくなっていた。それを見てユウが平静を取り戻したのか月神へ向き直り一言
「綺麗な月を見ながらゆっくり眠れるのも今日が最後かもしれませんね」
と放ったその言葉の意味を舞はまだ理解することが出来なかった…