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執事は探偵

 「私の親友を殺した異常者を捕まえてください」


久々の依頼はそんな言葉で切り出された。

 遡ること数分前、七月の終わりに差し掛かろうかという頃、とある探偵事務所に少女が来た。

実に十ヶ月ぶりの依頼人になるだろう。『能力』と呼ばれる異能の力が一般的になった今、依頼人が来るのはとても珍しいことであった。しかし、依頼人たる少女は事務所に入るやいなや、下を向いてくるりと踵をかえし、事務所から出て行こうとするではないか。それは店を間違えたとかではなく、事務所の中があまりにも異様だと感じたからであろう。それもそのはず、事務所の中には紫色で蝶柄の着物を着た、まだ顔に幼さの残る、しかし美しさも含んだ美少女と、その後ろに立つ夏なのに長袖長ズボンの白い執事服を着た、これまた美しい青年がいたのだから。そうして事務所を後にしようとする依頼人に、着物の少女が


「ちょっ、ちょっと待って!」


と呼び止める。その声は、鈴の音の様な美しい声で、聞く人が聞けばたちまち恋に落ちてしまいそうな声であった。そして依頼人の少女も例外ではなかったようだ。依頼人の少女もその声に呼び止められてそちらに向き直る。それを確認すると着物の少女は自分と青年の紹介を始めた。


「私は月神つきがみまい、こっちは執事のユウ。あなたは?」


淵獄えんごくです。淵獄蓮間えんごくれんま。歳は十六で、高一です」


淵獄蓮間と名乗った少女は話を続ける。要約するとこうだ。彼女の友人二人が一昨日焼死体として発見された。火元は不明、どうやら廃ビルで焼死したようだ。警察も能力による殺人と考えている。その犯人を見つけてほしいということだ。


「それで犯人を見つけてあなたはどうするの?」


蓮間の話が終わると、舞がそう問いかける。その質問の意味が分からなかったようで蓮間はえっ…、と小さく息を漏らした。


「うちは殺しには加担しないのがルールなの。だからあなたが犯人を殺すというなら私達は協力できない」


そう重ねる舞、その問いに蓮間は困ったように答え始める。


「あまり考えていなかったですけど、きっと自分は真相を知りたいんだと思います。誰が何のために殺したのかを」


蓮間がそう答えると、舞は笑って


「ならば、私達はあなたに最大限の力を貸しましょう」


小さく頷いて見せた。

 話し合いが済むとユウは舞と蓮間に、それでは行きましょうか、と微笑みかける。舞は、それを聞くと席を立ち上がるが蓮間は何のことか分からず困惑しているようだ。それに気づいたユウが


「依頼主は当屋敷に招くのが決まりなので」


と蓮間に優しく語りかける。そう言われて何となく納得したのか蓮間も立ち上がりユウの後ろを歩き出し、5分程歩き大通りにでる。するとユウが腕にはめた時計に向かって何か呟く。その直後ユウ達の目の前に白塗りのランボルギーニを大きくしたような車が止まる。蓮間が呆気にとられていると、舞が蓮間の手を引いて車に乗り込み、最後にユウが乗り込んだ。ユウがアクセルを踏むと車は軽快に走り出す。


「この車はユウが作ったのよ。ユウは、何でも自分で作れるの。すごいでしょ。」


舞はそう言って少し誇らしげに笑ってみせる。その笑顔は、とても無邪気で眩しく見えた。車のラジオではニュースが流れておりニュースキャスターが一昨日起こった中学生少女二人の焼死について話している。そうこうする内に屋敷についた。その屋敷は尋常ならざる存在感を放っている。大きな門に三百五十坪はあろうかという屋敷、こんなものがこの街にあったのかと、蓮間は驚くと同時に少しの恐怖を覚える。これほどまでに大きなものを簡単に隠せてしまう人間。つまりは、ユウという『ニンゲン』に。蓮間がそんなことを考える間にユウは門の数百とある認証コードを打ち終える。すると門は大気を震わせながらゆったりと開いていく。門が完全に開ききると、奥からメイドが一人歩いてくる。メイドはユウ達の前まで来ると、スカートの端を摘み深々と頭を下げる。


「お帰りなさいませユウさん、舞様。そちらは?」


「こちらは今回の依頼主の淵獄蓮間様です。淵獄様、この方は、当家のメイドの有栖川命ありすがわみことさんでございます」


ユウは手早く紹介を済ませると、


「それではわたくしは、準備があるので」


と言い残し屋敷の中へと小走りに行ってしまった。ユウが行ってしまった後、ではこちらへと、命は二人を屋敷の中へと案内する。屋敷は外見も中も洋風で至る所に煌びやかな装飾を見ることができた。しかし、それは嫌になるようなものではなく、渋みのある雄大さを感じさせてくれるものだった。入るとすぐ広いロビーに出た。ロビーの左右には扉があり、廊下に続いているようだ。正面には左右から伸びる階段があり二階へはそこからしか行けないようになっている。蓮間は初めて見る造りに声も出せずに感嘆しているようだ。そんな蓮間の様子に気づいたのか、舞が蓮間に声をかける。すると蓮間は、少し恥ずかしそうに俯き、小走りに舞のもとへとやってきた。舞は蓮間が駆け寄って来たのを確認すると、また歩き始めた。少し進むと、命が足を止めて、こちらでございます、と扉に手を掛ける。ガチャリ、という音をたて扉が開く。その部屋はきっと客間なのだろう、中央に少し大きめの丸い机があり、それを取り囲むように、五つの椅子が並べられている。蓮間は、その椅子のうちのひとつにかけ、舞と命は蓮間と向き合うようにかける、しばしの沈黙の後、程なくしてユウがやって来た、ユウは宝玉がはめられた手甲を抱えている。その手甲をユウは舞に渡すと


「準備が終了いたしました。現場へ向かいましょう」


と言って舞に手を差し伸べた。 

 命を屋敷に残して、ユウ達は事件の現場へと向かう。現場は焼け焦げた匂いの残る廃ビルだった。ビルは5階までありさらに地下まである広いビルだった。そこに昔、人が住んでいたとは思えないほど暗く、寒かった。蓮間によると、殺人が起こったのは3階らしく、そこをユウが見に行った。舞と蓮間は1階に残り2人で話をしていた。


「亡くなったあなたのご友人について聞かせてもらってもいいかしら」


舞が蓮間にそう問いかける。


「何故そんなことを聞くんですか?」


小さく震える声で蓮間はそう呟く。


「あなたのご友人がどんな人間かを知れば少しとはいえ、犯人に繋がる可能性があるの。だから教えてくれないかしら」


それを聞き少し安心したような、けれどもどこか悲しそうな顔で蓮間は話し始めた。


「二人は気づいたらそばにいて微笑みかけてくれるような優しい子達だったんです。それなのに最期が他人の手で灰にされてしまうなんて…」


蓮間がそこまで話し終えるとユウが階段を走って降りて来た。3階にいた時間はものの数秒程度だったが何かに気づいたのだろう。ユウは降りてくるや否や舞のもとへと走り寄り


「犯人がわかりました」


と呟き、そこで少し間をおく。しかしその間に堪え兼ねたのか舞がユウに問いただす。最初は言い逃れようとしていたユウも、さすがに観念したのか。犯人の名を口にした。


「彼女達を殺したのはあなたですね、淵獄さん」

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