01話 僕はサラマンデル。炎の化身
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僕を呼ぶ声がした――
声に導かれて、僕の意識は鮮明さを取り戻していく。
風の音。草のにおい。やわらかな光――
ぼんやりとしていたすべてが、勢いよくはっきりしたものに変わってきて、
五感が教えてくれる。ここが緑にあふれた森のなかだと。世界は風にそよぐ枝葉の音と木漏れ陽に満ちていた。
僕の横には、金色の長髪をポニーテールにした人間の女の子。
そして、
「こいつらが、敵?」
目のまえに緑色の小鬼が三匹、棍棒をもって僕たちを威嚇していた。
「……みたいね。倒すの手伝ってほしいな」
彼女の言葉に、求めに、僕は応える。
「わかった、まかせて!」
潜ませていた力を解き放つ。紅々と輝く身体をより煌めかせて、素肌の焔を外界へ迸らせる。花びらのように体表から火の粉が舞い乱れ、そして散った。
小鬼たちが後ずさりしても、僕は力を放ち続ける。
僕は四精霊サラマンデル。炎の化身。
――
――
戦いは想像よりもはやく終わった。飛びかかってきた一匹を火に消し炭にしたとたん、ほかの二匹が逃げ去ってしまったのだ。
すぐに森は何ごともなかったように、ひっそりとした世界を僕たちにみせた。涼しい空気に、小鳥のさえずりがこだました。
彼女に召喚されるのはいつものこと。だけど今日はとくに僕の調子が良かったみたいだ。冒険者の彼女を十分に守れたことが、ちょっと誇らしい。両手を空に伸ばして背伸びをした。
「……そう、だった。小鬼と戦っていたのよね」
つぶやき、彼女は僕に顔を向けた。幼さがのこる顔立ちを引き締める、凛々しい青い瞳。黄金色の麦畑のような、優しい色合いをした艶やかな髪が木漏れ日に輝いている。
「ありがとう、フラム」
フラム――それが僕の名前。彼女の名は、エマ。僕たちはたがいに契りを交わした、見習い冒険者どうしだ。
彼女の姿にやっぱり気後れして、僕は目を泳がせる。本当はそうしたくないのに。
胸の奥がぎゅっと縮こまる感じがする。
「え、えっとさ。そろそろ帰っても大丈夫かな。また、呼んでね」
真逆なことを口走ってしまう。そんな自分に重いため息をつきたくなる。
今日も僕は、いつもどおりの僕だ。
「まって。……行かないで」
「えっ……?」
思わずエマをみる。彼女の、心の底を見透かすように澄んだ青い瞳は、どうしてか今日は涙に滲んでいた。なぜだろう、なにか違う……そんな気がする。
――この森にいたとき、彼女に感じていたものは、ただそれだけだった。