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(8)やっぱりこんなん、ただの呪いじゃねーか!

 ローズブレイド王国、第一の姫を連れ帰った勇者を、王都は盛大な喜びとともに迎え入れた。私にとっては数年ぶりの帰宅だ。

 お父様に抱きしめられて、お母様に抱きしめられて、かつての師や、馴染みのメイドや、他の懐かしい顔に会うこともできた。周囲から些かならず過保護にされたのには、少しばかり辟易としたけれど。

「ヴィクトリアよ、また攫われでもしたら……」

「大丈夫よ、お父様。もう攫われたりしないわ」

 確信を持って、父に言った。


 何しろ私は、呪いに打ち勝ったのだから。


 三日前、タコの魔物に襲われた日、呪いは発動しなかった。

 水の中に引き込まれはしたけれど、完遂はされなかったのだ。私は、自分が攫われる前に魔物を倒しきった。

 それからしばらく警戒していたけれど、他の何かに襲われることもなく、道中は平和なものだった。だから余計な時間を取られずに王都まで駆け戻ってこられたのだ。

 きっと、ウィリアムとの出会いがきっかけになったのだろう。彼が、私の運命を変えたのだ。

「お父様、リアムはどこ?」

「勇者ウィリアム・ウィリアムズなら今は控えの間にいるよ。宝箱の下賜が終わったら召し抱える予定だ。ヴィクトリアを連れて帰ってきてくれたのだからな」

「楽しみだわ」

 にっこりと、私は微笑んだ。彼に稽古をつけるのは楽しそうだ。

 私の呪いはすでに解けて、宝箱の力によってウィリアムの呪いも解ける。呪いを解いた勇者と姫を迎えるのは、大団円のハッピーエンドだ。

 考えて、私は上機嫌にドレスの裾を翻して王宮の階段を駆け上がった。



 そして、勇者は宝箱を受ける。


 広間の上段から、ウィリアムの姿を見守った。

 国王からの呼びかけに震える声で応えて、進み出る。あまりにぎくしゃくとした動きに、途中で転びやしないかと余計な心配ではらはらした。

 ウィリアムが、国王の前に立つ。父の後ろに控える私と、

 ――眼が、合った。

「―――……」

 私はそっと、少年に頷いた。

 彼も小さく頷きを返して、国王に向き直る。一礼して、宝箱を受け取ろうとする。

 会場に集まった全ての人間が息を飲んだ、瞬間。


 凄まじい音とともに広間の天窓が割れて、場は混乱に陥った。

「何ごと!?」

 近衛兵に守られながら周囲を見回す。ウィリアムがこちらに駆けつけようとしているのが見える。

 その、背後から。

 少年を追い越した影が、私に襲いかかる。

「馬鹿ね、この程度――」

 言って腰の剣を抜こうとして、驚愕した。体が思うように動かない。


 例の、《《忌々しい呪いのように》》。


 一瞬の隙は致命的だった。

 黒い何か――犬と人のミックスみたいな姿だった――が、私を攫って跳ね上がる。あっという間に床が遠ざかる。

 ウィリアムが私の名を呼んだ。けれどもう、追いつけないだろう。

 そんな、

(呪いは解けたはずじゃ)

 まさか、勘違いだったとでも言うのか。私にはまだ、呪いが纏わりついているのか。

 《《俺を転生させた》》、《《謎の声を思い出す》》。


『――いずれ素敵な勇者と巡り会えるよう、三日に一回攫われる姫として転生させてやろう!』


 やっぱりこんなん、ただの呪いじゃねーか!

 《《転生して俺TUEEEしようと思ったらうっかり姫になった上に呪われるなんて》》。

 本当に本当に本当に本当に――

 俺の人生、


「どうしてこうなったああああぁぁー!?」


 俺の悲鳴が、遠のく広間にこだました。

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