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(1)それは祝福ではなくて、呪いというのでは?

 ○○○○は、死んだ。



「――あー、もし?」

「……ぅ……」

「お、聞こえているな。大丈夫かい、坊や」

 呼びかけられて、薄らと瞼を上げた。

 眩しい。眩しくて、何も視界に映らない。

 すぐに眼を閉じて、しばらく瞼を擦って、また眼を開いて、気づいた。

 違う、何も視界に入らないのではない。本当に、何もなかった。何も。

 横たわった体勢から、がばりと体を起こす。いつの間に寝ていたのかも判らない。

 白い。白い。白い。何もない。


 ただただ白い空間が、周りを囲っている。


「え、どこ――」

「おはよう。目覚めはどうだい?」

 突然どこからか声をかけられて、驚いた。勝手に体がびくりと跳ねる。

 そう言えば、今の声が聞こえて眼が覚めたのだった。

 慌てて周囲を見回してみる。けれどやっぱり、どこにも、何もない、白い空間だ。


 ただただ白い、箱の中。


 思ってから、違う、と否定した。箱、ではない。壁もない、天井もない、床すらあるか判らない。

 白い霧の中に放り出された、というのもちょっと違う。

 的確な表現を探している間にも、声が話しかけてくる。

「おめでとう! 君は今から強くてニューゲームだ」

「ニュー……?」

 若い女性とも、老いた男性とも取れる声だった。そもそも本当に《《聞こえて》》いるのだろうか。

「ごめんね、本当はあの猫が死ぬはずだったのだけれど、わたしのうっかりで君が死んじゃったのだよね。というか、猫を助けるだなんて格好良いじゃないか。ひゅーひゅー!」

 いやーうっかりって恐いよね、はっはっは。そんなことを言う相手は誰なのだろう。

 ぼんやり聞いていると、相手はこほんと、一つ咳払いをした。

「そんなわけで、お詫びに別の世界に生まれ変わらせてやろう! 楽しいぞー!」

「は……?」

 一方的な物言いにさっぱりついていけなかった頭が、ここにきてようやくある可能性を示した。これってもしかして、異世界転生ってやつなのでは。

 ほら、漫画とか小説でよくあるし。

「て、転生……みたいな……?」

「それだ。よくあるやつだな、うん」

 肯定されて、じわじわと楽しみになった。転生した先でチート、だなんて、憧れないわけがない。

 そんな期待を、面白がるような声音で。


「伸るか反るかは君次第だ、少年! 異世界転生、行っとくかい?」

「もちろん!」


 力強く頷いた途端、白い空間が発光した。

 正確には発光したのか、よく判らない。ただ今までは自分の腕が見えていたのが、どんどん薄れていく。

 沈んでいく意識の中で、独り言のように。


「――あぁ、そうだ。君にとっておきの祝福をやろう! ―――……」

 その言葉を皮切りに、加速度的に何もかもが遠のいていく。言葉にならなかった台詞が、思考の端に浮かんで、消えた。


 ……それは祝福ではなくて、呪いというのでは?

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