第39話 傷痕
今回は短め
「んっ……いっ!」
「レイ!」
体を起こすとあちこちが悲鳴を上げた。
痛みに悶えているとカナデがテントに入ってくる。
「ここは…」
「騎士団の仮設医療所。王城の隣の広場だよ」
「あれからどうなった?」
「サキュバス達は撤退したけど…被害は少なくない」
「そっか…」
あの状況からしてそれは想像がつく。
メリアの魔法で学校も一部吹き飛んだしね…
「レイは……友人は多い方だったかな?」
突然カナデにそんなことを聞かれる。
「いや…あんまり多くは無いけど…」
「そうか…」
なんだか歯切れが悪い。
「どうかしたの…?」
「いや、少し歩いたところに、犠牲者達が並べられている……とだけ言っておくよ…
サキュバスの子も一緒に並べられてる」
「………」
……なるほど…
「んっ……あ、レイ…カナデも…」
「メリア!」
メリアもどうやら気がついたようだ。
メリアにも同じように説明しておいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気を失ってから2日が経過していたらしい。
その間カナデ達は治療を受けたあと、できる範囲で事後処理を手伝っていたという。
そして、カナデに言われた場所に来た。
たくさんの遺体が並べられていた。
その中の一つ、元々の物より膨らんだ胸部や、本来人間にはない羽や尻尾を携えた少女だ。
それは、俺達が倒したサキュバスだ。
元々はただの女子生徒だった、名も知らぬ相手。
その前にしゃがみ込み、目を伏せて手を合わせた。
メリアも隣で同じようにしている。
「あなた達は……」
しばらくそうしていると背後から声をかけられる。
「白髪の獣人に…ミエーラ伯爵令嬢……あなた達……」
ブツブツと小さな声で少女は何かを呟くと、
「どうして……どうして! どうしてシュナを殺したの!!!」
そう叫んだ。
「待っ!」
反論しようとしたメリアを手で止めて前に出る。
「あなた達が! 殺したんでしょ! どうして殺したの! どうして…どうしてそんなに強いのに助けてくれなかったの!!!」
悲痛な叫びが響き渡る。
彼女の叫びは、本来彼女をサキュバスにした、リリアに向けられるべきだ。
よってこれは八つ当たりにすぎず、不当な怒りをぶつけられている。
だけど…世の中理屈じゃない。
その八つ当たりで少しでも気が晴れるならそれでいいと思うんだ。
「ごめん…助けられなかった」
「っ!」
一言、そう告げる。
「っ…うっ…ひうっ…」
どんな罵倒も今は受けるつもりで堂々と立っていたのだが、彼女は泣き出してしまった。
理性ではわかっていたんだろう。
でも、そのやり場のない怒りをぶつけ、思いが溢れてしまったようだった。
しばらく彼女は泣き続けていた。
落ち着くまで俺達はそばで待ってあげた。
その想いは、死んでしまった友人への悲哀からか、何もできなかった自分への無力感からか、彼女はただ泣き続けた。
これ以上…こんな想いをさせる人を増やしてはいけないな…
もっと強くならなきゃいけない…
泣いている少女の傍ら、そう決意を新たにするレイだった…