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イリナと魔王2

※一部、グロテスクな表現があります

ルビウスが先導し、その数歩後ろをイリナが歩く

そしてこの微妙な距離感に先に負けたのはイリナだった。


「ところで、あなたは人間になれるの?」


今までのことが全て夢だと結論付けたイリナの警戒心は薄れ生来の好奇心旺盛な部分が隠せていない。


「あぁ、元は人間だからね。でも、猫の目があそこまでいいとは予想外だった」


ルビウスが言うには、猫の時は、真っ暗でも鮮明に見えるそうだ。そのため、イリナが見えてないのが自身の小ささにあると思い人間の形になったらしい。


「そもそも、人型になれるならこれからもその方が便利じゃない」

「それが、そうも行かない。僕がこの姿になれるのは夢の中か、満月の夜だけさ」

「なんだか、狼男みたいね」

「正確には、猫男だけどね。ついたよ」


前方を歩いていたルビウスが、止まった場所にはいくつもの扉が浮かんでいた。

花柄、水色、星、森とさまざまな柄の扉があるなかで、ルビウスはシンプルな焦げ茶の扉を選んだ。


「さぁ、これから君には神話の世界を体験してもらおう。覚悟はいいかな?」

「ええ、これをみたらあなたについて分かるのね」

「うん、まぁ………多少はね?」


はぐらかしたようなルビウスの返事を聞きながら、イリナは扉のノブに手を掛けゆっくりと開く。

なかにはいると一人の男が、石に磔にされていた。さらには、その男の内蔵を鳥がついばんでいる。

思わずイリナは、ここまでのこのことついてきたことに後悔した。冷や汗が止まらない。

自分もこんな目にあわされるということなのか。


「落ち着いて、これはただの幻だよ。言葉で説明するよりこの方がわかりやすいかと思って」

「彼は、誰?」

「人に火を与えた神だよ」


男の叫び声が響く、1羽が彼の肝臓を取り出そうとしているところだった。


「彼は火を与えた罪で、ここで父神からの罰を受けていたんだ。そして、彼は英雄に助けられ、ようやく罰を受け終わったんだ」


ルビウスが、突き出した右手を真横にスライドさせると場面が変わる。

先程まで苦しんでいた男が今度は地面にうずくまっていた。


「そして、解放された神は真っ先に人を見に行った。なぜなら、自分が与えた火をうまく使えば、誰もが幸せになれるはずだと彼は信じていた。だから、こそあの拷問うけたのだとね。でも彼がみたものは理想とは掛け離れていたんま。人々は、火に魅入られ争いが絶えず、殺し合い、奪い合うようになっていた。」

「そんな、じゃあ彼が受けた罰はなんのために」

「そう、だから神は絶望した」

二人の視線の先にいる神が動く。

背中からなにかがうごめいている。

そのせいか、拷問の跡からは血が滴りやがて大きな水溜まりとなった。

それでも、神は動かない。


「心が刷りきれてなけなしの理想も打ち砕かれた彼は、もう絶望に耐え切れなかった。だから、彼はそれを切り離した。」


だが、それは過ちの始まりだった。


水溜まりが沸騰したように気泡ができては消える。最初は遅く、そして段々速く。

そして、一度溜めるように気泡が全てなくなったときそれは現れた。

黒く腰まである黒髪に、赤い血のような瞳。

それは、イリナのとなりにいるルビウスと瓜二つの顔だった。

違うのは、その顔に浮かぶ笑みだけ。

血溜まりからできたそれは、慈悲のような柔らかい笑みを浮かべうずくまる神を抱き締める。


「魔王」


イリナが、そう呟くとそれはこちらを見据えた。

幻がこちらを見つめ、イリナはその目を反らせなかった。

しかし、それも突然終わる。

ルビウスが、指を鳴らすと誰もいなくなったのだ。


「魔王は、争いのない幸せな世界を作ろうと世界を蹂躙しはじめた。奪い合うものからは全てを奪い、殺し合うものを殺し尽くす。人々から火を奪いとり、その火で町を焼く。」


ルビウスの淡々とした声が続く。


「でも、そんな魔王も自分を産み出した神には逆らえない。神は、魔王捕まえると宝石に閉じ込めて、自分の血を与えた人を作りその宝石を預けた。

それが、魔王の物語だ」


ルビウスが、話し終えると部屋のなかは静寂に包まれる。


「まるでおとぎ話ね」


イリナが、寂しげな音の言葉を紡いだ。

それに対して、ルビウスは明るく言葉を続けた。

「そのとおり、今よりずっと昔のことなんてみんなおとぎ話さ」

「………あなたは、魔王なのよね」


幻をだしている間、ずっとみれなかった顔がこちらを向く。その顔は、悲しい微笑みを浮かべていた。


「………部屋を出よう」


そういって部屋を出ていくルビウス。

それに続こうとイリナは歩き始め扉を潜る前に後ろを振り替える。

その後ろにはもうなにもなくなっていた。



「さて、そろそろ夢から出ますか」

「あぁ、もう起きる時間なのね」


夢の中でも、疲れるものなのだろう欠伸を噛み殺したイリナは目元にたまった涙をぬぐう。

しかし、今日の夢は濃厚だった。

起きたら忘れないように、魔王のことを記録しておこう。

そこでふとなにかが落ちる音がした。

ルビウスは、もう猫の姿に戻っており目を覚ます準備をしている。

正体がわからず、振り向くと先程の『魔王』がいた。

さっき部屋を最後にみたときにはいなかったのに。

イリナに続いて、ルビウスもそれに気づく。


「イリナ!速くこっちに!!」


しかし、ルビウスより『魔王』のほうが速かった。

イリナの右腕をつかむとぐいっと引き寄せる。

そしてその瞬間イリナの意識が遠ざかっていく。


「あの子のことよろしくお願いしますね」


ブラックアウトしていく景色のなかで、最後にみたのは、あの慈愛の笑みだった。

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