イリナとナタリア 1
アルマンとの朝食を終えたイリナはナタリアを連れて部屋に戻った。
イリナは、ナタリアが紅茶を淹れてくれるのを待ちつつ、昨日書き終えた手紙の添削を始める。
1通目には、マリア王妃にあてた舞踏会への参加の返答を、2通目にはバザーの手伝いをするはずだった孤児院の院長宛てに、約束を反故にするお詫びと前日の準備を手伝いたいとつづった手紙だ。
順調にいけば、今日の午後には届くはずなので返事は早くても明日になるだろう。
内容に間違いがないことを確認したイリナは封蝋を施しナタリアに手渡した。
「ナタリア、これをお願いできるかしら」
「はい、かしこまりました」
紅茶を淹れ終えたナタリアに手紙を渡すと快く引き受けてくれた。
昨日の夕食の時にそばに控えていたナタリアは、すぐにそれがどこ宛てかを理解してくれたようだった。
「お嬢様、本当に舞踏会に参加されるんですね」
「そのつもりよ。準備をお願いできるかしら?」
「えっとその件についてなんですがお嬢様……ご相談がありまして」
ナタリアは唇をぎゅっと握りしめ思いつめた顔をしている。イリナは、ナタリアの様子にただ事でない雰囲気を感じ取ってカップをソーサーに戻し真剣に向き合った。
2人は見つめあい、幾ばくかの沈黙が降り注いだ後、意を決したナタリアが声を出した。
「今日の午後わたくしにお時間をいただけないでしょうか!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
初夏の陽気な光が降り注ぎ、行きかう人たちの笑顔がまぶしく感じる。
そんな街中を走る馬車の中にイリナとナタリアは向かい合わせに座っていた。
そして、なぜかついてきたルビウスはイリナの膝の上でしっかりで眠っている。
ナタリアのお願いを聞いたイリナは、パンドラの中心街へとやってきていた。
「お嬢様とお出かけなんて久しぶりですね」
「そうね、このままお茶をして帰りたいわ」
「それはいいですね!用事を終わらせたら参りましょう!」
「………」
ナタリアの言葉に無言で返したイリナだが、それくらいではナタリアの機嫌を損ねることはない。
気乗りのしないイリナとは反対に外の陽気をそのままもってきたようなナタリアは絶好調である。
イリナとナタリアは今、ガートルード家ご用達の仕立て屋に向かっていた。
普段は仕立て屋に家に足を運んでもらっているのだが、今回は1週間後の舞踏会用のドレスを仕立てるため実際に仕立て屋に足を運ぶこととなったのだ。