イリナと特訓 2
翌朝、ルビウスはぐっすり眠っていたイリナを文字通り叩き起こした。
そして、眠気まなこのイリナをテラスへと導き、隅に置いた苗木の前に連れてくる。
イリナは促されるまま苗木の前に座り込むと異変にすぐ気づいた。
昨日まで20センチほどの大きさがあったはずの苗木が何故か一回り小さくなっている。
「植物って枯れることはあっても縮まないよね?」
「この苗木は君の魔力から生まれたものだから、水の代わりに君の魔力を吸収して大きくなる。その逆もしかりってことさ」
イリナが苗木に触ると、嬉しそうに葉が揺れるがやはり元気がない。
ルビウスは鉢植えの前をぐるりと一周するとその場に座った。
「このまま置いておくとどうなるの?」
「枯れてなくなって、君はもう二度と魔法が使えなくなる……かもしれない」
「なら、この子に魔力を上げなきゃね。どうやったらいいのかしら」
イリナの問いかけに、先ほどまで自信がなさそうな物言いだったルビウスだが、得意気な顔をして話し始めた。
「まずは対象物に魔力を注ぐためには正確なコントロール力が必要だ。今の君の練習にはぴったりだね」
「なるほど。つまりこれが魔法の特訓ってわけね」
「その通り。じゃあ、まずは両手を前に出して手のひらから魔力の粉が出てくるのをイメージして」
イリナは言われた通り手を前に出して苗木にかざすと目を閉じ、自分の手からあの金の粉が出てくるようにイメージしてみた。
「こ、こうかしら」
「うん、いい感じだよ。じゃあそれをそのまま苗木に注ぎ込むように。慎重にね」
ルビウスの支持の通り手に集めた魔力を苗木に注ぎ込むように流していく。
(そういえば、ルビウスは鉢の横にいたわね)
見た目だけは可愛いルビウスだ。
輝く粉を浴びながらそれと一緒に子猫が遊ぶ。
そんな情景をイメージしてしまったイリナは思わず顔がにやけた。
と、その時だった。
ボンッと何かがはじける音と共にルビウスのひしゃげた声がした。
勢いよく目を開けるとルビウスの体を覆うようににこんもりと金の粉の山ができていた。
イリナは、慌ててその粉を払うとジト目でこちらを見ていたルビウスを抱きかかえる。
「これはどういうことなの」
「僕が聞きたいよ。ちゃんとイメージは保ったままにして。はい、じゃあもう一回」
「わかったわ。次こそは成功させるんだから!」
イリナは、すぐにルビウスを降ろし再び両手を苗木にかざす。
今度はちゃんと手に集めた魔力を苗木に注ぐイメージをしながら意識がそれないように集中する。
しかし、今度は反対に金の粉は待てども待てども出てくることはなかった。
ルビウスの痛いほどの視線を感じる。
「ねぇ、イリナ」
「なによ」
「君、実は不器用なんだね」
その後も二人の特訓はナタリアがやってくるまで続いたが、一向に魔力を注ぐことができないままお開きとなったのだった。