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イリナ休息をとる

「でも、まさか失恋で死ぬんじゃないかなんて。そのおばさんにも困ったものだね」


ルビウスはベットに飛びのり、日当たりのいい場所でくるりと丸まった。

ちょうど枕の影に隠れ、扉の死角になるそこは最高の寝床である。


「じゃ、僕は疲れたから寝るよ。午後からはキミものんびりした方がいい」

「え、ちょっと待ちなさい」

「おやすみー」


一刻も早く魔法を使えるようになりたいイリナは焦りからルビウスを止めるも、それを気にもとめず眠りにつくルビウス。

ついさっきまで起きていたのに、すでに寝息をたて始めていた。

そんなルビウスを起こそうとイリナは声をかけるも返事はない。

かくなるうえはと、無理やりにでも起こそうと苛立ちのまま近づいたところで扉のノック音が部屋に響いた。


「お嬢様、お食事をお持ちしました」

「ありがとう、入って」


イリナが、ルビウスから急いで離れ椅子に座ると同時に、ナタリアが昼食を積んだワゴンを押して部屋に入ってきた。


イリナは、ナタリアの顔からすでに涙がないことにほっとしつつも、ルビウスへの苛立ちを隠しなるべく普段のようにしようと努める。


用意されたのは野菜のサラダと半月型のパイ2つの軽食だった。コーニッシュパスティと呼ばれるそのパイの中身には特別な決まりはなく、その見た目と中身が変わることから、まるで異国のおみくじのようだとイリナは常々考えていた。


「ありがとう。今日のパイの中身はなにかしら?」

「牛肉とじゃがいもを詰めたものと、お嬢様の大好きなリンゴの2種類となっています」


イリナは、パイの中身を聞いて苦笑いをこぼす。

リンゴのパスティはイリナの大好物の一つである。

しかし、まるでパイに自分の気持ちを読まれ、好物で機嫌をよくしろとでもいわれているようだった。


「まさに最高の昼食ね」


それならば、大人しく機嫌を治すとしよう。

イリナはパイに、ナイフをいれ自身の口に運ぶ。

すると口のなかには甘酸っぱい果汁が溢れ、イリナの気持ちもその甘さに流されていくようだった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





最後の一口に至るまで黙々と食べたイリナは、部屋で一人ナタリアの淹れた紅茶をのみながら、のんびりとした午後のひとときを過ごしていた。


いつもなら頑なにお茶が終わるまでは一緒にいるナタリアに、休憩をしっかりとるように言い含めて昼食にいかせた。


(私のせいであの子が、ご飯を食べ損なうなんて絶対にだめだもの)


部屋の中の時計はすでにお昼を過ぎ、3時を指している。

今からでも昼食をとれればしっかり休憩もとれるだろう。


二杯目からはお茶が渋くなるので、ミルクをいれ、部屋に常備されているお菓子をつまんだ。どうやら、先程の苛つきも焦りも影を潜めたようだ。

なんとも都合のいい自分の心にため息をつきながら、そのあともまったりと読書をしながら時間の経過を楽しんでいると、ベットの影からのっそりとルビウスが起き上がったのがわかった。


「あら、ルビウス起きたのね」

「うん、おはよう」


まだ寝ぼけているようなルビウスは、そのままイリナの右横まで移動し体を寄せてくる。そうするとルビウスに接している太ももからは、暖かさが伝わってきた。


「あなたにお日様の暖かさが移ったみたいね。とっても心地いいわ」

「勘弁してよー、僕真っ黒だから暑いんだよー」


そう言いながらも体を寄せてくるルビウスにすっかり気を許したイリナは、その体を撫でる。そこでふと彼が朝からなにも食べていないことを思い出した。


「お腹空いてない?なにかたべる?あ、でも猫が食べていいものがわからないわ。玉ねぎはだめだと聞いたことがあるけれど」


なけなしの知識を振り絞って考えたが、それくらいしか食べ物がでてこない。しかし、ルビウスは、首をふるふると横に降った。


「僕は食べなくても大丈夫なつくりだから。でも、本物じゃないからなんでも食べれるとは思うよ」

「そう、嫌いなものはない?」

「………トマト」


なんとも意外な答えだ。

しかし、それ意外ならと試しに紅茶用の余っていたミルクをソーサーに移す。すると、鼻をひくひくさせたあと目を開けて起き上がり、ミルクをのみ始めた。

しばらくその姿を眺めていると、どんどん尻尾が嬉しそうに動きだしやがてソーサーの中身はきれいになくなっていた。


「ミルクがこんなに美味しいなんて知らなかったよ。でも、次はお肉とかたべたいな」

「ふふ、わかったわ」


顔についたミルクまで舐めとったルビウスの顎を撫でると、満腹のためかイリナの膝の上でウトウトとしはじめた。

再び体を撫でるとこくんと頭が下がり、完全に眠りについたのがわかった。

イリナは、その無防備な姿に思わず吹き出す。


(本当にこれが魔王なのかしら)


そして、なんの記憶と結び付いたのか朝のアルマンとの会話を思い出してしまった。


「マリア王妃の招待状のお返事なんて書こうかしら」


イリナは、迂闊に動けないまま新しい悩みの種に頭をひねるのだった。

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