7話 ひとめぼれ
※米ではないです。米印は米ですがタイトルは米じゃないです
胸が高鳴った。真紅の髪を携えた可憐というかなんというかもう本当にこの世界のものなのかと疑ってしまいたくなるくらいに美しく可愛らしい少女を見て、こんなにもこの世界は美しかったのだと再認識した。
色鮮やかで、幸せに満ち満ちているこの世界が大好きだ。生まれてこれてよかった。
シャルナ先生、リュウガ、心からありがとう。今日僕は世界の尊さを知ったよ。
これが、ひとめぼれ……
家族三人で歩く道程、レオニスはリュウガへと疑問を投げかけていた。
「炎舞って僕には使えないんですか?」
「さぁどうだろうな?使ってみればいいんじゃないか?」
「どうやって使うんですか?」
「そうだな。こう、全身を熱く燃えたぎらせればいけるぞ!はぁああああああ!!みたいな?」
「自分自身で疑問持ってどうするんですか……」
あいも変わらず要領を得ない、教える人間としてはっきり言って終わっているような感じの回答にレオニスはそっとため息をつき、救いを求めるようにシャルナの方へと視線を向けた。
「よくわかんないけど、私に炎舞は使えないわ。オリジナルっていうのは、あの、その、なんなのかしら?」
「……!?」
驚愕。ただひたすらに驚愕。あのシャルナ先生が!?全知全能と名高いシャルナ先生が!?
オリジナルというのがやばいというのが理解できた。これはやばい。シャルナ先生が知らないものということは世界の真理なのかもしれない。
触れるのは危なさそうだ。でもまぁちょっとだけ試しておこう。
熱く燃えたぎるのは神力の熱のはず。なら全身に神力を流して、発熱。
……?出来ないんですけど。
これがオリジナル。やはりリュウガにしか出来ないのかもしれない。諦めよう。
「やっぱ出来ないです。なんか腹立ちますね」
「わかるわ。なんでリュウガだけが出来るのかしら?」
「才能じゃないか?俺って天才なのかもな」
そっとリュウガの右足を踏む。左足はシャルナ先生が踏んでいる。
「すいません。足が滑りました」
「ごめん。ちょっと足が滑ったわ」
「……」
そんなこんなでミドラへとたどり着いた。
イエレンとの決定的な違いは空気。全く違かった。
砂漠地帯のイエレンとは違い、緑のあふれるミドラ。空気が新鮮で吹き抜ける風が心地よかった。
イエレンからは霞んで見えた大樹も、目の前に鮮明に存在感を主張している。
そこは小さな村。ララムという竜が一時期この地にいたという理由で名前を少し取り、サラムという名前になったらしい。
村の中に一つだけある宿をとり、レオニスは一人、両親を残してはやる心のままに大樹へと赴いた。
何故かはわからないが、行かなきゃ行けない気がした。
ミドラに入ってからずっと感じていた違和感が解消されるような、そんな気がしたのだ。
違和感。それは足裏から伝わる熱。イエレンでは常に感じていた神力が、ミドラに入った途端途絶えていた。
違和感を感じながら、村の外れにある丘の上へと歩みを進める。近づくほどに風が強くなっていく。
大樹の目の前にたどり着いた時、レオニスは紅い何かが見えた気がした。
嘘です。しっかりと見えました。枝の上に女の子がいるのもわかってます。完全に視界に捉えてました。
でも見ません。見ちゃいけないんです。絶対に目を合わせちゃいけないんです。
一眼見ただけでわかってしまったんです。これはだめなんです。はっきり言いましょう。ドストライクなんです。
本当に一瞬だけなんですよ?一瞬見ただけなんです。か、可愛かった。
「あなた、誰?村で見たことないけど、どこから来たの?」
まずいです。話しかけられてしまいました。上見なきゃだめな気がします。いやいや、覚悟を決めましょう。見ますよ?見ちゃいますよ?
そっと、そーっと、上へ上へと、あとちょっとだよ。見え、見え……
思考停止しますた……
「可愛すぎんだけど……」
「え!?」
漏れ出てしまったようです。
いや本当になんなんですか?意味わからないんですけど?可愛いとかいう次元の話じゃないんですけど?
腰までは届かないながらも、長く整った真紅の髪。あぁお可愛いこと。髪と同じ紅の相貌。あぁお美しいこと。少し赤くなった頬がまた可愛らしいです。
とにかく!自分の乏しい語彙じゃ表現できません!
「……あ、ごめん見惚れてました。イエレンにある村から来ました。レオニスって言います」
「え?見惚れ?……旅行で来たの?」
やばい。話してしまっている!人生において一番の幸福かもしれない。シャルナ先生に感謝しかないです。
「はい。家族で来ますた」
「そうなんだ。あ、わたしはアリア。よろしくね」
噛みまみた。でも聞きました?アリアっていう名前らしいです。きゅ〜とですね。
「……よろしくお願いします」
「うん。えーっとそれでレオニしゅはここに何しに来たの?」
噛みまみた。聞きました?レオニしゅですって。可愛いとかいうレベルじゃないですね本当に。
「しゅ……この大樹を近くで見たかったんです。えっとアリアはどうして?」
「……神法の練習をしてただけぇ」
ちょっと不機嫌感。頬膨らましてそっぽ向いてます。なにその仕草。可愛すぎん?
待って?神法?え?
「神法って、神子なの?」
「うん。そうだけど?……ふふん、すごいでしょ!」
胸を張ってるの可愛すぎませんか?
「僕も神子ですよ」
「え?そうなの?イエレンってことは土?」
「はい。土の神子です」
「わたしは風の神子なの。わたし以外の神子なんて初めて見た」
「僕も初めてです。神法の練習してたんですよね?見せてくれませんか?」
「うん。いいよ」
なんかしれっと会話してしまっているのですが、我ながらすごいですよ。会話しているという事実だけでお腹いっぱいです。
アリアが目を閉じた瞬間から風が増した気がします。髪がこうぶわぁってなってます美しいですね。
「あれ?あ、ちょっとミスったかも。待っ……きゃああああああ!!」
風が強すぎた気がしてたんですけど、ミスってたんですね。落ち着いてる風に見えますか?頭は落ち着いてますよ?体は勝手に動いてますけどね。
「え?……!!」
あっぶな。間に合いました。これはラッキーかもしれないです。何せ、アリアと触れ合えちゃってるわけですからね。
でもすごい慌てちゃったから倒れこんじゃった。
……待って。すごく唇に柔らかい感触が……
「……!?」
無くなりました。一瞬にしてアリアが離れていきました。すごく顔が赤いです。自分もな気がしますが。
熱いです。全身が熱いです。とてつもなく熱いです。
とにかく謝りましょう。事故とはいえ、謝ります。
「ごごご、ごめんなさい!その……」
「いい言わなくていいから!……助けてくれてありがと」
照れた姿も非常に可愛いのですが、ちょっと本当マジでさっきのが脳裏にちらついてそれどころじゃないです。
全身が燃えるように熱いですし、心なしか地面まで熱い気がします。これが炎舞ですか?違いますね。
「わ、わたしだけ見せるのは不公平だからレオ……うん。レオのも見せて?」
聞きました?レオですって。これから自己紹介するときそう名乗ろうかな。すごくいい響きじゃないですか!
「別にそんな、派手なのとかは場所的に出来ないですけど……」
「別になんでもいいよ?」
「そういうことなら」
おかしい。やはり違和感がなくなっている。というか吸収できている?大地から感じるこの熱、間違いなく吸収できている。
何故かはわからないが、大地の神力を感じることができるようになったらしい。やっぱ自分の勘は信じるべきです。これも全てアリアのおかげです。ありがとう。生まれてきてくれてありがとう。
もう一つ違和感。なんか、風が熱い?熱を持った風なんて聞いたことないけど。
なんとなく試してみたら吸収できた。
神力?大気が神力を帯びてる?ならなんで気付かなかったんだろうか。そもそもこの熱を感じないはずないんだけど、これもアリアのおかげですねきっと。そういうことにしておきましょう。
どんな神法を見せるのがいいんだろうか。かっこいい感じのなんてあったっけ?抽象的にかっこいいものを願えばできなくはない気がするが、失敗する可能性が高い。
堅実に描こうにも、かっこいい神法がなんなのかわかんない。
十八番と言えば上級魔法の隕石ずどーんな気がするけど、場所的に不可能。なら針ずばばばばでいいかも?それでいいや。
描く。それは幾千の針。
「うわ!すごい!こんな威力初めて見た」
お気に召したようです。どや。
「このくらい余裕です!」
「レオってもしかしてすごい人?」
「自分じゃなんとも言えないですけど、すごかったですか?」
「うん。わたしはまだうまく神法使うことすらできないから」
「……僕でよかったら教えましょうか?」
きゃー、目がぁぁああ!!目がぁぁぁあああああ!!!ま、眩しすぎる。眩しすぎるぞその笑顔。笑顔で頷くのはずるだろ。
「そういえばレオって何歳なの?」
「歳ですか。えっと今何歳だっけ?……多分5歳です」
「え?歳上?わたしすごい失礼な子かも」
歳下らしいです。自分よりも小さい子ですよ!お兄ちゃん覚醒ですねきっと。レオお兄ちゃんってどうです?この響きちょっとやばいですね。意識が保ってられなそうなのでなしです。却下です。
「別にそのままで大丈夫ですよ。言葉遣いとか気にしませんので」
「ありがと。でもその、丁寧に話されるとわたしが気まずいっていうかなんていうか」
「もっと雑な感じの方が好きですか?」
「好きっていうか、今のままだとむず痒い感じがして」
「じゃあ、頑張りますね」
「あ、ありがと」
戻ったらリュウガから口調教わりましょう。確定事項です。アリアがそっちの方がいいって言ったんですから。
「レオ、神法教えてもらえる?」
「はい。任せてください」
「早速質問していい?」
「なんでもいいですよ」
「さっき、その、あの、み、ミスっちゃった後から地面とか風?がやけに熱いんだけど」
「それは神力の熱だと思います。僕もその、さっきのときから熱いのが感じ取れるようになりました」
「神力?え?どういうこと?」
「風の方は初めてなのでわからないですけど、地面には神様が宿っているんです。だから神様の神力の熱を感じてるということです」
「へぇ、そうなんだ。このあたたかさは神様のなんだね」
ぺたぺたと地面を触るアリアが可愛いですね。手つきが可愛いんですよ本当に。
「その神様の神力なんですけど、吸収できませんか?」
「吸収?どうやるの?」
「大地や大気から神力が欲しい!って願えばできると思いますよ」
「うん。やってみる」
手を前に出して重ね合わせた状態で目を閉じています。これは芸術作品ですね。美しさがすごいです。
そっと目を開けて驚愕。どうやら吸収できたみたいです。神子だからできるんでしょうか?そういえばシャルナ先生に話したことはなかったですね。あとでできるか聞いてみましょう。
「すごい……神力が溢れてくる!これならいくらでも神法使えるね」
「神力容量は問題ないはずです。あとは神力の制御ですが……僕は土属性の神法しか使えないので、風の神法はどうすればいいかわかんないんですよね。教えると言っておいてなんですが」
「神法って全部同じじゃないの?わたしが神法を使うときは、風がぶああってなってほしい!みたいな感じでやってるんだけど、レオは?」
ぶああって、可愛いかよ。いけないいけない、質問されたのに可愛すぎて聞いてませんでしたじゃ洒落にならないですからね。しっかり答えましょう。
「僕は、頭の中で光景を描いてますね。例えばさっきの針のやつだったら、頭の中で針がずばばばばってなってるのを想像してます」
「そんな変わんない気がするけど……」
「確かにそうですね。神力制御さえできればアリアも神法が使えるはずです」
「それが難しいの。制御って言っても、こっちは出てほしいってお願いしてるだけだし、どうしようもない気がする」
項垂れてますね。そんなアリアも可愛いです。さっきから可愛いしか言ってなくない?仕方ないんです。可愛いんですもの。
「願いの内容がより明確であればあるほど、神法は思った通りに出せます。多分ですが」
「自信ないんだ……」
「ごめんなさい。教えるのはこれが初めてだから、確信が持ててないんです。前例がないので」
「謝らないでいいよ。とにかくやってみるね。レオのやり方で」
この子可愛いって言葉じゃやっぱ表せないくらいに可愛いです。好き。
きっと今アリアは描いてるはず。どんな光景だったかはあと数秒もすればわかる。
そっとアリアの下から柔らかい、だけどしっかりとした風が吹き始めました。やがてアリアの身体は少しずつ浮いて……急降下。
落ちる寸前のアリアを両の手でしっかりとキャッチ!さっきとは違って距離も近かったから余裕です。アリアが悲鳴をあげる暇さえ与えませんでした。
この状況、すごくラッキーな気がします。事故とはいえお姫様をお姫様抱っこする日が来るなんて!
「怪我はないですか?」
上から見下ろす形で問うと、顔が真っ赤に染まりました。可愛すぎんかこのお姫様。
「は、はい!……助けてくれてありがとうございます!」
焦ったからか、丁寧な言葉がでるアリア様可愛いです。崇拝した方がいいかもしれません。アリア教の御神体ですね。
何故か時が硬直。アリアは動かず、僕の手の中。自分から動きはしないためずっとお姫様抱っこ状態。ご褒美です。ありがとうございます。
そこに突然の来訪。
「レオニスーー!!先に一人で行っちゃうなんてひどいわーー!!お母さんたちがきたわよーー!!」
アリアは頬を赤く染めたままこちらを一瞬だけ見て、瞬時に今の状況を再確認。より赤くなった頬を隠すように僕の手の中から脱出。
「家族が来ちゃったなら今日はここまでにしましょう」
「そうですね。今日はこれで終わりです。悲しいですけど。あの、また明日も会えますか?」
「……うん!しっかり神法教えてね、レオ!」
最後に今日一番の笑顔を咲かせて、アリアはシャルナたちが来る前にどこかへいなくなった……なんてことはできるはずもなく。鉢合わせしました。
「え?レオニス女の子と会ってたの?しかもすごく可愛い。それなら先に言ってくれればよかったのに」
「レオニスも男だな。てかマジで可愛い子だな。すごいぞレオニスよくやった!」
アリアがあわあわしだしました。そんな姿も可愛いのですけどね。
シャルナ先生がしれっとリュウガの足を踏んでますね。いいぞもっとやれ。
「えーっと、この可愛い女の子はアリアって言って、さっきここで出会いました。風の神子だそうです」
なんとなく言ってよかったのかを確認しようと目配せ。目は合いませんでした。しかも顔赤いままです。可愛い。
「かわ……っ!!」
アリアが顔を覆ってしまいました。なんででしょう?でも可愛いのでオッケーです。
「レオニスってそういうの無自覚で言っちゃう人なのかしら。誰かさんに似ちゃったのね」
「そんな悪いことでもない気がするんだよね。だからシャルナさんそろそろ足踏むのやめてくれません?」
「アリア、あっちのいかにも凄そうなオーラの出てる女の人がお母さんでシャルナって名前で、そっちのいかにもだめそうなオーラが出てるおじさんがリュウガです」
覆っていた手を外して、両親にぺこり。
「アリア・ララモーラです。よろしくお願いします」
「親切にありがとうね。シャルナ・アルラトスです。で、そっちのがリュウガです。レオニスをよろしくお願いします」
「俺の扱い雑すぎません?」
「わたしとレオはさっき会ったばかりだし、別にそういう関係じゃ……あ、あああれは事故ですから!!」
急に慌てだすアリア。あれって?あ……
顔赤いのアリアだけじゃないかも。
「あれ?レオニスも顔赤いし、まぁほどほどにしておいてね」
「別にわたしは……」
何かを言おうとして口籠る。なにが言いたかったんだろうか?もしかして嫌われた?だとしたら死にます。こんな世界いらないよ。
「と、とにかく!わたしとレオの間には全くなんも関係なんてありませんから!!それではさようなら!!」
勢いよくまくしたて、去っていく小さな背中に声かけるべきこと……あ、明日のことまだ聞いたなかった。
「アリア!!明日も同じ時間にここにくればいいんですか?」
「あ、うん。よろしくね」
嫌われてないっぽい。よかった。
「なんも関係ないって言った割には随分と仲良さそうだったけど……レオニス、彼女のことどう思う?」
「可愛いって言葉じゃ足らないくらい可愛いがつまった女の子です」
「……そう。頑張ってね!応援してるわ!」
シャルナ先生から励ましをいただいたので明日も大丈夫な気がします。今からアリアと会うのが楽しみで仕方ないですね。はぁ。早く会いたい。
「そういえば、リュウガ。雑な話し方を教えてください」
「急にどうしたんだ?別に今のままでもいいと思うけどな」
「いえ、アリアが丁寧なのがむず痒いそうなので」
「さっきの子のためか、おういいぜ。じゃあ俺の口調を真似してくれ。まず自分のことは俺って言え。それだけでだいぶ変わるはずだ」
「好きな子ができたら盲目になるのも、遺伝なのね」
シャルナのついたため息は一瞬にして風の音に混じって消えていった。
大樹の前で三人で話しながら、話し方の練習をし、ゆっくりと時間は過ぎていく。
三人がその場をあとにしたあとも、大樹は穏やかに風に揺られていた。
アリアは4ちゃい。でもこんな頭いいわけないじゃないですか。ならやっぱり一年が365日じゃないって考えたほうが普通じゃないですか。何日なんでしょうね(全く考えてない)




