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27話 これといったサブタイもないかな

間空いてごめんなさい。え?誰も待ってない?知ってますよ!そんなの!!

ころころ視点が変わります。

 私は……それでもこの国を守ります。


 対魔組織の中は想像を遥かに上回る惨状でした。私たちがもう少し早かったら。などと思うことすらできないほどに。

 魔族たちは誰一人として傷ついていません。再生力がすごいと聞いていたので、特に驚きはしません。

 対魔組織所属の人たちも剣が紅く染まっている他、特に変わったところはありません。誰一人として犠牲は出ていません。

 目を背けることはできません。

 床には、私と同年代、或いは私よりも小さい子どもが血だらけになって倒れていました。その数は5。

 見るだけでも痛ましいほどに切り刻まれていて、ところどころに臓器と思しきカラフルな物体も落ちていました。

 それだけならよかったんです。それだけなら、全ての罪を魔族になすりつけることだってできました。愚直に、この国を信じることができました。

 すでに息絶えた一人の子どもに突き立てられた剣。それを握る対魔組織の人。

 どれだけ魔族を恨んだ人がこの光景を見ようとも、決して魔族が悪いとは言えないでしょう。

 この5人は、魔族ではなく人に殺されたのですから。

 私が守ろうとしたものは、同じく私が守ろうとしたものによって、奪われてしまった。

 思いたくはなかった。でも、思わざるを得なかった。

 私は一体、何を守ろうとしているのか?

 私が見たのは結果だけです。過程は全て省いて、ただ結果を見せつけられただけです。まだ愚かしさを丸出しに信じるという行為に徹すれば、取り戻せる位置にはいました。

 目を見てしまえばわかりました。刺した本人は決して他者から強制されているわけでもなく、自らの意思で行動していることに。

 死体が誰か判別できることからも、これは誰かの、いや魔王の差金に他ない。

 対魔組織の人が魔王の指示に従っていると考えれば、まだ魔族に罪を持っていける。しかし、この人はあくまで強制されているわけではない。ということは自らの意思で魔王の元についたということになる。

 ありえるのでしょうか?魔族の排斥に力を入れている対魔組織が、自ら進んで魔王に従うなんて。

 いえ、もういいです。考えるだけ無駄でした。私は人も魔族も等しく好きじゃありません。だから理由は求めません。

 私はすでに、理由をもらったのですから。

 私は、あなたを助けるために。




 依然として行動は制限されている。

 身体は思うようには動かせないが、五感は共有され、思考は内側だけなら可能ということがわかった。

 だから今見える光景にいやでも思考しなければならない。

 魔王が介入したのはここに子どもを連れてくるところまで。ティアに対しての抑止力としてここに配置したはず。

 だが、魔族は手を下していない。それどころか、人が子どもを殺していた。

 魔王が約束を守りつつ、この国を、いやティアを手に入れようとしたのは確実。

 そして、これが魔王にとって予想外の出来事であることも明白。

 一番のイレギュラーは対魔組織の人たち。彼らは一体何者なのか。

 ティアの強さを身をもって知ってしまったから、魔王のアカーシャでの目的も理解した。それを打開するための方法はもうない。というかすでに、こうなった以上魔王はティアを手に入れることはできない。

 そして、ティアの目的はこの国を守ること。

 その二つの目的のどちらとも直接的に噛み合わない、この行為は一体何のためなのか。

 ティアを見ていないことからも、ティアが目的というわけではない。

 注目すべきは、死体に刺さった剣から、赤い何かが流れていってること。

 どこかで見たことのあるその現象に、ようやく理解が追いつく。

 もうあとは二つにまで絞られる。厳密には三つだが、そのうちの一つはありえないと切り捨てることが容易なので、残りは二つ。

 確証は持てないが、少なくとも他の二つよりは可能性が高い一つに絞り込む。あとは信頼の問題。

 俺が彼女の大切な人を、未来の家族を信頼しないわけがない。条件は揃った。

 魔王ですら想像のつかなかったイレギュラー。それは、人でも魔族でもない。

 ティア、お願いだから狂わないでくれ。あれは、ティアが守ろうとしたものじゃないんだから。




「てめぇ、俺の妹に何をするつもりだ」

「何もするつもりはない。強いて言うなら、保護だ」


 過去の怨敵と再びあい見えることとなったアカーシャ現国王、レイドル・アカーシャは、目の前の男の発言に殺意をたぎらせていた。

 以前、レイドルから大切なものを奪っていった男は、あろうことかレイドルに残された唯一の家族まで奪おうとしたのだ。

 さっき、男は確かに言った。「エルティアはもらっていく。すでに魔族は向かわせた」と。

 保護、という言葉になんの意味があるというのか。レイドルは信じない。信じる必要性がなかった。

 かつて自身の犯した過ちを繰り返さないためにも、エルティアだけは守ると決めたのだから。己の命に変えても。


「ふざけんな。ティアは渡さねぇ。もう二度と、ティアは悲しませねぇ!」

「かつてエルティアを置き去りにしたやつが言うセリフとは到底思えないな。まぁいい。どうせお前は俺のことを信じないだろう?だから、お前の許可は必要ない。俺の目的のためにも、ここで止めさせてもらうぞ」


 妹を守るという強い想いが、レイドルの力へと変わっていく。しかし、相手が悪かった。


「レイドル、お前じゃ俺は倒せない。大人しくエルティアのことは俺たちに任せとけ。俺たちの中で一番強いやつを側につかせたからな」

「てめぇなんざ、信用するわけねぇだろ。どけ。俺は……俺は……っ!ティアを助ける!」


 王として、血筋の力を存分に用いて、想いをぶつけるが、それでも届かない。

 何故なら、目の前の男もまた、同じ王族の血を引いているのだから。


「お前と戦うのははっきり言って意味がない。ただ、お前が俺を信じないことは分かりきっていたことだ。お前はまだ、あの日の真実を知らないんだろう?」

「あの日だと?真実も何も、あの日、てめぇが、てめぇら魔族が、母さんと父さんを殺したんだろうが!」




 レイドルが神法の使えない妹を見限ってから、ほんの数ヶ月後のこと。

 強大な神力が、国の近くの草原に放たれた。

 そう感じるほどに強く揺れただけで、実際は、ただ一人の人がそこに降り立っただけだった。

 あまりにも大きすぎる神力を察知し、レイドルの両親は息子と娘を置いて、現場へと向かった。

 まだ小さかったとはいえ、それなりの力はあったレイドルは、両親の後を追うくらいのことはできた。

 城で待っていろと、あらかじめ言われていなかったなら、或いはその凄惨な現場を目にすることはなかったかもしれない。

 しかし、レイドルは見てしまった。

 血溜まりの中に倒れ伏す両親の姿と、それを見下ろす一人の男を。

 明確な死を目の当たりにしてこなかったレイドルは、初めて見た人の死、それも大切な両親の死に、思考が止まる。


「……ま……った」


 男は何かを発したが、そんなものはレイドルには届かない。

 彼の身を支配していたのは、溢れるばかりの憎悪だった。

 冷静さの一欠片も残っていなかった彼だが、男の姿を見て、本能が理解した。

 こいつには勝てない。

 それでも、レイドルは向かっていった。

 身体能力の補強も、火属性神法もままならないため、戦いにすらなりえない。けれども、神法に必要な想いだけは、遥かに男を上回っていた。

 経験や技量を、ただの一つの想いで凌駕した。しかし、全てが負の感情で満たされたそれは、火属性とは言い難い、黒い炎だった。


「お前は、ティナ達の息子か?とするとレイドルか。すまなかった。お前にこんなところを見せてしまって」


 黒い炎をあえて全身で浴び、傷ついた姿のまま、男は謝ってくる。


「ふざけんな。てめぇが母さんの名を呼ぶんじゃねぇ。殺す殺す、絶対に殺すっ!!」


 男のことを考える余裕は幼いレイドルには微塵もなかった。

 善悪の判断は目の前の光景でしかできなかった。だからこそ、男が悪であると決めつけていた。

 愚直にも絶対的な力の差を理解しつつも向かっていくレイドルの意識は、そこで途絶える。

 ただ男がレイドルの頭に触れただけなのに。

 男がレイドルを眠らせたあと、現れた一つの人影。

 白銀の美しい長髪に髪と同じ透き通るような白銀の相貌。中性的な顔立ちで、声を聞かなければ美女と間違っていたであろうその男は、笑みを口に浮かべていた。


「子供を守ろうとするだなんて殊勝な心がけですね。あなたは人を憎んでいるのではないんですか?魔王」

「守ろうとなんてするわけないだろ。だが、ここは俺の国だ。この国で何かをするっていうなら、さすがに黙っておくわけにはいかねぇよ。竜王」


 短く言葉を交わして、二つの王は別れていく。

 空へと飛んでいった竜王を油断なく見続け、完全に姿が消えるのを見送った後に、魔王は膝をついた。

 まさか、まだこんな感情が自身の中にあるとは思わなかった。

 いやむしろ、これに関してだけは、前よりも上がっていると言っても過言ではなかった。

 それも当たり前なのかもしれない。

 レイドルの母である、ティナ・アカーシャは魔王が守らなくてはならない存在だったのだ。

 しかし叶わなかった。一歩遅かった。

 空の彼方にいるであろう竜王に恨みは抱かない。ただただ、自身の力不足を呪うだけだった。

 抱くとは思っていなかった悲しみを一瞬で捨て去り、次の行動を開始する。

 レイドルが見ていたのだから、或いはと思ったが、予想通りだった。

 小さくか細い泣き声を辿っていき、小さな、アカーシャの血筋であることを雄弁に語る白髪の女の子がいた。

 少女、エルティアを見ると、その小さな身体からは想像もつかないような力が眠っていることがわかった。

 竜王の狙いは完全に理解した。

 魔王はエルティアの頭に優しく触れる。

 隠れた力というのは自分がそれを持っていることさえ知らなければ、表層上に現れることはない。

 ついでに、この悲しみも綺麗さっぱり消し去っておく。これは幼い少女には荷が重すぎることだから。

 エルティアから手を離すと、彼女はおぼつかない足取りで、母だったものの近くへと寄っていった。

 もうほとんど記憶はないはずなのに、その冷たい手を握り、静かに涙していた。

 やがて、エルティアの意識は消え、母と手を繋いだまま倒れる。魔王は少しだけ惜しみながらもその手を無理矢理離させ、エルティアとレイドルを城へと運んでいった。




「レイドル、お前の両親を守れなかったのは俺の力不足だ。もう一度改めて謝っておく。本当にすまなかった」


 レイドルは困惑する。エルティアほどではないが、人を見る目は優れている自信があったのだが、男は嘘を言っていなかった。


「それに、お前の力を体感して気が変わった。レイドル、エルティアを守るのを手伝ってくれないか?ほんの少しでも気が変わったなら、俺があの日お前にかけた術を解かせてくれ」


 ティアを守るというセリフにも、一切の嘘はない。それに、自身にかけられた術というのが気になる。

 気が変わったかと問われれば、ほんの少しだ。ただ、少し変わってしまったのは事実。

 その少しを口実に、触れる恐怖を押し殺す。

 差し出された手にゆっくりと触れた瞬間、手が離れた。反射的に離してしまった。

 しかし、その一瞬でも術というのを解くには十分な時間だったようだ。

 レイドルの憎悪が薄れていく。仇敵だと決めつけていた意思が薄れていく。

 以前会ったあの時とは何もかもが違う。すぐに冷静さを欠いてしまうところは変わりないが、エルティアのおかげか、頭は悪いわけじゃない。

 目の前の男が敵なのか味方なのか、それを決める判断材料は未だ不十分。いや、今は不十分。

 つまり、もう敵だと言えなくなった。


「てめぇは、どっちの味方なんだ……」

「お前ももう、力の差は理解しているはずだ。俺と戦う必要がないということも、わかっているはずだ。お前は俺が何者なのかを知っている。だから今その質問をぶつけた。だがな、それは間違いだぞレイドル。今このアカーシャにいるのは人と魔族だけじゃない。その問いに対する俺の答えはこうだ。お前とエルティアの味方だ」


 やはりそこに嘘の色はない。本心からレイドルたちの味方だと言っていた。

 そうであるからこそ、生まれる疑問がある。


「じゃあ、なんで俺の悪感情がてめぇに向くように仕向けやがった」

「明確な目指すべき場所があるほうが人は強くなる。行き場のない怒りや憎しみを抱えたままでいるよりも、俺という敵を用意したほうがお前は強くなったはずだ。俺からしても、今のお前は十分強い」


 理由としてしっかりと成立していた。

 レイドル自身も目指すべき場所があったからここまで強くなれたのは実感している。しかし、もう一つだけレイドルの強さに由来する出来事については、まだ何も聞けていなかった。


「てめぇら魔族は、なんであいつらを殺しやがった。なんで、非力なあいつらを殺しやがった」

「俺は魔王と言われてはいるが、魔族を束ねているわけじゃない。俺の知らないところでこの国で何かをしたというのなら謝る。だが、理由は俺にもわからないぞ」


 目の前の男が関与していないとなると、行き場を失った怒りと憎しみが現れる。

 根底から崩れていく。それほどまでに今までかけられた術というのは、レイドルにとって大きなものだった。


「それに、さっきも言ったが人と魔族だけがこの世界にいるわけじゃない。重要なのはそいつらの存在だ。黒い個体の奴らは、見た目がかなり魔族に似ている」

「そんなの……」

「あぁ。信じられないなら信じなくていい。俺はさっきお前にかけた術を解くという言い方でお前に触れたが、俺があのタイミングでお前に術をかけた可能性だってお前は考慮するべきだ。俺のことを信じてくれるならそれ以上のことはないが、お前もそこまで早計じゃないだろ?」


 盲点、それ故に増す信憑性。だからこそ沸く疑心。堂々巡り。

 エルティアの不在が、ここまで辛いとは、レイドル自身も初めて気づくことであった。

 本人は謙遜するだろうが、彼女は聡明なのだ。この国では一番と言っていいほどに。


「結局てめぇは俺に信じてもらいたいはずだ。わざわざ俺の気づいていないことを言っててめぇ自身を不利に持ち込むのは、不利に持ち込まれてもいいと思ってるからだ。てめぇは俺に対して何もしていない。敵でもない。そう決定づけるのにあれほど適したやり方はない。ここまではきっと万人が至る。だから全てが無駄な思考になった。結局はてめぇはずっとグレーだ。だから、俺は完全に信じることは絶対に出来ねぇ。そして、認めたくはねぇが俺はてめぇに勝てない。人と魔族の他にもう一つ何かがいたとしても、人と魔族は結局対立するはずだ。この争いで、ティアが悲しまずに終わったのなら、そして俺が完全にてめぇを信じれたのなら、そのときは、味方として受け入れることにする」

「今の誘導ですぐに信じてくれるならよかったのだが、エルティアほどではないが、お前もなかなかだな。とはいえ、お前も薄々わかってるはずだ。この話し合いもう終わりだ。お前は監視に徹するんだろう?じゃあしっかり見張っとけよ。いくぞ、レイドル。対魔組織本部に」


 確信は持てないからこその絶対の確信。

 どこかで理解していた。この男は、絶対にエルティアを傷つけないと。

 数歩前を進む背中は、どこか安心感を感じる、レイドルからすれば大きな背中だった。


「言ったはずだぞ、お前はエルティアには及ばない。とな」


 魔王がこぼした言葉は誰の耳に届くこともなく、風の中へと消えていった。




 静寂に支配された対魔組織に現れた新たな人影に、疑問が浮かぶのは当たり前のことだった。

 一人はティアと同じ髪と眼をした少年。おそらくティアの兄であるレイ。

 そしてもう一人が、目の前の惨状に目を見開き驚愕をあらわにしている男。魔王フォグナ。

 この状況がイレギュラーなのは元から分かっていたとはいえ、これで確信に変わる。

 だが、ティアの兄、この国の王が魔王と行動を共にするというのが俺にとって、いやティアにとっても予想外でしかなかった。

 魔王は一瞬舌打ちをして、俺を一瞥。何かを察した様子でティアの方へ近づいていく。

 了承を得ることなく、ティアの頭に手を当てた。

 レイはそれを黙ってみている。俺は止めようにも身体が動かない。

 ティアは短い悲鳴をあげて、頭を押さえながら倒れた。

 ティアを一番大切だと思っている身体が動かない意味がわからない。魔王に何かされる前に防げたかもしれないのに。

 守るべき存在であるティアは意識を失い横たわっている。それを見ても俺の身体は動かない。動けない。

 何かに縛られるように、この場から動くことができない。この感覚はあの日、目の前の男と戦ったときも味わっていた。

 なるほど。注視していた俺が馬鹿だったというわけか。

 まだ決めつけるのは早いかもしれない。だけど、ここにいるもう一つの存在を考えれば決めざるを得ない。

 ティアが倒れてから、徐々に薄れていた束縛が完全に消え、身体が自由を取り戻す。

 振り返り、この国の王へ一言。


「ティアのお兄ちゃんなら絶対守ってあげてくださいね」

「なるほど。確かにてめぇなら安心だったのかもな」


 どこか噛み合っていない会話も自身の意思の実感に他ならず、改めて手をぐーぱー。


「レオニス、理解したか?」

「はい。おそらくは」

「わかった。レオニス、命令だ。レイドルと共に、エルティアを守りきれ。ただそれだけだ」


 魔族たちの王は、俺たちの前に背を向けて立つ。

 かつて人の英雄と呼ばれた彼は、アカーシャの王女を守るべく、もう一つの敵へと一人で向かっていった。




 声が聞こえました。

 柔らかく暖かい、そしてとても懐かしい声が聞こえました。

 

『ごめんなさい。私たちは、あなたを心から愛しているわ。だからこそごめんなさい』


 やがて視界は開け、目の前にはお母さんが倒れていました。

 胸のあたりが赤く染まり、動くことはおろか、喋ることすらできそうにありませんでした。

 私は何の意味もないと知りながら、お母さんの手を握ることしかできませんでした。


『神力のある身体で産んであげられなくてごめんなさい。あなたのうちに秘めた力を知らなくてごめんなさい。知るのを怖がってごめんなさい。私から手を握ってあげられなくてごめんなさい』


 お母さんの口は動いていません。けれどもお母さんの声は私にしっかりと聞こえていました。

 お母さんの閉じられていた目から一筋の涙が溢れる。


『あなたを一人にしてしまってごめんなさい。本当はずっとそばにいてあげたかった。あなたが作るこの国を見てみたかった』


 私はじっとお母さんの言葉を聞いていました。これを逃せばもう二度とお母さんの声を聞けないとわかっていたましたから。


『ティア。あなたは戦うのには向いていないわ。あなたの優しさとその頭の良さを合わされば、きっと魔族との新たな道も切り拓けるはずよ。私たちには実現できなかった平和を、あなたなら実現できるかもしれない』


 私が握っていたお母さんの手に、気のせいか少し力が入りました。

 私はその少しの変化を手繰り寄せるべく、さらに強くお母さん手を両手で握りました。


『でも関係ないわ。この国のことはいいの。あなたはあなたのために生きて。いつか大切な人を見つけて、幸せになって。あなたの手を遠慮なく握ってくれるような人と、幸せな未来を築いてね』


 さっきまでは何ともなかったのですが、急に視界がぼやけ始めました。

 いえ、さっきからぼやけていたのですが、今は前が全然見えないほどです。お母さんがせっかく目の前にいるというのに。

 お母さんのことを想えば想うほどに視界は悪くなる一方でした。


『あなたはアカーシャの王女エルティア・アカーシャである以前に、ただのエルティアなの。あなたが正しいと思う道を、あなたが嬉しいと思う道を、あなたが楽しいと思う道を、あなたが幸せになれる道を進んでね』


 お母さんの手からだんだんと熱が消えていく感覚がしました。

 逝ってほしくない、おいて逝ってほしくない。ずっとそばに、ここにいてほしい。


『……あなたは何にも縛られずに、自由に生きてね。じゃあね、ティア。幸せを満喫して、もういいやって思ったときにまた会いましょう。きっと、あなたの世界に私はいらないと思うから。ばいばい』


 完全に手は冷えきり、お母さんの声はもうしませんでした。

 それと同時に私の意識も消えていきました。


 なんで、なんで忘れていたんでしょう。

 お母さんが、私のことを愛してくれていたことを。私もお母さんのことを愛していたことを。

 確かにそんな記憶もあるにはありますが、少し違うような気がします。この記憶はいったいなんなんでしょう。

 理由はなんとなくわかります。

 魔王。あなたが私を策に嵌めたわけではなかったんですね。むしろ……

 いえ、私にはどうしても信頼できません。きっと、まだ何かあるはずです。

 見えたのは一瞬だけとはいえ、あの眼は異質としか言えませんでした。

 私の思い違いかもしれませんが、そうであってほしいとしか言えません。

 レオニス様はきっと今、元に戻っているはずです。

 なんとなくですが、私の能力も理解したつもりです。

 レオニス様が解放された以上、私がこの国を守る意味がなくなったのですが、彼に頼らなくても、私は最初から持っていました。

 お母さんの夢見たアカーシャを私とお兄ちゃんで作ってみせる。だから見ててね。

 お母さんの記憶はもう絶対に消させない。絶対に忘れない。

 これが私の、初めての神法。



 国の近くの草原に揺蕩う、透き通った人影が一つ。

 自らの血で赤く染まったその人は、苦しみにもがき続けていた。

 死にかけたあの日から、死と同じくらいの苦しみを長い間ずっと味わってきた。

 苦痛は止まることを知らず、幾分か残っていた理性さえも完全に消え去り、すでにただの廃人と化していた。


『逝き……たい……』

自己分析タイム!

自分の作品のダメなところを陳列しましょう。

1.初っ端がおもんない。

2.無駄に長い。

3.何言ってるかわかんない。

4.アリアが当分出てこない。

5.盛り上がりに欠ける。


大事故。大事故です。最悪ですね。こっから盛り上がる展開きますか?知りません!いや、アカーシャのラストは自分は結構好きです。はい。それだけです。

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