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26話 忌子の王女様

途中までエルティア目線の前回までのお話なので、そんなのどうでもいいって方は横線で区切ったので、飛ばしちゃってください。多分一瞬で読み終わります。

 自身の発した言葉が信じられなかった。

 今の言葉を本当に俺が言ったとでもいうのだろうか?

 俺が彼女以外に対してそんな言葉を使うというのだろうか?

 吐き気が込み上げてくるが、身体に自由はない。意識の外で勝手に動き、言葉を紡ぐ自分であって、自分ではない何か。

 背中の少女から伝わる動揺からも、これが意図的でないのは確か。しかし、この最悪の状況が誰かの意図したものであることもほぼほぼ間違いない。

 どうしようもない気持ち悪さをなんとか耐えながら、幾度となく謝罪をした。決して言葉には出せないが、何度も何度も謝罪した。

 アリア、ごめん。




 私はアカーシャの王女、エルティア・アカーシャです。

 神子であることが当たり前の王族という血筋の中で、神子ではなかった、いわゆる落ちこぼれ、それが私です。

 神子でなかったことを周りから疎まれ、貴族の方達からはバカにされ、兄には見放され、同年代の神子にはいじめられました。

 それでも、私は大丈夫でした。お母さんとお父さんが、私のことを愛してくれていましたから。

 しかし、それもすぐに儚い幻想であることを思い知らされました。

 お母さんもお父さんも、私には何も言わずにどこかへいってしまったのです。

 誰よりも大切に想っていた人たちが急に姿を消してしまい、私は絶望しました。

 幼い私は立ち上がることができませんでした。何もかもがどうでもよくなり、人も魔族も神様も等しく嫌いになりました。

 神力なんてものがあったから、神子なんてものが存在したから、私はこんなにも周りから疎まれるのだと、恨んだこともありました。

 何故なのでしょうね。記憶の中にぽっかりと空いてしまった部分があるのです。

 どうしても思い出せないそれを過ぎてから、世界への悪感情は少しではありますが収まりました。

 私にとっての転機のはずなのですが、何故思い出せないのでしょう。誰かの介入な気がしますが。

 話が逸れてしまいましたね。空白期間の最中なのか、はたまた直後なのかはっきりしませんが、お母さんとお父さんが見つかりました。

 しかし、会うことは叶わず、またどこかへ行ってしまったのです。

 その際に伝言だけもらったような気がします。曖昧ですが、この国について何か言っていたような気がします。

 私は戦闘の面では一切役に立たないので、知識をつけることにしました。とは言っても、召使いの方に聞くことしか叶わず、たくさんの知識を得たわけではないですが、同年代の子達に比べればそれなりに博識だったと思います。

 魔族というものに対してさほど興味を示していなかった私は、大人たちが何故争っているのか不思議でした。

 争いがあるから強さが求められる。争いがあるから神子じゃないことが責められる。

 いつからなのか、私のことを少しだけ気にかけるようになっていた兄のレイに魔族について聞いてみると、返ってきたのは憎悪の声でした。

 理由については私の方を見て言うのをやめたため、特に説得力はなく、魔族との軋轢については不明のまま、疑問を持ちながら過ごしてきたある日、私たちの国に3体の魔族が入ってきました。

 私がそれを知ったのは全てが終わった後でしたが、非力な未だに成長しきっていない神子じゃない子どもが二人、殺されました。

 私の疑問は恐らく最もダメな結果で解消され、レイの言い分ですら理解できてしまいました。それと同時に恐怖を覚えました。

 一歩間違えば私が死んでいたかもしれなかったのです。

 私が死んだとしても、世界には何の影響も与えないかもしれませんが、私は死にたくありませんでした。

 振り返っても何一つとしていいことのなかった人生で終わりたくなかったのです。

 せめて、誰か大切な人のために命を捧げたいと、そう願ってしまうくらいには、私は女の子ですから。

 この魔族の襲撃によって、決定的に変わったのはレイの方でした。私への接し方が今までとは比べ物にならないほどに優しくなっていました。

 今更なにをと思ったのは一瞬で、このときから私はレイのことをお兄ちゃんだと本当の意味で思うようになったんだと思います。

 レイはみるみるうちに神子としての才能を開花させ、最年少で王の名を冠すことになりました。

 私の行動には一貫性がありません。魔族を排斥しようと努力したわけでもないですし、強くなろうと必死になったわけでもない。知識も少しはあれど、少しで止まっています。使う場所もあるわけではないですからね。

 いえ、一つだけは違います。

 私の目的はあの日からたった一つだけです。全幅の信頼を置ける、大切な人がほしい。ただそれだけでした。

 その人からどう思われようとも、もう置いてほしくなかった。ずっと一緒にいさせてくれる存在が、黙っていなくなったりしない存在がほしかった。

 レイが王城に篭りっきりになり、家に一人っきりになることも多くなってからは、代わり映えのしない生活でした。

 多くもない知識でレイのサポートをしたり、何日かに一回くる召使いの方とお話ししたり、国の中をぷらぷら歩いてみたりと少なくとも充実してるとは言い難い生活でした。

 しかし、その代わり映えしない生活ですら愛おしくなるような恐怖が私を襲うのは、そこから何ヶ月か経った頃でした。

 レイは王城。召使いさんは今日は来ない。家に一人っきりの状況で、屋根の方から破壊音がしました。

 疑問とともに階上へと足を運ぶと、いつかどこかで見たような黒く濁った肌色の大きな体がありました。

 悟りました。私はここで殺されるんだと。

 今までの人生を振り返って、誰かに聞かせられる話もなく、ただただ悲しい人生だったと落胆すると同時、覚悟を決めることができました。

 私が死んだとしても誰も悲しむ人がいないのだから、私がここで死のうとも世界には何の影響もないと言い聞かせて、無理やり震えを押し留めました。

 それでも一度思ってしまったんです。死にたくないと。

 震えが再燃して、涙まで流れてしまいました。恐怖からの涙というのは少し違いますが、出てしまったものは仕方ないんです。もう止まりませんでした。

 だからダメ元で叫んでみました。

 私の人生の中で初めてでした。私の声に応えてくれた人なんて。


 私の手を握ってくれた人なんて。



 その人、レオニス様は謎の多い人でした。

 髪色や瞳は金色で、家名からも明らかにイエレンの方なのにアカーシャにいること自体よくわからなかったですし、魔族を一瞬で倒してしまうほどに強いんです。

 私は彼に助けられた以上、彼のことを信用するのは礼儀です。ですが、謎が多すぎたために、その意志も薄れかけました。ですが、彼と話すうちにだんだんと理解しました。

 レオニス様は顔に出る方なんだと。

 わかってしまえば完全な信用も簡単にできました。それに、なによりも隠してるであろう目的が美しかったのです。

 私を助けてくれたことからも、優しいというのは分かりきっていたことなので、この国を救ってほしいと一応王女としての面子を壊さないためにお願いしたところ、快く快諾。

 何故自分でもすんなりとこのお願いが出てきたのかはっきり言って不思議です。私に王族としての誇りなんてものはないと思っていたのですが、もしかしたらまだ残ってるのかもしれませんね。

 魔族に襲われてる人を助けてほしい。という言葉を私が言っていることに少し疑問を覚えます。誰も私に手を差し伸べなかったのに、私が他の人を救う必要があるのでしょうか?なんて思いつつも、勝手に言葉は紡がれていきました。

 どれもこれも私が言うとは思えない言葉でした。私の記憶には人にも魔族にも基本的に悪感情しかないのですが、どちらも救おうとする言い方をするなんて。

 行動と思考の矛盾で少し頭が痛くなりましたが、認知不協和で強制的に思考をねじ曲げ、素直にレオニス様が受け入れてくれたことに感謝することにしました。

 共に国を救う約束をすると、レオニス様は隠していたことの一つを私に聞かせてくれました。

 確約の後に、自身が不利益になるような情報を開示することで保険をかけてるようですが、そもそも交わした約束がこちらにしか利益がないものなので、断る理由もないし、断られる不利益もないはずなのですが、それはきっとレオニス様の優しさからの気がします。

 この騒動が自分の仕業であると、レオニス様は言っていました。私が襲われたのは自分のせいであると。

 レオニス様の表情に映るのは申し訳なさと、少しの悔しさ。

 そもそも私の心など既に決まっているのです。レオニス様が私を助けてくれたあのときから。

 レオニス様が差し出してきた右手に私の右手を添え、約束を交わしました。

 この国を一緒に救おうと。

 もう一つの約束は私だけの、それに、一度目に交わしたものですから。



 レオニス様が私に対して少しとはいえ信頼してくれてるのが嬉しくて、彼の背中の上で核心に迫ってみる覚悟を決めました。

 返ってきたのは言外のYes。私を背中から下ろし向かい合う形で投げかけたもう一つの質問をはぐらかそうとする最中で見せる少しだけ色づく頬。

 薄々わかっていたとはいえ、確信に変わり、心の底から羨ましいと思ってしまいました。

 レオニス様本人にも、そして、レオニス様に想われているその人にも。

 ただの信頼一つすら勝ち取ることができない私とは大違いな目に見えないその人への嫉妬からか、私も一つくらい欲しいと思ってしまいました。

 矛盾していることは重々承知していますが、それでも一つくらい望んだってバチは当たらないですよね。

 レオニス様の両頬に手を添えて言いたいことだけ言わせてもらいました。

 言外に、というか言葉の中に入ってしまった想いにレオニス様は気づいてくれたのでしょうか?

 私の欲しかった返答をしてくれたレオニス様。真意はともかく、なんかすごく嬉しいです。

 再びレオニス様の背中に乗っけてもらいましたが、ちょっとスピード速くないですか?

 レオニス様は意地悪でした。ひどいです。なので、レオニス様が隠してるであろうことを聞いてみました。

 正直に答えてくれたのは先の回答が真の意味であるって思ってもいいと言うことなんでしょうか?半ば強引に脅迫じみたことをしたような気がしますが、受け入れてくれたということでしょうか?

 レオニス様は二属性の神子らしいです。強さにも納得ですね。それにしても、後天的な二属性の神子だなんてあるんですね。存在自体を初めて知りました。

 あくまでも、自分の凄さは認めずに、大切なその人のことを上げるような発言にまたも嫉妬心を仰がれてしまいます。

 私に嫉妬なんて感情があったことにまず驚くべきかもしれませんね。

 本当に羨ましいです。

 私の質問は終わり、今度は攻守交代。レオニス様が私に質問をしてくださいました。

 信じると言うことは既に決めてあるので、答えることは問題ないのですが、レオニス様の質問は想像よりも深い場所のものでした。

 それが示すのが、信頼という私にとって最も重要であると言っても過言ではないものだったので、何もない私の過去への嫌悪感よりも先に喜びが出てしまったのは仕方ないはずです。

 この話を誰かにすることになるとは思いませんでした。レオニス様ならきっと、私の家名を聞いたときから薄々わかっていたと思いますが、話すとなると少しだけ気が沈んでしまいます。

 レオニス様がこの話で何を思い、私は彼に何を思ってほしいのか、それはよくわかっていません。

 上辺だけの同情なんていりませんし、励ましもいりません。表層上のものなんていらないんです。

 レオニス様は気付いていました。だからこそ、私の表層では留まらず、より深くへと入ってきてくれた。さすがに驚きました。

 レオニス様の残してくれた小さな逃げ道は使わずに、全てを話すことにしました。

 一切笑わずに最後まで聞き届けてくれたレオニス様の表情は背中からじゃ見えない。どう思ったのかと疑問に思ってると、お礼の言葉と共に、有無を言わさない速さで私の中に何かが入ってきました。

 熱い。けれどもどこか温かみを感じる優しい温度。それと同時に今まで味わったことのない感覚が全身に巡り、思わずらしくない声が出てしまいました。

 熱と未知の感覚に頭が真っ白になりましたが、レオニス様にかけられた言葉で平静を取り戻せました。

 それほどまでにレオニス様の言った言葉は衝撃的だったのですから。

 これが他の誰かが言った言葉なら、その言葉にさほど意味はないのかもしれない。だけど、レオニス様が言ってくれたのだから、それはもう確信に近い何かになっていました。

 今の私なら、魔法を使える。

 身近に魔法を使う人はいなかったので、実際に見たことはありませんでしたが、文言を聞いたことはあったので、意識を集中して唱えてみました。

 私が発した言葉を合図として、右手の方に熱が集まっていく感覚がしました。レオニス様に触れていた手をたまらず前へと向けると、そこには黄色い、そして赤い何かが集まっていき、徐々に形を成していきました。

 いつの間にか完成していた火の球を前方へと放つ。壁にぶつかってすぐに消えてしまいましたが、私の心は感動で満たされてました。

 同時に疑問も生まれ、喜びながらも言葉を漏らします。既に心では理解している疑問に、レオニス様の返答で以って頭でも理解しました。

 だからこそ、新たな疑問が生まれ、それに隠すように、今まで感じることのなかった想いもまた生まれてました。

 なんとなくですが、疑問の答えは自身で導き出せるような気がして、思い至りました。

 私とレオニス様は育った環境が違います。そんな簡単なことに何故今まで気づかなかったのでしょう。私だけじゃなく、レオニス様も、他人から疎まれてきたということに。

 私の苦しみの一端を知っているからこそ、私のことを助けてくれた。私に重ねてくれた。

 でも、レオニス様と私の決定的な違いは、大切な人がいるかどうかということ。

 きっとレオニス様が私に重ねたのはレオニス様本人じゃなくて、レオニス様の大切な人のはず。もしもの姿が私ならば、助けないはずがないですから。

 全ては言わずに話を終わらせてみると、レオニス様のスピードが上がりました。恥ずかしさからでしょうか?

 どうしてこうも心が動かされるんでしょう。羨ましい。大切な人がいるということが羨ましい。レオニス様から大切に思われてることが羨ましい。

 どこまでも真っ直ぐに、その人だけを見てるから、儚い幻想だと口に出る前に一蹴することできました。

 でも、自分でも思ってるよりも、私の欲が大きかったみたいです。よくわからない想いもその中に入ってるわけですから。

 よくわからないなんて誤魔化す必要も、もうないのかもしれませんね。はっきり理解してます。これが大切だって想いということくらい。

 隙をつき、すきを乗せた言葉が私の口からこぼれ落ちました。

 決定打はなんだったのかと振り返ってみても、よくはわからなかったです。もしかしたら一度目のあのときから、すでにこれは決まっていたのかもしれません。

 我ながら、ちょろい女だなって思います。でも、今もほんの少しだけ残っている温もりが、愛おしくてたまらないんです。

 離したくない。離れたくない。でも見てはもらえない。どこまでも絶望的な気がしますが、受け入れてもらえなくてもいいんです。

 勝てるなんて一ミリたりとも思いませんし、レオニス様はその人と結ばれる方がきっと幸せですから。

 でも、それでも、そばにいて欲しいです。それくらいは許してほしいです。

 多くは望みません。一方通行な想いだとしてもいいです。ですが……


もう、置いていってほしくないんです。


——————————————————


 レオニス様の言ったことが、あまりにもレオニス様とはかけ離れすぎていて、私は困惑しました。

 私と一緒に生きていきたいという言葉。レオニス様に言ってもらえたらどれだけ嬉しい言葉なのかわかりません。ですが、それがありえないことだとわかっているからこそ、私の心はこんなにも冷え切ってるんだと思います。

 原因は、きっと私にあるんだと思います。私が大きすぎる願いを込めて言ってしまったから、奇跡が起きてしまったんだと思います。

 神法は想いの力とレイが言っていました。自分の描く願いへの想いが強ければ強いほど威力が増すと。

 ですが、思考そのものを捻じ曲げる神法なんてあるとは思えません。属性は火水風土の4つしかないのですから。

 私のせいだと仮定したとして、問題はどうレオニス様を元に戻すかなのですが、私一人の力じゃきっとどうしようもありません。

 涙が出そうになりました。申し訳ない気持ちが止めどなく溢れてきて、それと同時に自分への怒りも綯い交ぜになって、行き場のない感情を言葉としてこぼすことしかできませんでした。


「ごめん……なさい……」

「わかっ……てる。これが……ティアの……」

「えっ……?」


 レオニス様から出たレオニス様としての声。それはとても苦しそうで、罪悪感を助長。ですが、それよりも強い安堵感を生みました。

 完全に思考がねじ曲がってないことの証拠に他ならないのですから。


「まずは……対魔組織に……向かうのが先だ。この国を救うまで……俺のことは……考えなくていい」

「ですがっ!」

「また……あとでな」


 レオニス様のお願いを聞き入れたくはない。だが、レオニス様が苦しみながらも私に伝えてくれたから、私は従うことしかできない。

 それに、またあとでって言ってくれたから。再開を約束してくれたから。私は頑張れます。

 何がなんでも、この国を救って、レオニス様を助けて、レオニス様の大切な人とまた会ってもらいます。

 私がこの状況を作ってしまったのだから。私が助けなきゃいけないんです。


「そういえばティアは、なんで俺に背負われてるんだっけ?一緒にいたいとは思うけど、何もそんなくっつく必要はないと思うんだけど」

「レオニスさん。私たちはアカーシャの対魔組織本部に向かっていたんです。そこで人と魔族の争いを止めなきゃいけないんです」


 もう今のこの人にはレオニス様は残っていない。私のことを助けてくれたあの人ではないから、あの人と同じ呼称は使いたくありません。

 自分でやっておきながらこんなことを思ってしまう私は、どこまでも身勝手なのでしょう。それでも、嫌なんです。

 きっとレオニス様はもっと嫌な思いをされてるはずです。にも関わらず私だけは嫌なものを嫌と言える。この痛みはレオニス様に比べれば至極矮小なものな気がします。

 考えれば考えるほど自責の念に駆られますが、やはりこれも必要なことです。もっと苦しんでいる、私が苦しませている人がいるのですから。

 謝っても謝っても、今があるから許されることはない。謝る意思だけじゃ、罪悪感は決して消えない。私には未来を変える力はない。だから、過去の過ちを限りなくゼロに近づけることが、私にできる最大限の償い。

 速く動くことさえ人任せな私は、やっぱり誰よりも身勝手で、誰よりも世界から嫌われている。だから、愛おしさも増していく。

 レオニス様の身体に回す手に力が篭ったのが、私の弱さの象徴に他なりませんね。

 一向に力を緩めることはなく、対魔組織本部に私たちはたどり着きました。

 段取りはすでにレオニスさんと確認済み。私が人を、レオニスさんが魔族を無力化する。

 私は力がないため、王族としての言葉で説得するしかありません。私の声が届かなかったら、そのときは、いえ考えちゃダメですね。

 信じています。私たちの国の国民を。私が守ろうとした国の国民を。レオニス様と守ると誓った国の国民を。

 レオニスさんの後ろに立って扉が開くのをそっと待ちます。

 ゆっくりと開かれるにつれ、より明確に聞こえてくる中の物音。

 いえ、正確に言えば、より明確に明らかになりました。中の物音が全くないことに。

 完全に開ききった扉から見える中の光景に、私は少しだけ生まれた歪みをしっかりと感じつつ、理解とともに恐怖しました。

 勘違いというのが一番嬉しいのですが、私の中では確信に近い何かを感じています。

 ほぼほぼ間違いなく、魔王は知っています。今は一方的に、私のことが認知されています。

 自意識過剰と思われるかもしれませんが、むしろそっちだった方がいい気がします。これは魔王からの言外のメッセージなのでしょう。


 人と魔族の天秤は歪んでいく。支点がずれ、たかだか意思という重りだけでは傾かなくなってしまうほどに。


 私は……

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