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19話 魔王様に会いました

 許せない。許すつもりは毛頭ない。

 だから、この出会いは俺にとって幸運なことだったんだ。



 一夜明けて、現在僕らは走っています。それはもう走っています。

 足がどうにかなりそうですが、気にしたら負けです。

 走り続けて何もないまま一日が終わりました。

 走ってる間に話していたのですが、別に聞きたくもないですよね?僕らの話なんて。

 ただ走ってるだけの日っていうのも新鮮でしたね。

 アリアと一緒にずっと飛んでた日とかもあったんですけど、あれは幸せでしたね。

 隣にアリアがいるってどれだけ素晴らしいことなのか改めて理解しました。

 今隣を見てもすごいごつい体格の男がいるだけなんですよ。虚しいです。

 まぁ、ゼラファルムがいなければもっと虚しかったでしょうから、彼には感謝です。

 というわけで寝ましょうか。

 今日は昨日の反省を少しだけ活かしてるんです。

 頭はもうどうしようもないのでセルフ腕枕ですが、胴体のところは表面を軽く砂にすることで腰の痛みが少しだけ解消です。

 ゼラファルムはそのまま寝てます。たくましく生きてください。


 約一週間ほど経ちました。

 ようやく見えてきましたよ。存在感をありありと主張している金色の塔が。

 ゼラファルム曰く、それが世界の中心の証らしいです。名前は見た目そのままに金色塔。

 最も神に近いとされてる場所らしいですが、神様って地面にいるんじゃないんですか?

 とにかく、ようやく着きましたよ。

 ここが、魔王のいる場所。世界の中心、ゼルドラ。


「中に魔族がいっぱいいるけど、怖がったりすんなよ?」

「襲われたら抵抗はしますよ?」

「そんなことオレがさせるかっての」


 ゼラファルムに先行される形で世界の中心に足を踏み入れる。

 イエレンの様に殺風景というわけではなく、ミドラの様に緑に溢れてるわけでもない。

 色で表すなら、白。一点の曇りもない白。

 だからこそ、黒の混ざった魔族の肌が目立つ。

 ざっと30程の斑点が視界に映る。

 確かにいっぱいいますね。

 一人の魔族が近寄ってきてゼラファルムに話しかけました。


「ゼラファルムじゃねぇか。どうしたんだ?お前がここに戻ってくるなんて珍しいな」

「魔王に会いたいってやつがいたから案内してやっただけだ」

「へぇ。そんな物好きなやつがいるんだな。んで?その物好きは……って人のガキじゃねぇか!!」


 魔族が僕を見てめっちゃ驚いてますけど、これはあれですか?襲われるやつですか?

 まぁ、相手にしてやらなくもないですけどね。一応準備しておきますか。

 ……なるほど。もう疑問は抱きませんよ。なんてったって二回目ですから。


「落ち着け落ち着け。ガキだからって舐めてかかると返り討ちに合うぞ?オレらに用があるわけじゃないんだし別にいいだろ?」

「ゼラファルムも墜ちたもんだな。お前ほど人を憎んでいるやつは他に知らなかったんだけどな。そんなお前が人を援護するようなことを言いやがるなんて」

「こいつのため?違うな。これはお前らのためだ。はっきり言うぞ。ここにいる全員でこいつに挑んでも勝てない。この小ささで魔王と同等、或いはそれ以上の力を持ってやがるんだ」


 このゼラファルムとかいうやつ話盛りすぎじゃないですか。怒っちゃいますよ?

 この数の魔族相手にするとかどうあがいても勝てるわけないでしょうが。

 そもそも魔王と同等とかあり得るわけないでしょ。

 否定しておかないと。


「嘘はやめてください。この数の魔族に勝てるわけないじゃないですか。ゼラファルム一人だってきついって言うのに」

「……ご本人はこう仰ってるが?てか、お前が人に名を名乗り、挙句呼ばれても平然としてるなんてな」

「そいつのは謙遜だ。それに、名前が分からなきゃ会話がめんどくさいだろうが」


 謙遜って……寝ぼけてるんですか?

 人と馴れ合っているのを見せるわけにはいかないっていうゼラファルムの想いも理解できますが、間違いは正しますよ。


「謙遜とかふざけないでください。勝てるわけないでしょ。てかさっきしれっと魔王と同等とか言ってたよな?取り消してください。魔王ですよ?名前からめちゃくちゃ強いでしょ。それに二属性の神子なんですよね?そんなのに勝てる人なんてほとんどいないから」


 僕も二属性だからちょっと自画自賛してるっぽくて嫌な言い回しですけど、別にいいでしょう。

 生きてる年が違いますし、先生曰く10歳くらいにならないと神力容量MAXにならないらしいからまだ成長しきってないですし。

 神力とか実質無限だから関係ないだろって思われそうだけど、今みたいな状況だとそうも言えないんですよ。


「……お前は黙ってろ!そんなこと言うとどんどん悪い方にいくだろうが!!」

「なぁゼラファルム。そんなにお前が強いっていうんなら、ちょっと試させてもらってもいいか?」

「ゼラファルムの方が悪い方にやってた気がするんだけど。魔族っていうのがどんな種族かわかんないけど、強い方がそそられるんじゃないの?」


 こいつ今『確かに』みたいな顔したぞ。

 完全に墓穴掘ってるじゃないですか。どっかの紅い姫様なら可愛いですけど、ゼラファルムがやっても可愛いのかの字もないですね。


「すまんレオニス。頼むから本気出すなよ」

「危なくなったら全力で行くから。それにここだといつもより弱いしね」


 ゼラファルムは魔族の中でも相当強い方らしいから、ゼラファルムと同等と考えて挑めば神力配分は問題ないはずだ。

 長引くのは得策じゃない。そしてことを大きくさせるわけにもいかないから、派手な技は使えない。もちろん神剣も極力使わない。

 他の魔族の注意を引く行為をしたらそこで終わりだ。多勢に無勢。間違いなく神剣を抜くことになる。

 そうなってしまえば命の保証はできない。

 そのためにも、小さな諍いだけで終わらせなければ。

 もちろんそんなの余裕だ。


「なめられたもんだなぁ!行くぜガキ!頑張って避けろよ!!」


 遅い。その程度の速さで頑張る必要などどこにあるのだろうか。

 避ける必要すらない。今攻撃してるのは俺だからだ。


「頑張って避けてみろ」


 警告はしたんだ。頑張ってもらわないと困る。あっけなく終わっても一向に構わないが、それだと面白くない。

 もう描き終わってる神法を起動する。

 描いたもの。それは、未来の景色。

 不確定な未来を神法で以って確定的な未来へと変更する、神の御技。

 強い想いと願い、そして十分な神力さえあれば神子なら誰でもできる最強の描き方。

 難点といえば、使われる神法がわからないことだが、さほど気にするようなことでもない。それこそ、隠している属性があったりしない限り。

 具現した神法は、圧倒的速さで魔族の男へと接近し、接触した。

 男は後方へと吹き飛びかけたが、後ろから吹いてきた不可解な風、もとい神法によりその場に停滞。

 すでに意識は昏倒していた。

 慌てて男に近寄り、接触した神法を消し、なんとなく服を整えておいた。

 神法が当たった瞬間に、声すら出さずに意識を手放してくれたため、周りから意識を向けられることはなかった。

 近くにいたもう一人の魔族の意識からは逃れることはできなかったが。


「……今の、本当に土属性か?」


 発動した神法、それは、風属性。

 圧縮された空気の球が、圧倒的な速度を伴って出現した。

 そして、吹き飛ぶはずだった男を無理やりに風で抑え込んだ。

 まだゼラファルムに教えるのは得策じゃない。

 先の発言から察するに、俺が二属性使えると知ってしまった場合、吹聴するはずだ。魔族ってそういうもんな気がする。

 それに、ゼラファルムにバレると魔王にもバレる可能性があるから。魔王には絶対に言うつもりはないし。

 さて、安易な嘘を信じるかどうか。


「正真正銘の土属性だ」

「信じ難いな。それも神子の能力だって言うのか」


 神子って便利な言葉だなって初めて思いました。

 ゼラファルムさんが真っ直ぐなやつでよかったです。


「そういうことそういうこと」

「にしても、あんな一瞬で倒しちまうとはな。しかもほぼほぼ誰にもバレずに」

「……そう描いたからね。その男、起こした方がいいと思う?」

「道端、それに入り口付近で寝られても困るしな。起こせるなら起こしといた方がいいんじゃなねぇか?どうやるのか知らんが」


 小声の肯定は聞かれなかったみたいです。ゼラファルムさん耳悪い?

 地面に寝そべってる男の元へ近づき、少しだけ神力を譲渡。

 またアリア以外の人に……人じゃないけど。それでも嫌ですね。

 男はむくっと起き上がり、こっちを見て驚きの表情。

 大声を上げる前に釘を刺すのを忘れちゃダメですよ。


「驚かないでください。あんまりことを大事にしたくないんです。今は周りの魔族にも戦ったのがバレてないので、できればこのままにしていてください。無かったことにしてもいいですよ?」

「待て待て待て。他の魔族にもバレてないだと?あの衝撃の一撃喰らったらバレないわけないだろ!!てか、なんでオレの傷はないんだ?」


 無かったことにはしてくれないみたいですね。残念です。それが一番楽だったんですが。


「まぁそういう日もありますよね。今日は傷がすぐ癒える日だったんじゃないですか?」

「……丁寧な口調で話すな。お前みたいな強いやつが謙ってるとこ見ると寒気がする」


 みんな丁寧な口調好きじゃないんですよね。そんな丁寧な気しないんですけど。

 でも、アリアも雑な方が好きみたいだし。そんなアリアのことを俺は好きだし。アリア可愛いし。大好き。


「お前が魔族と戦う気はないっていうことはよくわかったよ。手ぇ出して悪かったな。他のやつらにもオレから言っといてやるよ」

「助かるよ。ありがと」

「気にすんなよ。でもまさか風の神子だったとはな……」


 おい。今聞き捨てならないこと言わなかったか?

 バレてる!?え?って待てよ。そりゃそうか。受けた本人だもんな。

 ゼラファルムと同じやり口でいけるのか?いやダメな気がするぞ。

 ならいっそのこと認めるか。認めた上で協力してもらおう。


「えっと、一応そうなんだけど。他の魔族に言うときは属性は伏せておいて貰えると助かる。聞かれたら土の神子って答えて欲しい」

「なんで隠すのかわかんねぇけど、いいぜ。土属性って言えばいいんだな」

「うん。頼んだよ」


 物わかりがよくて助かりました。ゼラファルムじゃ多分無理でしたね。

 いや、さすがにゼラファルムでもあれくらいは理解できるか。

 男が去っていったのを確認して、ゼラファルムの元へ戻り、少しだけ先の戦いについて話したあと、金色塔へと向かうことにしました。

 向かう途中でたくさんの魔族から奇異な視線を向けられましたが、特に突っ掛かられることはなく、順調に進みました。あの男に感謝です。名前聞くの忘れちゃった。

 障害という障害もなく、金色塔の入り口へと辿り着きました。

 竜の紋章のようなものが描かれた、荘厳な扉をゼラファルムが押し開けていきました。

 ゼラファルムに追随するように中へと入り、周囲を確認。

 広がっていたのは、見渡す限りの金、金、金。全てが金色だった。

 一階はだだっ広い空間の中央に入ってくるものを迎え入れるかのように、天へと向かう螺旋階段があり、ゼラファルムはなんの迷いもなく上へと登っていった。

 各階層毎に幾つかの部屋に分かれていて、生活する施設などもしっかりとしていた。

 長いこと螺旋階段を登り続け、階層の数で九にたどり着いたとき、ようやくゼラファルムの足が止まった。

 入り口で見たのと同じような扉が目の前に広がっていた。

 ゼラファルムはなんの躊躇いもなく、その扉を押し開けていった。

 その先にあったのは金色の玉座。

 豪華絢爛な椅子がたった一つ、そこに鎮座していた。

 その上に座しているのが、白髪に青い眼を携えた一人の青年だった。

 APPでゴリ押しできそうなほどに顔は整っており、リュウガが若くしてかっこよくしたらこんな感じだなって。髪も眼も一緒だし。

 しかし、その端整な顔からは想像もつかないほどに、放たれる圧は魔王そのものだった。

 少し、肌寒くなってきたのもあいつのせいです。

 肘掛に肘を置き、頬杖をつくその青年はゆっくりと口を開く。漏れ出たその声音も、魔王という事実を助長させるものだった。


「俺に何か用か?ゼラファルム。そしてそっちのガキ」

「オレはお前になんて用はねぇよ。ただの案内役だ」

「そうか。お守りご苦労だったな。人のガキのお守りなんて、なんか心変わりでもあったのか?」

「あったとしてもお前には言わねぇよ」


 あれ?こいつめっちゃ態度悪いじゃないですか。そういう関係?

 魔族なのに魔王と仲悪いって意外……ってわけでもないですね。ゼラファルムの以前の主であるゼルドラを殺した張本人ですし。


「ふはは。全く信用されてねぇのは相変わらずだな。これでもお前らの嫌いな人にとっての最大の敵なんだけどな。敵の敵は味方じゃないのか?まぁいいか。おいガキ。お前の用はなんだ?」


 話しかけられただけですが、やはりまた気温が下がった気がします。どういう原理ですか?

 包み隠す必要もないので、正直に言いますか。


「世界の半分が欲しいです」

「……もう一回言ってみろ」


 耳悪いんですかこの魔王様。

 耳悪い魔王ってなんかすごくダサイですね。


「世界の半分が欲しいです」


 急に笑い始めるとか怖いからやめてほしいんですけど。

 落ち着くまでだいぶ時間かかりましたね。笑いすぎです。


「そうか世界の半分か。面白いな。理由はなんだ?」

「好きな子のためです」


 そんな面白いこと自分言いましたか?アリアのためとか普通でしょ。

 さすがに笑いすぎじゃないですか?


「はは、悪いな。そんな不機嫌そうにすんなって。お前の好きな子が世界の半分を欲しがったってことか?」


 不機嫌そうにした覚えはないんですけど、無意識下でそうなってたんでしょうか。

 とりあえず頷いておきましょう。


「そのために魔王って呼ばれてる俺のとこにゼラファルムはいたとはいえ単身でやってきたのか?」


 もう一度頷きます。


「すげぇやつだな。お前、名前はなんだ?」

「レオニス・アルラトスです」

「アルラトスか。聞いたことはないが、イエレンの分家に似たようなのがあったな。一人でここまで来れたことを鑑みるに、土の神子か?」


 家名から当てるとかすごいですね。またまた頷きます。


「土の神子か。レオニス、いいぜ。世界の半分くれてやるよ」


 あれ?そんな楽に手に入っちゃうんですか?いや、どうせなんか条件ついてくるやつですね。

 喜んじゃダメですよ。どうせぬか喜びです。


「本当ですか?」

「あぁ。その代わり、全世界を征服したあとだけどな」


 やっぱり条件付きでしたね。

 しかもかなりハードです。世界の半分を望んでるんだから妥当な気がしますが。


「ちょうど俺もそろそろ征服しようと思ってたんだよ。ゼラファルムも必要だったからほんとちょうどよかったな」

「は?なんでオレが……いや。そうだな。手伝ってやってもいいぜ」


 ゼラファルムは手伝ってくれるみたいです。感謝しかないです。

 征服ってどんくらい時間かかるんでしょうね。なるべく早くして欲しいんですけど。


「それでレオニスはどうする?報酬は世界の半分だ」

「世界の征服ってどのくらい時間かかるんですか?」

「そんなもんやってみなきゃわかんねぇよ。上手くいきゃ一年足らずでいけるかもな」


 一年もアリアと会えないとか死ぬ気する。

 でも途中でミドラ行くだろうからそのとき会えば耐えれるかな。抱きしめさせて欲しい。

 会いたい。あぁやばい心から会いたい。アリア。胸が痛い。


「わかりました。手伝います」

「色良い返事がもらえて何よりだよ。早速だが、レオニス。お前の力を俺に示してみろ。悪いがお前を育成できるようなやつはここにはいない。今のお前の力が、そのまま俺らの戦力だ。これでクソ弱かったら話にならねぇからな」


 やっぱりゼラファルムに属性バレなくてよかった。

 まぁあの感じなら万が一にも僕の情報を流すとは思えませんが。

 なんとなく予想はできてましたからね。戦わなきゃいけないってことぐらい。


「全力で来い。お前の持ちうる全ての手札を使って俺に証明して見せろ。お前の強さを」

「本当に、全部の手札を切っていいんですか?」

「当たり前だ。お前の腰に刺さっているその剣も使っていいぜ」


 神剣を使っていいらしいです。どうやら相当強いみたいですね。

 風属性は使うかどうか悩みますけど、少なくとも出し惜しみして勝てる相手ではないことはわかります。

 勝つことが目的ではないんですけどね。


「わかりました。今出し得る限りの全力でいきます」

「その意気だ。一切出し惜しみするんじゃないぞ?周りのことは気にすんな。この塔は、絶対に壊れない。だから好きなように暴れろ」


 壊れない。どういう原理かわかりませんけど、神剣に全神力込めても大丈夫ってことなんですね。

 神力量に不安があるとはいえ、面白くなってきましたね。


「さぁ、剣を抜けレオニス。お前の前にいるのはこの地を統べる王だ。油断してると、死ぬかもしんねぇぞ?」


 魔王が右手を前に突き出した。

 俺は剣を抜き、左手で持つ。そして、魔王の方へと右手を向けた。

 合図も何もなく、一瞬のうちにその場が白く染め上げられる。

 今、戦いは幕を開けた。

APP16の魔王様

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