18話 信じられました
眠くてすっごい適当に書いたから変なとこあっても許して
許せない。許したくないけど、あの人が望んだ世界だから。
いつか信じれる日がきますように……
ゼラファルムから水をもらい、もうなんでもできます。余裕です。
というわけで、足に神力こめて神法を……いや、風属性のことは言ってないから使うべきじゃないか。
「よし、じゃあ行くか」
「おう!って、待て速ぇよ!」
ゼラファルムの声を後ろに聞き、少し速度を緩めようと思ったけどやっぱやめます。ただでさえ神法使えないから遅いんです。
振り返って声をかけるだけに留めておきます。
「遅いよ!ただでさえ遅れてるんだから急がないと!!」
「遅れてるってどういうことだよ……あぁったく、わかったよ!!自業自得とはいえ、神力少ねぇんだけどな!!」
すごい気迫で後ろから人外が迫ってきます。恐怖です。
ゼラファルムもやればできるじゃないですか。それでも少し遅い気がしますけどね。
「あれ?ゼラファルムってその程度なの?もっと速く走れないの?」
「あ?お前より今速ぇだろうが!!」
え?あぁそうでしたね。ちょっとゼラファルムに気を遣ってしまうなんて優しいですね自分。少し自画自賛です。
ふぅ。じゃあ吸収使うか。
「え?なんて言ったの?遠くて聞こえなかった」
「マジかよ。オレの神力枯渇するんじゃねぇか?いや、もういいけどよ!!」
うわすごいね。一応結構神力こめてるんだけどな。
やっぱゼラファルムって結構魔法もすごいのかも。
生命力が異常なのも相まってかなり強い魔族なんじゃないか?
「ゼラファルムって魔族の中でも相当強い方なんじゃない?」
「この状況で余裕で喋れるのかよ……これだから神子は……」
答えてくれないどころかなんか不満漏らしましたよね、この魔族。
結構神力は込めてるとはいえ、答えられないくらいきつい状況でもない気がするんですけどね。
ん?だとしたらゼラファルムってそんな強くないんじゃないか?
「ごめんやっぱなんでもない。これくらいで根を上げるんだから、そんな強い方でもないよね」
「これくらいって、お前ほんとに底が知れねぇな。言っておくが、魔族の強さは神力容量じゃない。身体能力と生命力だ」
急に饒舌なのなんなんですか?やっぱ余裕あるじゃないですか。
「確かに生命力はやばかったね。神空包囲岩を耐えられるとは思わなかったし。あぁそっか。俺と戦ったから今神力少なくなってるのか」
「いや、ぶっちゃけあの技はやばかったぞ。一発なら余裕だが、さすがにあの量は割と危なかった。神力で補強することになるとは思わなかったな」
余裕ありそうには見えますけど、余裕ないんですね。
僕のせいでもありますし、神力くらいなら分けてあげましょうか。アリア以外に渡すのは嫌なんだけどね。
「ゼラファルム、手を出してくれる?」
「え?あぁ」
あぁ待って待って待って。譲渡ってダメじゃない?バレちゃダメじゃない?
……手ぇ差し出されちゃったし、譲渡くらいなら別にいっか。
どうせバレてもそんな被害ないでしょうからね。自分が強くなるわけじゃないですしね。
走りながらではあるけど、差し出されたゼラファルムの手に触れる。手ぇでっか。
手に意識を集中して、神力を送る。
ゼラファルムの神力容量がどのくらいかわかんないけど、いっぱい送っても問題ないよね。
「……は?おいレオニス。お前今何やった?」
「え?言わないけど、これでいくらでも走れるでしょ?」
「やっぱ、お前すごすぎだろ……」
ゼラファルムの神力も多分全回復しただろうから、こっからは走り続けられますね。
休憩なんてしてる暇はないですよ?僕は早くアリアに会いたいんです。
そもそも神法が使えないのだから、休憩なんてしていいわけないでしょ。
遅れを取り戻すために走り続けますよ!
夜はしっかり寝ますけどね。
神法で寝れる場所を作って寝ます。
隣にめっちゃでかいやつがいますが、気にしたら負けです。結構離しておきましたし。
アリア以外と同衾とかありえないから。絶対ありえないから。
すごく硬い。背中痛い。
岩で作るべきじゃない気がしてきた。今更もういいけど。
でも泥は嫌だし、砂とかならちょうどいいのかな?
寝返りうったりしたらすごい舞ったりしそうで嫌だけど。
まぁ今はこの硬い岩のベッドで満足するしかないんです。
アリアのことでも思い出せば幸せになれるから、それでこの硬さを凌ぎ切りましょう。
僕がアリアのことを考えた瞬間に、ゼラファルムの声が聞こえてきました。
「なぁレオニス。お前は、好きなやつのために世界の半分をあげようとしてるんだよな?」
「どうしたの?そんな当たり前のこと聞いてきて」
「なんでだ?なんでそこまでできる?」
なんでって。本当にどうしたのこの人。人じゃないけど。
すでに自分で答え言ってるのに。
「好きだから」
「……そうか。オレにはわかんねぇ感情だ」
なんか悲しいこと言ってますねこの人。人じゃないけど。
魔族には恋愛感情みたいなのってないんでしょうか?
「ゼラファルムは好きな子とかいないの?」
「生憎と魔族には性別というものがないからな。誰かを愛するなんてことはできねぇよ。それに……いや、なんでもない」
一番気になるやり方してきましたよこの人。人じゃないけどってしつこいな。
ゼラファルムがどういうやつなのかは全然知らないから、まだ信じるに値しない。
知らないものを信じるほどおバカな人はいないんですよ。
でも、ゼラファルムは信用してもいい気がする。少なくとも、僕には魔族が悪いものには思えない。
だから信じる。そのためには、まず知らなきゃいけない。
ゼラファルムという存在を。
「ゼラファルム。俺はお前を信じることにするよ。ゼラファルムが俺のことを信じれるかどうかはわかんないけど、でも、もし仮に信じることができるなら、ゼラファルムがどういう風に生きてきたのかを教えてほしい」
「唐突だな!オレがお前のことを信じれないわけないだろ?別にお前に殺されようがオレは文句言えないんだからよ。でもそうか、オレの過去の話か……別に聞いても面白くねぇぞ?それでもいいのか?」
僕が頷くのを確認して、ゼラファルムはぽつぽつと語り始めた。
宣言通り、しっかりと面白くなかった。
「過去って言っても、オレがこの世界にどう生まれたかなんてほとんど覚えてないんだよな。ただ一つだけ覚えてるのが、オレを作ってくれたのはゼルドラ様だったってことだ。ゼルドラ様から名付けられて、この世界の中心で普通に暮らしてたんだ。ゼルドラ様は人とともに暮らしていたらしいんだが、オレは人に会ったことがなかった。ゼルドラ様に頼んでも、会うことは叶わなかった。仕方ないと割り切って、普通に暮らしていたんだが、ある日ばったり会っちまってよ。恐れられたんだ。オレらと人じゃ体格が違いすぎるからな。それで、オレを恐れた人は、オレに向かって竜法、今で言う魔法を放ってきたんだ。強い魔法ってわけでもなかったから、全然平気だったんだが、恐れられたことが意味わかんなくてな、ゼルドラ様に聞いてみたんだ。返ってきたのは、人は傷つけるな。って言う言葉だけだった。もともと傷つけるつもりはなかったし、別によかったんだけど、ある日、仲間が死んだんだ。人に殺されたんだ。一切の抵抗することなく、複数人の魔法を一斉にくらい、命を落とした。なんの理由もなしに仲間が殺されたのが許せなかった。そして、それはゼルドラ様も同じだった。しかし、ゼルドラ様は深い憤りを感じながらも人との共存を模索していた。その想いをさらに人は踏みにじった。やがてゼルドラ様は人から魔王と呼ばれ、オレらは魔族と呼ばれるようになった。呼称なんてどうでもよかったんだが、人はゼルドラ様を悪だと教え、魔族は排斥すべき存在だと伝えられたらしい。それからは、オレらの戦いの始まりだったわけだ。ゼルドラ様は、人から危害を加えられたなら己の身は守れ。と、仲間たち全員に伝え、人と争うと言うことが当たり前のことになっていった。人と出会えば殺意の込められた攻撃が飛んできて、オレらも対抗するように攻撃をしていた。基本的にはオレらがいつも優勢だったのだが、ときどき現れる神子に押されていき、英雄……今じゃ魔王だけどな。二属性の神子であるそいつによってゼルドラ様が討ち取られたんだ。ゼルドラ様は満足してた。自らの命を差し出して、人魔の闘争を終わらそうとしていた。前よりは争いも鳴りを潜めている今のこの状況が、ゼルドラ様の真に望んだ未来とは違うことは理解できる。そして、それが実現不可能なのも理解できる。ゼルドラ様の意思を継ぐ魔族もいるが、オレは好きに生きることにした。好きに生きて、好きに死ぬ。それがオレだよ。今じゃもうこの命はお前のもんだけどな」
長いしつまらなかったですね。本当に。
人のつまらない業なんて聞きたくないです。
何度もリリアさんから聞いたんですよ。竜と人の話を。
なんでリリアさんが竜のことを知ってるのかは知りませんけどね。
「人と魔族の戦いで生き残ったってことは、やっぱりゼラファルムは魔族の中でも強い方なの?」
「どうだろうな。オルバスの大地だったら魔族の中でも一番なのかもしれない」
水系魔族だから、オルバスだと加護で強くなるのはわかるけど、一番と言えるほどの強さなんですね。
どのくらいなのかすごい気になりますね。
「じゃあ、いつかオルバスで戦おう」
「参考までに聞いておきたいんだが、お前あのとき全力だったのか?」
あのときってどのくらい神力込めたんだっけ?
殺さないように気をつけてたから、そんな神力使ってない気もするけど。
そもそもドラガリアを使った時点で全力なのか?
「どうだろうね。神剣を使った時点で相当本気と言えば本気なんだけど、使った神力が本気ってわけでもないし」
「……オルバスで戦っても勝てる気しねぇな」
「神剣は俺の力ってわけでもないから、オルバスならゼラファルムの方が素の実力は上なんじゃない?」
神法だけでゼラファルムを倒せるかと言われれば、自信を持って頷ける気はしない。
アリアが使っていた、あの極限まで神力を込めた一撃なら、或いは。
でもあれだと即死かもしれないから使うわけにはいかないんだけどね。
「いや、その剣もお前の実力だろ。相当な業物っぽいしな。初めてだったぞ?あの威力は」
「まぁ、アルラトス家の神剣だからね。先生とリュウガが作ったんだから強いに決まってるでしょ」
「お前の親か何かか?」
「うん。そうだよ」
「……そりゃレオニスくらいの強さなら親もすごいんだろうな。わかってたけどよ」
ゼラファルムもわかってますね。先生はすごいんですよ。もうほんとめちゃくちゃすごいんです。
リュウガはまぁ、うん。
「オレの話をしたんだ。今度はお前の話を聞かせてくれ、レオニス」
「いいけど、そんな面白い話じゃないよ?」
「いや、オレは人の話は好きなんだ」
本当に面白い話じゃないんですけどね。よくわかんないやつです。
長々と話すのもあれですし、短くまとめますか。
「えーっと。アリアに一目惚れして、アリアと一緒に暮らして、アリアに告白して、アリアのために世界の半分あげようと思って、今ここ」
「お前その子のことしか考えてねぇのか……?」
「当たり前のこと言わないでほしいんだけど」
「……悪いな。ってそうじゃなくて、どうしてそんなにその子のことが好きなんだ?」
『どうして』ですか。考えたこともなかったですね。
一眼見たときから好きでしたし、それに関しては容姿の話だったけど、一緒に過ごしていくうちにアリア自身をどんどん好きになっていった感じがする。
確かにどうしてなんだろう?どうしてこんなにアリアのことが好きなんだろう?
アリアのことを考えると胸がドキドキして、やっぱり好き。
理由なんていらない。どうしたもこうしたも関係ない。どうしようもなく、アリアが好き。
「理由じゃないよ。理由なんてそこに存在してない。確かにアリアは誰が見ても好きになっちゃうくらいかわいいと思うし、アリアの性格なんて誰がどう見ても天使以外の何者でもないし、どんなやつでもアリアと過ごせば好きになると思うから、理由としてあげることもできるんだけど、そういう次元じゃないっていうか。そんな安易な理由でこの想いを表したくないっていうか。とりあえず魔法や神法って想いの力なわけじゃん。だから、アリアのこと想って神法撃っていい?」
それが一番手っ取り早いですよね。
あれ?どうしてっていう問いに対しての答えになってないような気が……まぁいいや。
「え?いやいややめろやめろ!!尋常じゃない被害が出る気するからやめとけ!!」
「ゼラファルムには当てないから大丈夫だよ」
「そういう問題じゃねぇだろ!!お前の本気がどんなもんなのか見てみたい気持ちはあるが、マジでやばそうだからダメだ!!」
ダメみたいですね。
僕がいかにアリアのことを想ってるのか、目で見て知って欲しかったのですが、まぁいいでしょう。
「そこまで言うのならやめとく。とりあえず、俺がアリアのことをどうしようもなく好きってことが伝わったならそれでいいよ」
「わかった。わかったよ。理由じゃ表せないくらい好きなんだろ?」
「そういうこと」
わかってるのならいいんです。さすがゼラファルムです。
「人の感情は、やっぱり意味わかんねぇな」
「ゼラファルムにも感情はあるんでしょ?楽しいとか、悲しいとか」
少なくとも、自分のことを語っているときのゼラファルムは悲しそうだった。
勘違いの可能性も大いにあるが。
「あぁ。いろんなことを想ったり考えたりできる。オレらは人や竜とほとんど変わらないんだ。でも、誰かを好きになるっていう感情だけはどうしても理解できないんだ」
「別に、無理に誰かを好きにならなくてもいいんじゃないの?楽しければそれでいいと思うけどね。一緒にいて楽しい人見つけたりすれば?人じゃなくてもいいけど」
わざわざ誰かを好きになる意味があるのかと言われれば断じて否である。
今までずっと誰かのことを好いている自分が言っても説得力皆無ですかそうですか。
「あぁ。オレもそう思うよ。楽しければいいと思う。だけどな……いや、やっぱなんでもない」
また気になるような言い方しやがってこいつ。まぁいいんだけどさ。
「レオニス。お前はオレが唯一信じれる人だ。ありがとうな」
「唐突だね。でも嬉しいよ。こちらこそありがとう」
今の言葉が本当かどうかなんて無粋なことは考えない。
信じれないわけない。
誰かの信頼を信じれないのなら、もう誰も信じれないはずだ。アリア以外。
だから俺はゼラファルムを信じる。信頼に値する存在であると認める。
言い方を変えるなら、友人とでも称すべきなのかな?流石に気が早いか。
「もう少しだけ、人を信じれる気がしたよ……」
ゼラファルムの小声の呟きを逃すほど僕の耳は悪くないですからね。
聞こえたからと言って特に何かあるわけでもないですけどね。
返す反応はないです。
ゼラファルムの話を聞いたのだから、ゼラファルムがどんな想いで先の発言をしたかなんて考えなくてもわかる。
人には決して伝わることのない魔族の想いを人である俺が汚すわけにはいかなかった。
「明日も走り続けるわけだし、そろそろ寝ようか」
「あぁ。確かにそうだな」
初めて出会った魔族は、どこまでも優しい過激な魔族でした。




