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11話 今はまだダメ

 逆境であれ!!

 何もない平坦な道を進むよりも、歩くことさえ困難な道を進め!!

 それが険しければ険しいほど、己が人生の糧となろう!!


 シャルナ先生という圧倒的なまでの強敵を退けた今、俺に怖いものなんてない。待つのは希望と夢が詰まった理想郷だけだ。

 今日も楽園へと足を踏み入れるか。


 わたしはアリア・ララモーラ。

 リリア・ララモーラの娘で、ちょっと前までは風の神子だったんだけど、別に風の神子じゃなくなったわけじゃなくてね、風と、あと土の神子になっちゃったの。

 なんで土の神法が使えるようになったのかはわからないんだけど、数日前、ほんの3日前にあったレオニスって男の子が関係してると思うの。

 というかそれ以外ありえないし。レオは土の神子だからね。

 でもやっぱりわかんない。レオが何かやったのかと思ったけど、レオも驚いてたから絶対違うし。

 変わったことはそれだけじゃなくてね、今立っているこの大地や、触れている風が熱を帯びたの。

 レオが言うにはそれは神力の熱らしくて、実際に神法使ったときに、こうなんて言うのかな、身体の中に温かいのが入ってきて、神力がふわあってなったの。えっと、レオは、そう!吸収!神力を吸収できるようになったの!

 どっちもレオに会ってからできるようになったんだけど、本当にどうしてなんだろう?

 神力の熱を自覚し始めたのは、神法をミスって落ちちゃった後からだから……!?

 違うの!あれは事故だから!!そもそも、関係あると思えないし、絶対違うから!!

 あのときレオが受け止めてくれなきゃどうなってたのかな。結構高いところから落ちちゃったし、大怪我してたかも。それに、神力の熱を知ることもなくて、土の神法も使えなかったかも……ってダメダメ、わざわざわたしから結びつけてるじゃん。

 二属性の神法だなんてお母さんに聞く限り、才能とかだけじゃ不可能らしいし、わたしに土の国の血は流れてないから使えるわけないし。

 やっぱりレオのおかげなのかな。それでも原因はわかんないけど。いや一つあるけど、それは違うから……

 思い出しちゃうダメだよわたし。あれは事故だから。事故事故。うん……

 なんで唇に触れてるの?わたしの右手どうしちゃったの?さっきからここ暑くない?神法使お。

 レオとちょっとだけど特訓したおかげで、スムーズに神法が使えるようになったから、すごく楽なの。

 涼しくなって!って前だったらお願いするだけだったから、温度とかも調節できなかったけど、今はこう、涼しそうなわたしを描けばそうなってくれる感じ?すごく便利。

 レオは初めて会ったときからわたしのことをすごくかわいいって言ってくれて、優しい人だなって思った。

 それに、す、好きって言ってくれて、わたしの何がいいんだろうって感じ。嘘じゃないことはなんとなくわかるしすごく嬉しいけど、まだ会ってからそんな時間が経ってないのに、言われても困っちゃう。

 もっと大きくなってそれでもレオが好きでいてくれたら……って未来の話は今しても仕方ないよね。

 わたしはレオのことが好き。でもその好きはレオのとは違って、お友達って感覚が強いと思う。

 神子っていう理由だけで仲間はずれにされてたから、同年代に仲のいい子はいなかったんだよね。だからレオが初めてのお友達なのかな。

 レオがどんな風に過ごしてきたかはわかんないけど、レオも同年代に仲のいい子はいなかったと思う。神子は世界からしたらすごい人らしいけど、同い年の子からは怖い人って思われちゃうし。

 わたしのことをなんで好きなのかわかんないけど、多分初めて同年代で仲良くなれたからなんじゃないかな?わたしが考えても仕方ないけどね。

 今日あったら聞いてみようかな……

 やっぱりまだ暑い。レオのことを考えると部屋が暑くなる気がするのはなんでなんだろう?よくわかんないや。

 今日もレオと特訓なんだけど、レオは旅行でこっちにきてるみたいだし、もたもたしてたら帰っちゃうよね。

 レオが帰るまでに一緒に飛んでみたい。レオがそう望んでたから、叶えてあげたい。

 そのためにも、まずはわたしが頑張らなきゃだね。わたしのために、そしてレオのために早く飛べるようにならないと。

 そろそろ時間かな?

 お母さんに行ってきますして、わたしは大樹へと向かった。


 昨日もそうだったけど、レオはやっぱりわたしよりも早い。待たせちゃって申し訳なくなってきちゃうよ。


「ごめんね。待たせちゃった?」

「いや、俺も今きたとこだよ」

「本当?」

「……うん」


 少し顔を逸らしたってことはもっと前からいたってことなのかな?


「どのくらい待った?」

「えっと、20分くらいだと思うけど」


 え?20分も早くいたの?早くきすぎちゃったのかな?それともわたしが遅かったのかな?


「ごめんね。もっと早くくればよかったのに」

「アリアは悪くないよ。時間よりも早かったし、ただ俺が一刻も早くアリアの顔が見たかっただけだから」


 前言撤回。さっき、レオのこと好きって言ったけど、やっぱあれなし。レオは嫌い。

 こういうことなんの躊躇いもなく言わないでほしい。恥ずかしい……


「アリア、忘れないうちに聞いておきたいんだけど、その、初めて会ったときにさ、神力の熱って、あの…………前から感じてた?」


 レオの顔がすごく赤くなってて、途中本当に小声で聞き取りにくかったけど、何が聞きたいのかははっきりとわかった。

 わたしの顔も赤くなってるのがわかる。恥ずかしいからレオから視線を外して、そっと否定の意味で首を振った。


「やっぱりさ、俺たちが神法とか使えるようになったのって……」

「いい言わなくていいから!」


 なんとなくそんな気はしてたけど、でもやっぱりまだ信じたくない。そんなの、そんなの、恥ずかしすぎるよぉ……

 顔が熱くなってるのが触れなくてもわかっちゃう。でもでも、やっぱそんなわけないはず。そんな、あんな恥ずかしいことしたら強くなるなんておかしいんだから!

 でも、好きな人とだったら……違うの!わたしのレオへの好きはそういう意味じゃないって!!

 だけど、レオはわたしのことを……


「ねぇレオ、レオがわたしのこと好きなのはわかるんだけど、どういう好き?」


 なんでこんな質問してるんだろわたし。多分だけど予想通りな気がする。嬉しいけど。


「え?あぁ、えっと、リュウガやシャルナ先生への好きとは違って、なんて言うんだろうな、一緒に生きていきたい」


 ……!?

 予想通りだったのに、なんかすごくドキッとしたんだけど。わたしの身体どうしちゃったの?

 すごくかっこよかった……じゃなくて、理由を聞いてみよう。もしかしたらすごくひどい理由かもしれないし。

 そんなことないってわかってるのに、どうしてそんなこと思ってるんだろ……やっぱわたしちょっとおかしいかも。


「どうして、そう思ったの?」

「一眼見たときから、アリアと一緒に生きたいって思ったんだ。うん。好きだよ、アリア」


 本当にレオはずるいと思う。レオが好きって言ってくれるたびに胸がちょっとだけ痛くなる。あと、やっぱりすごく嬉しい。

 でもまだそれを受け入れるわけにはいかないの。だって会ってから全然経ってないんだから!あと5年くらい経ってもレオが好きでいてくれるなら……うん。


「ありがと。でもまだダメ。もっと大きくなってから、そうだね……5年後に気が変わってなかったら、改めて言って?そのときはしっかり答えるから」

「え?本当に?」


 レオの純粋な好意に応えないのはやっぱりダメだと思う。でも、まだ浅いし、わたしの想いが全然固まってないから答えられない。5年後なら、きっとわたしも応えられると思うから、そのときはしっかり答えてあげなきゃレオに失礼だと思う。

 だから、あと5年だけ待っていてほしい。


「ごめんね。でも5年後には絶対、レオの想いに応えるから」

「謝らなくていいよ。先に言っておくけど、5年じゃ絶対俺の想いは変わんないからね」


 うん。それはわかってる。レオはわたしが思うよりもずっとわたしのことが、す、好きなんだと思う。

 そしてわたしも……まだあと5年もあるし、急ぐ必要なんてないの。

 ゆっくり描いていこう。わたしの未来を。


「ごめんなさいレオニス。さすがに5年は無理よ」


 え?今の声って……

 レオの顔が、今まで見たことないくらい赤くなってる。あ、ちょっと面白いかも。

 でも待って、もしかして……今の会話聞かれた?


「ごめんなさいね〜。うちのアリアが5年とか言わずに3ヶ月とか言ってたらよかったんだけど」


 そんなの、そんなの、恥ずかしすぎるよぉ……!!


「いえいえ、うちのレオニスがアリアちゃんのことを好きになったんだし、アリアちゃんは悪くないですよ」

「あ!じゃあ、レオニスくんにうちに泊まってもらうのはどうかしら〜」


 わたしの部屋にレオが?そ、そんなのダメ。絶対ダメ。


「え?いいんですか?私たちは全然大丈夫ですが」

「私たちも全然大丈夫よ〜」

「大丈夫じゃない!!レオと一緒に生活なんて恥ずかしすぎだから!!」

「え〜、レオニスくんは?アリアと一緒の家で暮らしたいわよね〜?」


 レオが赤い顔のままこくこく頷いてる。


「アリアがいいなら一緒に暮らしたいですが、アリアが嫌なら僕も嫌です」


 動作だけじゃなくて言葉でも首肯。

 わたしが嫌なら自分も嫌って、本当やさしいな。さっきから胸がちょっとだけ痛いよ。


「わたしは……やっぱまだ早いと思うからダメ」

「じゃあ仕方ないわね〜。シャルナさんたちは、いつまでいるのかしら?」

「3ヶ月が限界ですね。予定では大体2、3週間だったので、進展を見て延長していく感じですね」


 まだレオといれる時間はいっぱいあるんっぽい。嬉しいな。


「そうなの。そのくらい時間が経てば、アリアもレオニスくんと暮らしたいって思うかもね〜」


 2、3週間でそんな風に思うとは思えないけど、3ヶ月もあったらわたしもそう思うのかな?恥ずかしいから考えないでおこう。


「そもそもなんでお母さんがここにいるの!?」

「アリアの言う通りです。なんで先生とリリアさんがここに?」

「なんかシャルナさんが、アリアとレオニスくんが二人きりのときに何かしたから神法覚えたんじゃないかって言ったから、私たちも見なきゃだね〜って」

「え?いや私は昨日のレオニスのことを教えただけで、引っ張って連れてきたのはリリアさんじゃないですか」

「だってレオニスくん唇に手を当ててたんでしょう?気になるのも仕方ないわよね〜」


 レオってばシャルナさんの前でそんなわかりやすいことしちゃったの!?わたしの前では隙なんて全然見せないのに。でも好きは……ってそんなこと今はいいの。

 レオの方を向くと赤い顔を申し訳なさそうに少しだけ下げてきた。

 レオのことだから無意識のうちにやっちゃったんだと思うけど、すごくまずい気がする。


「ねぇアリア。レオニスくんと何したの〜?」

「なな何もしてないし、あれは、あれは事故だから……」


 自分から墓穴掘ってる気がする!!

 でも仕方ないじゃん。あれは事故だし。それはわかってもらわないと。


「一昨日もアリアちゃん同じこと言ってたよね。あれってなんなのかしら?」


 レオの先生だけあってやっぱ鋭いよ。こんな鋭い人に隙を見せちゃうなんてレオのバカ。わたしもだけど。

 慎重に答えないと。少しでも情報与えたら絶対恥ずかしい目に合わされるし。


「あれは、その、そう!わたしが神法を失敗したときに、レオがわたしを抱きとめてくれたの!!」


 あ……これじゃ意味ないじゃん!ほとんど真実だし。でもああ、あれのことは言ってないから大丈夫だよね?

 レオがちょっとジトっとした目でこっちみてるような気がするけど、気にしたらダメだと思うの。


「そうだったの。それでそのときに唇と唇が当たっちゃったのね」

「「……!?」」


 え……?なんで?しかも直接的すぎるよ。ダメ思い出しちゃう。レオの熱がわたしの中に入ってきて……恥ずかしすぎるよ。

 何か言わないと肯定してるようなものだけど、今のわたしじゃ絶対余計なこと言っちゃうし、レオがなんか言ってくれればいいんだけど……

 レオに頼るのはダメかもしれない。レオの方がシャルナさんのことを理解してるし、今のレオはすごく顔赤いし、あ!また唇触ってる。

 思い出しちゃうとそうだよね。無意識のうちに触っちゃっても仕方ないと思う。わたしも……って、え?わたしの右手いつの間に?無意識だった。

 でもレオとわたしは決定的に一つ違う。だってレオはわたしのことが本当に好きなんだし。

 あのときレオは嬉しいって思ったのかな?わたしは……恥ずかしいだけだった。初めてだったし、もっとちゃんと好きになってからしたかったな。レオと。

 ???え?どうしてレオと?えぇ?別にレオ以外にも男の人なんていっぱいいるし、レオのことを好きになるかどうかなんてわかんないのに。


「そうだったのね〜。でもどうしてお互いの神法が使えるようになったのかしら?」

「それがよくわかんないのよね。レオニスたちも知らないみたいだし」

「特に関係ないのかもしれないわね〜」

「レオニスはキス以外にアリアちゃんと何かしたの?」


 き、きききキス!?シャルナさんてなんでそんなはっきり……そっか、事故とはいえレオとき、キスしちゃったんだ。


「……特に何もしてないです」

「ふーん。アリアちゃんは?」

「な、何もしてないです」

「本当に何もしてないみたいね」


 今のでわかっちゃうの!?本当にシャルナさんってすごいんだ。これがレオの先生か。


「じゃあ、やっぱりキスが原因ってことになるわね〜。二人が神子だったから偶然できたとかそんな感じじゃないかしら?」

「神子のこととなると私たちにわかることはほとんどないですし、考えるだけ無駄でしたね。最初からそうだろうと思ってはいましたが」

「使えるなら使ってみたかったわね〜。二属性の魔法」

「そうですね」


 なんかお母さん二人で完結しちゃったみたい。わたしたちをからかいに来たのかと思ったけど、二属性の技を使えるのに憧れてただけっぽい。酷い思い違いだったね。

 事故がバレちゃったけど、特になんもなくてよかった。恥ずかしいけど。恥ずかしいけど!大事だから二回。


「でもどんな感じなのか見ておきたいのよね〜。私神力見るのだけは得意だから。アリア、ちょっとレオニスくんともう一回キスしてくれない?」


 思い違いじゃなかった。いやシャルナさんに関しては思い違いかもしれないけど、お母さんの方は全然思い違いじゃなかった。

 もう一回とかこの人何言ってるの?そんな恥ずかしいことできるわけない。それに見られながらとか余計に嫌。


「お母さん何言ってるの!?わたしとレオはそういうのじゃないし、き、ききキスとかできるわけないでしょ!?」

「アリアはレオニスくんとしたくないの〜?」

「そ、それは、まだダメ……」


 なんでなの?いつかしてもいいみたいな言い方。確かに男の人で仲良いのなんてレオしかいないけど、それは今の話だし。

 確かにしたくないかって言われたらはっきりとNOって言える自信はないけど、したいかって言われたら今ははっきりとNOって言える。だって恥ずかしいし……

 レオの方を見るのは無理。でも一瞬だけチラッと見てみる。

 目が見開かれて、さっきよりも顔が赤くなってる気がする。嬉しいのかな?わたしがしたくないって思ってないこと。


「まだ、なんだね。よかったわね。レオニス」

「……はい」


 シャルナさんは素直にレオとわたしが結ばれて欲しいって思ってるのかな?レオの想いを応援してるのかな?

 わたしはレオの想いにどう答えればいいのかな?やっぱりまだ答えは出ないね。5年間もレオはわたしのことを好きでいてくれるのかな?もしそうなら……5年もレオと一緒なら……


「そう。無理強いはできないわね〜。二属性は諦めるわ」

「仕方ないですね。リリアさん、私たちは帰りましょうか」

「そうね〜、二人の邪魔しちゃ悪いもんね」

「じゃあね。レオニス、アリアちゃんになんかしちゃダメよ?大きくなってからアリアちゃんも同意の上でしてね?」

「はい。わかってます」

「うん。ならいいわ」

「アリア、あなたは男の人に会ってきてないからわかんないでしょうけど、レオニスくんってすごく優良物件だからね〜」

「……かっこいいのはわかってるから」

「……!?」

「うちのレオニスを物件扱いしないでもらえますか?リリアさん」

「ごめんなさいね〜。言い方を変えるわ。アリア、レオニスくんと一緒に世界を見てきてね〜」

「うん。頑張る」

「じゃあ、ばいば〜い」


 世界を見る。それは空の上から。つまりはレオと一緒に飛ぶってこと。言われなくても頑張るんだから。

 場を撹乱するだけしてお母さんたちは帰っちゃった。目的は二属性を使えるようになった秘密?を知りたかったんだと思う。

 わたしたちもわからないからお母さんたちがわかるわけないんだけどね。

 とにかく、レオと二人きりだし神法の練習をしないと。早く飛びたいからね。レオと一緒に。


「お母さんたち帰っちゃったし、神法の練習しよ?」

「……やっぱアリア大好き」


 ……わたし一人で飛ぼうかな。

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