第八十三話 騎士とリリア
私のお休みが終わってしまいました。
外交官のお勉強と社交の日々が戻ってきました。黒髪の愛しい少女に出会えません。
お茶会も終わったので王宮騎士団の訓練場に来ています。
ニコラスに終わったら寄り道しないで訓練場に行くと約束したので。
最近、ニコラスが離れてくれません。サロンの前で待たれるのは嫌なので訓練場に行ってもらいました。仲がよろしいのねって生暖かい視線でからかわれるのがつらいです。
「リリア、久しぶりだな」
知り合いの騎士を見つけたので聞きたいことを教えてもらいましょう。
騎士が声をかけてくるのは暇な時だけです。ここは昔からお世話になったので内情は知ってるつもりです。
「お久しぶりです。最近は黒髪の少女はいませんか?」
「黒髪?ああ。友達になりたいの?」
「そうです。お友達になりたいんです。中々機会がなくて。」
「残念ながら最近は見ない。」
「残念です」
手詰まりです。困りました。
頭を軽く叩かれました。
「リリア、久々に相手してよ」
「私は訓練着ではありません」
「魔法だけでいいよ。今日こそは俺にあてられるか?」
この騎士は昔からよく遊んでくれました。
ニヤニヤと見てきます・・。成績は全敗なので気合を入れます。
「今日こそは」
風の魔法で小石を浮かせてぶつけます。
避けられました。これは?楽しくなってきました。全然当たりません。
魔法を繰り返します。あ!!
余裕で笑いかけてくる騎士にイラッとしました。
頭の上から小さい水球を降らせますが逃げられました。なんで当たらないのかな。
石はやめて水球だけにしましょう。
「なんで当たらないの!!」
「わかりやすすぎ」
昔より魔法の起動は早くなってるのに避けられます。
絶対に当てます。範囲を広げればいいのです。
大きい水球を作って振り下ろします。
ピシャン。
当たりました!!
「リリア、バカなの?」
「私の勝ちですわ。初勝利です。」
笑いがとまりません。あの唖然とした顔は見ものでした。
呆れた顔で見られてるのは負け惜しみです。
「腹を抱えて笑ってるけど、自分もずぶ濡れだろうが」
「勝利には多少の犠牲はつきものです」
「相変わらずバカだな。元気になったならいいよ」
髪をぐしゃぐしゃにされてます。
纏めていた髪を解きます。
「私は元気ですよ。髪をぐしゃぐしゃにしないでください。」
「あれは反則だから」
「私の勝ちでしょ?」
「なしだろ。もう子供じゃないんだから頬を膨らませるのやめろよ」
頬を突っつかれます。
突然顔が青くなったけど、どうしたんでしょう。
「何してんの?」
振りむくとニコラスがいました。
「ニコラス、お茶会終わりました」
「リリア、何してたの?」
「遊んでいただけです」
「なんでそんなに濡れてんの」
眉を潜めてますが、ニコラスはなんで不機嫌なんでしょうか・・。
「色々ありましたのよ」
「俺はこれで。またなリリア」
「え!?逃げるの!?ずるい」
立ち上がった騎士は私の声なんて聞かずに去っていきました。あの人は昔から薄情なんです。
「リリア、終わったら俺のところに来るって」
「寄り道せずに訓練場に来ました。」
「やっぱり終わるの待ってるよ」
「それは嫌」
「あいつと何してたの?」
「追いかけっこ。昔からよく遊んでくれるんです。全然捕まえられないから水球でピシャンと」
「自分も水浸しになるなよ」
「だって悔しくて。いつも全然当たらなくて。私の攻撃って当たらないんです。なんででしょう」
「動く相手には動きを読んで攻撃をしかけるからな。リリアには広範囲の魔法を教えてあるけど、熟練された相手だと簡単によけられるんだよ」
「難しい。私も強くなりたいのに時間が足りません」
「帰るよ」
暖かい風のおかげで体が乾きました。ニコラスの魔法ですね。私の魔法よりも威力が強いです。
「え?」
抱き上げないでいほしい。
「降ろしてください」
「降りれるならご自由に。王宮で騒ぐのは淑女としてどうかと思うけど」
暴れるのをやめました。
「怪我してません」
「体が冷えてる。」
「抱き上げられても暖かくなりません」
「なぁ、リリア、ここには親しい騎士どれだけいるの?」
「親しい?」
「あいつみたいな」
「昔からよく皆さんに遊んでもらったけど、親しい?」
「わかんないんならいいや。なんでうちじゃなくて王宮騎士団に懐いたんだよ」
「内緒です」
不機嫌ですね。でも物凄く怒ってるわけではないからいいかな。
「バカ、リリア」
「ひどい。少女が見つかりません。どこに行ったんでしょう」
「もう現れないかもよ。」
「わかりません。ねぇ、アイ様あのままでいいのかな」
「ん?」
「アイ様にもあの少女と同じようにたくさんの可能性があったでしょ?うちで侍女しながら小説かくのってどうなんだろうって」
「追い出せすなら協力するよ」
「違います。私の我儘で彼女を縛っていいのでしょう」
「あの女は好きにやってるからいいだろ。間違っても二人っきりになるなよ」
「ニコラスは相変わらずです」
「運命なんて信じないから。リリアの予言は外れたよ」
「まだわかりません。私が死ぬのは16歳ってアイ様言ってました」
「二人で会ったのか」
眉間に皺をよせるほど警戒するんですね・・。
「アイ様はうちの侍女ですから」
「リリアの部屋で寝泊まりするかな」
「ニコラスはもうすぐ成人するから駄目です。変な噂が立ちます」
「別に俺は気にしないけど。リリア、意識してんの?」
「しません。ただ噂になるのは困ります。揶揄われるのがつらい・・。」
「別に婚約者と仲が良いのはいいことだろ?自慢すればいい」
「そんな単純じゃありません。鬼の巣窟の社交界を舐めないでください。まぁニコラスのおかげで殿方のアプローチがないのは助かりますけど」
「思いきって婚姻する?」
「バカ言わないで。私はオリビアのように華麗に令嬢を撃退できないし、どうすればいいんでしょう」
「リリア、予言が外れたらどう俺に償うか考えておけよ」
「え?」
「俺がお前を捨てるから離れたいって」
「成人したら考えます。よく覚えてますね」
「瀕死まで追い込まれたからな。リリアのおかげで心が鍛えられるよ」
「もともと強靭な心の持ち主なのに」
「繊細な俺を労わってくれよ」
「ニコラスが繊細なんて言葉を知っていたとは驚きです。そういえば武術大会出るんですか?」
「出ない」
「なんで?」
「俺はリリアの護衛だから。父上も成人するまで出なくていいって」
「強い相手と戦えるのに?」
「戦いたい相手には直接勝負を挑みにいくからいいんだよ。どこに行こうとしてたの?」
「え?」
「俺が護衛にいないから抜け出そうとしたんじゃないの?」
「してません」
「嘘つくときに髪触る癖気付いてる?」
「え?」
「嘘」
ニコラスの頬を引っ張ります。
馬車もついたので降りましょう。
部屋でセノンと遊びましょう。これからどうすればいいんでしょうか。
少女が見つからないと今後の作戦が立てられません。




