第八十ニ話前半 お休み
私は16歳になりました。まだまだ気は抜けません。
現実逃避している場合ではありませんでした。
ニコラスが怒ってます。後ろは壁のため逃げ道はありません。
ひぃ!?肩を掴まれました。逃げたい。退路は絶たれてます…。
「リリア、俺は一人で外出するなと言ったよな」
「そうでした?」
「へぇ。部屋は人払いし、窓から抜けだしたよな。誰にも見つからないように馬を使って出かけたよな。いつも通り馬車を使わなかった理由を説明してもらおうか」
「馬に乗りたかったんです。ちょっと乗るつもりが気づいたら・・」
「朝、予定を聞いたら今日は部屋で本を読むって言ってたよな。」
ニコラスには反対されるとわかってました。でもどうしても行きたかったんです。庭で訓練してたから見つからないように抜け出したのに・・。
「だって、言ったら止められるから」
「確信犯だよな。言えば買ってくるって言っただろうが」
「買い物くらい自由に行きたいです。しかも大きい商団の船が来たんですよ。市には異国の物がいっぱい!!これはどんな危険を犯しても行かなければいけませんわ。外交官の血が騒ぎます!!」
「外交官の血は騒がないだろう。お前は・。」
「人にはどうあらがっても逆らえないものがあるんです。ニコラスにもあるでしょう?」
「いや、リリアのそれは違うから・・」
どうしましょう。宥める方法・・。今のニコラスは怖い。でもこのまま連れ帰られるわけにはいきません。
そういえばディーンに教えてもらいました。
ニコラスの手を握ってにっこり笑います。
「ニコラス、せっかくなので付き合ってください。息抜きしましょう」
「リリア?」
「二人で市なんて久しぶりです。ね?ニコラスの好きな串焼き食べましょう。」
大事なのは笑顔とニコラスの手を離さないことです。
よくわかりませんが。
怒ってるので、顔を見ずに手をひいて歩きます。有り難いことに小言は飛んできません。
私は家を出てそんなに時間がたってないのに、見つかるのが早すぎます。まだ何にも買い物してません。セノンにも留守番お願いしたのに。
今日はいつもより人が多いです。わくわくします。あれは、
「リリア、待って。はぐれないで」
「手を離さなければ、市をまわってもいいですか?」
「離したら即帰るからな」
「ありがとうございます。絶対離しません」
成功です。ディーン。ニコラスの怒りはおさまりました。
ニコラスの手をひいて目をひくお店で足を止めます。
何度かニコラスの手を離しそうになりましたが、なんとか耐えましたわ。
昔、王太子殿下からいただいた飴が売っていました。
色んな種類があって迷います。棒についてる飴が色々な形をしています。
花の形の飴を買いました。かわいい。
舐めると、変な味がします・・・。甘くない。
「店主、甘い味のものはあるか?」
「これだな。嬢ちゃんにはまだあれは早かったか」
「それをもらう。リリ、交換しよう。それは俺がもらうよ」
ニコラスがいつの間にか赤い飴と交換してくれました。これは甘くて美味しいです。
隣のニコラスは私の花の形の飴をバリバリと食べてます。ニコラスって昔からなんでも食べるんですよね。
「確認して買えばいいのに。リリは嫌いものが多いだろ?」
「飴って全部甘い物だと思ってました。こんなに苦くてスーっとする味がするなんて思いませんでした。ありがとうございます」
「俺がいてよかっただろう?」
ドヤ顔しるニコラスは無視して足を進めます。
あれはなんでしょうか・・・。
「リリ、」
腕をひかれて抱き寄せされると少女が転んでいます。
あそこにいたらぶつかったから引き寄せられましたの。
転んだ少女の前にしゃがみこみます。
「痛い」
泣きそうな少女の膝からは血が流れています。
膝に手をあてて治癒魔法をかけます。
「神様にはやくよくなるようにお願いしましょう。」
「お姉ちゃん?」
「はやくよくなりますように」
「治った!!」
「よかったですね。次からは気をつけてね。待って、貴方は一人なの?」
「あ、うん。」
さすがに子供が一人で来る場所ではありません。
「ラス?」
「リリ、俺達は帰ろうか」
「はい?」
「俺の手を離しただろう?」
「非常事態です。こんな子供が一人でこんなところに」
「帰り道わかるんだろう?」
「うん」
「ほら、大丈夫だって。親が放任なんだろう。大丈夫だよ」
「私がこの子くらいの時は一人で市に行かせてくれなかったのに」
「立場の違いだ。帰るよ。じゃあ、気をつけてな」
「うん。さよなら」
「ラス!?」
腰を抱かれて強引に少女と離されます。
「リリ、駄目だ。これ以上は関わるのは許さない」
「なんで?」
「治癒魔法使っただろ?治癒魔導士は他国だと高値で取引される。あの子は他国の人間だ」
「考えすぎでは」
「俺の仕事は警戒することだ」
「イラ侯爵になるんですか?」
「リリがどっちを目指してもお前を守るのは俺の役目だから」
「洗脳なかなか解けませんね。どうすればいいんでしょう」
「洗脳じゃないから。帰るよ」
「まだ大事なものを買ってません。私の材料が」
「もうレトラ侯爵家で頼めよ。いくらでも手に入るだろう」
「欲しい物は自分の手で手に入れることに意味があるんですよ」
「誰の受け売りだよ」
「昔、お世話になった騎士様ですわ」
「俺の知らない所で交友関係を広げるのやめて。心配で傍を離れられない」
「私もちゃんと自衛の訓練をつんでるから大丈夫です」
「俺に勝てるようになったら一人で出歩いていいよ」
「そんな・・・。頑張れば才能ありますか?」
「全く」
「ひどい」
「リリは俺に守られていればいい。」
膨らませ頬をニコラスが突っついてきます。
「できないことは言わない方がいいですわ」
「やっぱり騎士の誓いたてようか?」
「いりません。永遠の忠誠も。」
「なぁ、リリアの予言は外れただろ?あれから6年経った」
「まだわかりません。愛しい少女が本格的に動いてないもの」
「いつになれば信じてくれるんだろうな」
あれは、ニコラスの腕を引っ張って店の前で立ち止まります。
欲しい材料がたくさんあります。次に来れるのはいつかわからないのでここでいっぱい買って帰りましょう。
欲しい物が手に入った私は大人しく帰ることにしました。
荷物は愛馬に積みました。私の愛馬と同じ場所にニコラスの馬も止めてありました。
そして帰るとお母様のお説教が待っていました。
ニコラスを睨むと笑顔で無視されました。窓から抜け出したことを物凄く怒られました。
お母様はいつもニコラスの味方です。お父様、お兄様早く帰ってきてください。
いつも味方をしてくれる二人が恋しいです。お母様、ちゃんとお説教聞いてますからそんな目で見ないでください。社交以外の外出禁止ってなんですか!!
私は大人しく反省している振りをしましょう。




