第八十一話 お茶の時間
ニコラスの夜中の訓練もなくなったので鍵をとりつけるのはやめました。
社交に外交官のお勉強に毎日慌ただしい日々を送っています。
黒髪の愛しい少女に会えません。私にできるのは王位争いに勝つために頑張ることです。
ニコラスは何も言ってきません。ただ止められることはなくなりました。
私は考えました。
今日も王宮に来ています。王位争いに勝つためには民の人気も必要です。
オリビアに頼んで王太子殿下との時間を作ってもらいました。
もちろんオリビアも一緒です。なぜかニコラスも着いてきています。
「リリアもニコラスも久しぶりだな。ニコラスも座って」
いつも後ろに控えるニコラスも王太子殿下の言葉には逆らえません。
「お久しぶりです。王太子殿下、私は考えましたの!!」
「王太子殿下、リリアに気を遣わずに正直にお願いします」
ニコラスに話をしたらバカにした顔で見られました。
「レトラ侯爵家で後見します。王太子殿下のことを記事にしましょう!」
「リリア、もう少し詳しく説明してくれないか」
「民達は読み物が好きです。王太子殿下のことを記事にして、我が王国の王太子殿下のことをもっと身近に知ってもらいましょう。そうすれば人気が出ます」
「私はそんなに人気がないのか?」
「平民にとっては遠い存在です。レトラ侯爵家が王太子殿下の記事を定期的に号外します。」
「リリア、それはやめようか。貴族が情報操作してるようにとられる。それにレトラ侯爵家の仕事じゃないだろう?」
「ほら、言っただろう。反対されるって。」
「名案かと思いましたのに。」
「迷案の間違いだろう?」
「オリビアは?」
「抜けてるリリアを見て癒されるかと。最近お疲れの王太子殿下にお裾分けです」
オリビアは反対してなかったのに。殿下との時間を作ってあげるって笑顔で言ったのは賛成してるからじゃなかったんですか・・。
「オリビア嬢、リリアは俺のです」
「あら?婚約者の心を射止めてから言いなさい。私はリリアが望むならいつでも破棄させてあげるわ」
落ち込んでいたら、いつのまにかオリビアとニコラスが意気投合しています。
「王太子殿下、オリビアがニコラスと仲良くなってしまっていいんですか?」
「微笑ましいよ。ニコラスが相手をしてくれれば気が休まる」
不穏な言葉が・・。
「また何かしたんですか?」
「オリビアから見ると、私は甘いみたいだね」
オリビアは好戦的なんですよね。私は王太子殿下の味方をしてあげましょう。
「王太子殿下まで厳しくなったら大変です。鞭だけでは人はついてきません。次の作戦はどうしましょうか」
「リリアだけは他の貴族とは違った方向で攻めるから、予想できないって弟が呟いていたよ」
なんと!?私の作戦も成功しているみたいです。ちょっと元気がでました。
「いつも後手に周るので、そう言っていただけるなら光栄です」
「リリアまで好戦的にならないでほしい」
「オリビアに怒られますよ」
「オリビアはいつも怒るから。相変わらずの論破に耳が痛い」
「オリビアに負けない方はいるんですかね・・・。何言ってるかわかりませんがニコラスが対等にお話してますね。ただの平民に産まれたらお似合いだったのでしょうか」
「どうだろうな。交換する?」
オリビアとニコラス、私と王太子殿下・・。想像したら笑いがこみあげてきました。
「私と殿下の組み合わせだと毎日二人に怒られそうですね」
「夜はリリアと二人で反省会かな」
「二人で落ち込み寝不足になりそうです。王が臣下に頭が上がらないなんて示しがつきません。でもこの二人には勝てなそうです。」
「オリビアが心を、ニコラスが体をか。想像しただけで震え上がるな。二人になら王位を譲りたくなるよ。勝てる気がしない。」
珍しく王太子殿下の嫌そうな顔にやっと抑えた笑いがまたこみあげてしまいました。
「ふふ。そしたら王位争いも起きなくて平和ですね。」
「きっとリリアが悲鳴をあげながら毎日二人を止めてるんだろうな」
「考えるだけでつらいです。王位争いが落ち着いたら旅に出ようかな。御褒美に一年位お休みくれますか?」
「レトラ侯爵家とあの二人が許せばな」
「その説得は御褒美に含まれませんの?」
「残念ながら。私もリリアがいないと寂しいからな」
「うちの殿下は優秀なのに、仕方のない人です。」
「臣下が優秀だから。あの二人はそろそろ止めるかな」
先程までは賑やかに話してたのに、オリビアとニコラスが冷笑を浮かべてます。
二人共あの顔するときは、要注意です。
「不穏な空気を感じますものね。どうやって止めるんですか?」
「二人に寂しいから構ってって言ってきて。止まるから」
楽しそうに笑う王太子殿下に仕方がないので従いましょう。
「オリビア、ニコラス、二人の世界に入るのはやめてください。寂しいです」
二人が固まり、しばらくすると動きました。
「リリア!!」
オリビアが勢いよく抱きついてくるので危うく椅子から倒れそうでしたが王太子殿下が背中を支えてくださいました。オリビアがクレア様みたいな行動をするのは珍しいです。
「オリビア嬢、リリアから離れてください」
「リリアが嫌がってないからいいのよ。男の嫉妬は醜いわ」
「リリアは心中するならオリビア嬢じゃなくて俺とするそうですよ」
「心中ですって!?」
不穏な空気が出てきました。
「なんの話をしてるんですか!?二人共いい加減にしてください。せっかくですし、四人でお茶しましょう。クレア様がオリビアに会いたがってました」
「クレア様とは文通は続いてるのね」
「ええ。子供みたいな方です。エクリ領に牧場を作ったからいつでも遊びに来てって。最近は二人のお忍びが大変なので、なんとかしてほしいとお手紙が同封されてました。仲が良いのはいいですが手のかかる二人ですね」
「リリア、また文通相手が増えたのか?」
「ええ。たくさんお手紙いただきますので、少しずつ返してます」
「ニコラス様、しっかりしてください。」
「その手紙の返信は俺も手伝おうよ」
「不要です。急ぎの内容ではありませんので」
「とりあえず、帰ったら中身を確認させて」
「それはいささか不躾なのでは?」
「俺はリリアの護衛を任されてる。手紙の内容は他言しない。わかるよな?」
「わかりました。」
結局作戦会議が単なるお茶会になりました。
王太子殿下が楽しそうなのでいいでしょう。
オリビアと王太子殿下の仲はよくわかりません。
家に帰って、ニコラスに手紙を見せたら男性からの手紙を全部取り上げられました。
昔、村で治療した方々や第二王子殿下の臣下からのお手紙なんですがいいんでしょうか。
まぁ世間話ばかりなので問題ありませんね。ニコラスも一緒に、お勉強してるので外交問題になることはしないはずです。
お母様は私よりもニコラスの方が外交官に向いてると言います。悔しいのでお勉強頑張ります。




