第七話 王族
家に帰り晩餐の席で私はお母様の話に思考が止まりました。
「リリー?」
心配そうなお父様に微笑みます。
「王家で婚約者のいないご令嬢を集めてお茶会を開くそうよ。王太子殿下も出席されます。リリア、わかってますね?」
集団お見合いですね。
ニコラスとの婚約を断った私に拒否の選択はありません。
でもまだオリビアが婚約者に選ばれてない。ここで徹底的に邪魔すれば・・。
「わかりました。無礼のないように気をつけます」
私の返答にお母様が満足して頷きました。
さすがにこのお茶会を拒否できないことはわかっています。
異国の料理を作り、外交官の勉強をして気付くとお茶会の日になりました。
当然のように、私の隣で料理を食べるニコラスは気にしません。
王太子殿下の傍に公爵令嬢達が座っています。残念ながらオリビアも王太子殿下の隣に座ってます。
割り込みたいけど侯爵令嬢の私には許されません。
どうしようかな。視線を感じます。
なんで?
オリビアが「あいさつ」と口パクしてます。
うっかりしてました。慌てて笑顔をつくります。
「お初にお目にかかります。リリア・レトラと申します。よろしくお願いします」
殿下と皆様に礼をして座ります。殿下に見られてる気がしますが気のせいですね。
気乗りはしないお茶会ですが王家のお茶は美味しい。
皆様のお話に相づちを打ちながら、お茶を楽しみます。
王太子殿下はオリビアに見惚れる様子はありません。よかった。
オリビアが王太子殿下と話してますがどうやって邪魔すれば・・・。
オリビア、そんな笑顔を殿下に向けないでください。困りましたわ。お茶でもこぼしてみるのは、マナー違反です。どうしましょう…。
「レトラ嬢?」
「リリア、具合が悪いの?」
具合?殿下とオリビアに声をかけられたため視線が集まってます。
「いえ。」
「無理はいけません。殿下、申しわけありません。リリアは病み上がりです。退席をお許しいただけますか?」
「構わない。」
「殿下のお心づかいに感謝致します。リリア、行きましょう」
オリビアに手を取られて礼をして退出しました。
「オリビア様?」
「リリア、顔が真っ青よ。ここは大丈夫だから帰りましょう。」
はい?いえ、
「退席?いけません」
「大丈夫よ。むしろご令嬢達は喜ぶわ。邪魔な私がいない方が殿下とお話しできるわ」
「オリビア様は」
「私は殿下よりリリア優先よ」
オリビアの言葉に涙が出てきました。私、優先って嬉しい。
「オリビア」
「リリア、どうしたの。泣かないで」
「ごめんなんさい。私、オリビアが王太子殿下にとられるのが悲しくて。駄目なのに」
「嬉しいわ。お父様の命なら従うけど、私はリリアの方が好きよ」
「オリビア、殿下の物にならないで。」
「どうしたの・・。もう王宮で泣かないで。あなたのお母様に怒られるわよ」
涙を拭きます。確かに、ここでは我慢です。
「リリア、大丈夫?」
「オリビアが一番ふさわしいのはわかるけど、王太子殿下は嫌。オリビアにはちゃんと幸せにしてくれる人と一緒になってほしい」
「公爵令嬢だからそれはどうにもならないわ。リリアはもしかして殿下が好きなの?」
「ありえません。私はオリビアが好きなんです。オリビアを渡したくないんです」
「どうして兄上はこんなに嫌われているんだろうか」
「リリア、第二王子殿下よ」
慌てて礼をとります。どこからあらわれましたの!?
「頭をあげて。」
「第二王子殿下。申しわけありません。彼女は病み上がりの上に初めての王家のお茶会に緊張したみたいで」
「オリビア、それは無理があるだろ。私はオリビアの友人を不敬罪にはしないよ。気に入っているんだろ?」
「お会いできて光栄です。リリア・レトラと申します」
「話は聞いてるよ」
話って私が生死の境をさまよったことでしょうか。
第二王子殿下のオリビアを見つめる目が優しい。もしかしてこの方…。
「第二王子殿下、リリアをいじめないでください」
上目遣いで見つめるオリビアに見惚れてますよね。うん。たぶん当たりです。
オリビアの話せない言葉で呟きます。
『恐れながら第二王子殿下、私は王太子殿下より殿下のほうが彼女にお似合いだと思います。』
目を見張りました。さすが聡明な第二王子殿下。私の言葉が通じましたわ。
『なにを』
『彼女を想ってくださる方なら邪魔はしません。決して彼女を裏切ることがないなら協力します』
『裏切るだと?』
『彼女以外を愛した時に、邪魔になった彼女を排除しようとしない限り。不要ならご相談くだされば私が彼女と一緒に亡命して姿を消します』
『私が彼女を大事にするかぎりは協力すると』
『はい。私は彼女の幸せを一番願っています。家としてではなく、個人として。もちろん他言は致しません』
『見返りは?』
『彼女の幸せを』
『欲がないのか』
『では彼女が第一王子の婚約者にならないように手回しを』
『兄上が好きなのか?』
「私は国外の貴族に嫁ぐ予定です。ありえません。不敬罪はご勘弁を』
『わかったよ。手を組もう』
『よろしくお願いします』
「お二人とも?」
オリビアに不思議そうな顔で見られてます。
「ごめんなさい。最近異国語のお勉強ばかりで、話す言葉を間違えてしまいました。第二王子殿下失礼しました」
「構わない。私も勉強になったよ。さすがレトラ侯爵令嬢」
「第二王子殿下、オリビア様、私はこちらで失礼します。」
二人に礼をして去ります。二人っきりでお楽しみください。
第二王子殿下、ちゃんとオリビアをよろしくおねがいします。
帰りましょう。
庭園を抜けると腕を掴まれます。
「待て」
どうしてここに王太子殿下がいるんでしょうか。
礼をとります。
「頭をあげろ。一人なのか」
それは私の言葉です。令嬢たちはどうしたんでしょうか。
どうしようかな。オリビアを強引に置いてきたとは言えない。
「花に見惚れてしまいました。ご心配をおかけしました」
「目が赤いが、まさかオリビアに」
「オリビア様は優しくしてくださりました。私を連れて休ませてくれました。」
「オリビアは厳しいから叱られたんだろう」
オリビアは礼儀に厳しいですが、具合の悪い令嬢には厳しくしません。
さっきから人の言葉を全然聞かないで。
「私、オリビア様が大好きです。オリビア様は優しく聡明です。叱られてませんが、もし叱られてもオリビア様の言葉でしたらしっかり反省しますわ。」
「オリビアは美人だがきつくて、高飛車で」
やっぱり嫌いです。私のオリビアを悪く言うなんて。同情しましたが不要でした。
「でしたら、関わらなければよろしいと存じますわ。殿下の周りには魅力的な令嬢がたくさんいますわ。」
「レトラ嬢?」
「不敬罪で裁きたいならどうぞ。私は大好きなオリビア様を傷つける方は許しません。失礼しますわ」
腕、掴まれてました。
「離していただけませんか?」
王太子殿下を睨みつけます。どうせ不敬罪で裁かれるならもう好きにしましょう。
「悪い」
「失礼します」
礼をして立ち去ります。絶対にオリビアを渡しませんわ。
数日間は王太子殿下に裁かれるとビクビクしていましたが特に何もありませんでした。
お母様からのお説教もなかったので王太子殿下は私との会話は気にしなかったんですね。
これからどうしようかな。
約束の日は明日ですがやっぱり王太子殿下は待っているんでしょうか…。




