第七十二話 予言の巫女姫
私はサン公爵邸を訪問しています。オリビアに予言の巫女姫の話をしたら、ため息をついてます。
「リリア、本気で信じてるの?」
「街で噂になってます。もし本当なら大変だと思います」
「止まない雨って・・・・」
「大変な災害です。」
「本気なのね・・。わかった。殿下と相談して備えだけはしておくわ」
「あと民の人気取りです。王太子殿下と一緒に堂々とお忍びしましょう?」
「それはお忍びとは言わないんじゃ・・。殿下と街への視察の予定を増やすわ。」
「私、当分姿を消します。オリビアは身の安全だけは気を付けてください」
「最近は頻繁に社交をこなすとリリアの評判があがっていたのに」
「私は外交官のお勉強に専念するということでお願いします」
「なにをする気なのよ・・。」
「もし止まない雨が降ってもいつかは止みます。予言の巫女姫になんか負けません。新興宗教の予言なんて壊してさしあげます」
「リリア?」
「神の使いなら神の怒りを鎮める橋渡しをするべきですわ」
「何をムキになってるのよ。気を付けてね。」
私は心配そうな顔で見つめるオリビアに別れを言って家に帰りました。
「お母様、神具が壊れそうなので修復しに行ってもいいですか?」
「え?まだそんな時期ではないと思うけど。なんの神具?」
「水の女神の壺」
「あれはリリアにできるかしら。まぁニコラスがいればいいわ。そうね。二人なら修復できるわね。でも遠いわよ」
「馬で走ります」
「馬車で行きなさい。東の辺境の村にあるわね」
「お母様、場所知ってるんですか?」
「ええ。昔、行ったわ。リリアに話してなかったかしら。」
「聞いてません。村のどこにあるんですか?」
「村の村長に言えば案内してくれるわ。村の地下。紹介状を書いてあげるわ」
「行っていいんですか?」
「ええ。最近忙しかったものね。リリアのおかげで中立貴族もうちの派閥に取り込めたし、旅に出るのも経験よ。ニコラスと離れちゃだめよ?」
「ニコラスはイラ侯爵家のお仕事はいいんでしょうか。」
「そこはお母様に任せなさい。巫女のリリとして行くのよ」
「わかりました。」
「気を付けてね。お母様はなにか間違いがあっても構わないけど、ニコラスには無理よね・・」
「お母様?」
残念そうに見つめるお母様は気にしないことにして私は準備をすることにしました。
お母様は上皇様の孫にあたります。神殿に行かなくてもお母様に聞けばわかったのに、どうして思いつかなかったんでしょうか。
幼い頃はうちにお茶を飲みにくるお兄様が上皇様とは知りませんでした。お膝の上にのってお土産の魔法の本を読んでいたら使い方を教えてくれました。
はじめて覚えた風魔法よりも治癒魔法のほうが簡単に使えて驚きました・・。上皇様には転移魔法で色々連れてってもらいましたわ。懐かしい思い出です。あの頃は転移魔法の凄さを知りませんでした。
御者はディーンが引き受けてくれました。
セノンも連れてきてます。ニコラスがセノンと話して同行を許可してくれました。
「ニコラス、本当に良かったんですか?」
「ああ。むしろ旅慣れしてないリリアだけだと心配だよ」
「久しぶりのお出かけです。お母様がゆっくりしてきなさいとおっしゃるとは思いませんでした。美味しい物あるかな」
「ほどほどにな。あんまりはしゃぐと体力持たない」
「気をつけます」
社交でないお出かけは久しぶりです。お母様が快く送りだしてくれたのは不思議で仕方ありません。でも道中読みなさいと大量の本を渡されたのでお勉強からは逃げられません。
巫女服の上からローブを着てます。予言の巫女姫に間違えられたら巫女服を見せればいいんです。
ニコラスは静かに本を読んでいます。
辺境の村までは遠いので途中で宿を借りています。
神殿でお祈りをすませました。ここからは自由です。
「ニコラス、ディーンと一緒に遊びに行ってもいいですか?」
「俺も行くよ」
セノンを抱いて宿から出発します。
わくわくします。久しぶりの解放感です。
果物を買って食べましょう!!。
「ラス、なに食べますか」
「任せるよ」
「どうしようかな・・。」
「巫女姫!!予言を」
「後ろにいろ」
ニコラスの後ろで大人しくしてます。
「何か御用ですか?」
「予言の真意を。巫女姫は第二王子の即位を予言されたと噂があります。その真意を」
ローブを脱ぎます。ヴェールはありませんが巫女服を見ればわかるでしょう。ニコラスは神官服を着ていません。
「なにかの間違いでしょう。神殿は不干渉です。神の御心に従うだけですわ。」
「神の怒りの予言をご存知ですか」
「神託は皆様にお伝えしています。慈悲深い我らの神々の怒りに触れるという神託はありません。ですが神に仕える者として、我らの神への冒涜はお控えいただきますようお願い申し上げます。誰にでも間違いはあるものです。どうか悔いをあらため神のご加護がありますように」
男に祈りを捧げて光の祝福を行います。効果はわかりませんが、キラキラ光るので評判がいいんです。
固まっている男は無視して足を進みます。
ローブを脱いでしまいましたが、どうしましょう・・。
巫女として活動・・?
「巫女様、戻りましょうか」
うん。なんとなくわかってました。宿に戻って大人しくしてます。やっぱり巫女姫は第二王子殿下の味方みたいです。
大人しく宿に戻るとニコラスに座れと言われました。
「リリア、俺は静かにしてろと言ったよな?」
「言われてません。ニコラスの後ろからはでてません」
「わかってたよな?」
「だって、間違えられたなら違いますって。正しい事実をお伝えしないといけません。」
「あいつは記者だ。なにを書かれる・・」
「書かれて困ることは何もありません」
「目立ちたくなかったんだよ。これからは俺が話すからリリアは静かにしてろ。わかったな」
「嫌です」
「嫌じゃない。もう少し先のことも考えろ。レトラ侯爵夫人に俺の言うこと聞くって約束しただろ?」
「善処します。ニコラス、お母様が好きすぎませんか?」
「なんでそうなった。いや、いい。考えないで。」
「時々よくわかりません」
「俺はリリアの思考回路がわからない。お前のお母様じゃなくて、リリアが好きなのどうしたら伝わんの?」
「それ洗脳です。ニコラスには浄化魔法が効かないんです。精神異常でも効果はない。どうすればいいんでしょう」
「洗脳されてないってことだよ。まぁいいや。食事にするか」
「セノンのプリンがありません」
「セノンにはスープを頼んであるから。ちゃんと食べるよ」
「セノンがニコラスの言うことを聞くのが悔しいです」
「リリアの躾が悪い」
セノンは宿で用意していただいたスープを食べてました。
複雑です。でも道中はプリンを作れないので良いとしましょう。
予言の巫女姫。お会いできたら一言申し上げないといげません。




