第七十話 新しい友達
私はエルシー・クルー伯爵令嬢とお友達になりました。実はクルー伯爵は中立貴族です。王位争いには参加しておりません。私はオリビアにエルシー様と婚約者の不仲を話しました。オリビアがもしクルー伯爵家が望むなら力を貸してくれると言ってくれました。サン公爵の説得は任せてと笑ってました。
私はニコラスに調べてもらいエルシー様の婚約者のロロ伯爵家の夜会に参加しております。
ニコラスが招待状を何枚かもらってきてくださいました。私はその招待状をエルシー様にお渡ししました。
本当ならエルシー様にはロロ伯爵家から招待状が送られてるはずです。念のためです。出席するかはエルシー様次第です。
私はロロ伯爵夫妻にご挨拶をします。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「まさか侯爵家のお二人に来ていただけるとは光栄です。お二人が参加くださるなど私達も鼻が高いです」
「お上手ですわ」
「リリア、そろそろ、挨拶が詰まってるから行こうか。失礼します」
ニコラスのエスコートで立ち去ります。会場の隅の方に移動します。
「本気なの?」
「お二人次第ですわ。」
エルシー様がお兄様のエスコートで来ましたわ。目の合ったエルシー様に微笑みかけます。エルシー様がロロ伯爵夫妻に挨拶にいくと夫妻は驚いています。
まさか婚約者の息子ではなくお兄様にエスコートされているとは思いませんよね。お兄様のエスコートということは決めたのでしょうか・・・。
夜会がはじまりました。ロロ伯爵令息が現れません。でも自分の家の主催の夜会に参加しないわけありません。ロロ伯爵の挨拶が終わると、ピンクのドレスを着た少女をエスコートしてロロ伯爵令息がきましたわ。
今回はワンピースでなくて安心しました。
ロロ伯爵令息は連れてきた黒髪の少女とファーストダンスとセカンドダンスを踊られました。
基本はファーストダンスは婚約者と踊ります。また同じ相手とダンスを二回以上踊る行為は恋人や婚約者、夫婦など特別な相手という意味です。
ロロ伯爵令息はこの意味がわかってるんでしょうか・・。
「ニコラス、同じ方と連続でダンスを踊る意味は知っていますか」
「ああ。」
「貴方のお友達はご存知ないんですか?」
「知らないはずはない。貴族なら。リリア、あれでも俺の、悪い。なんでもない」
お友達を庇おうとするニコラスをじっと見つめます。1度だけのダンスなら目を瞑りました。ただ2度踊りました。しかもロロ伯爵家の夜会で。その行為がどれだけ婚約者を傷つける行為かわからないんでしょうか。もしニコラスがしたら、足を思いっきり踏みつけるくらいでは許しません。令嬢としてどれだけ屈辱的なことをされたか男性はわからないんでしょうか・・。
迷ってましたが容赦はしません。
ロロ伯爵夫妻のもとに行きます。
「ロロ伯爵、ご子息の婚約者はエルシー・クルー伯爵令嬢と聞いてましたが間違いですか?」
「レトラ様これは、なにかの間違いかと」
「ロロ伯爵家主催でご子息がご令嬢と2度ダンスを踊る意味をご存知ないはずありませんよね?」
「ニコラス、来てたのか」
ロロ伯爵が怖いお顔で近づいてくる息子のスカイ・ロロ伯爵令息を見ています。
「スカイ、お前自分のしていることはわかってるのか!?」
自分より下位の貴族だけなら握りつぶしもできましょう。ただレトラ侯爵令嬢の私がいるかぎり許しません。たとえ、貴族の中ではなかったことにされても、エルシー様の評判は下がります。
「父上?」
不思議そうな顔をしているので挨拶することにしました。
「お初にお目にかかります。私、エルシー様と親しくさせていただいています。レトラ侯爵家長女のリリア・レトラと申します。」
「レトラ?エルシーが、」
まさかエルシー様と私につながりがあるとは思いませんよね。エルシー様のお家はそこまで大きな家ではないので。
「お友達です。私のお友達をエスコートせず他のご令嬢とダンスを2度踊られた理由を教えてくださいませ。」
「ニコラス、どういうこと?」
私が話してるのにニコラスに助けを求めるなど無礼です。
「リリアは今日はクルー伯爵令嬢に会えると楽しみにしていたみたいで…。」
ニコラスとの会話を遮って無邪気に微笑みかけます。
「婚約者が2度も他のご令嬢と踊られるなんてエルシー様に失礼です。彼女がこの場にいなくても許されることではありません。理由を教えてくださいませ」
「彼女と踊るのが楽しくて」
はい?なんですか?
エスコートされてる少女もにっこり微笑んでいる場合ではありませんよ!?
ロロ伯爵夫妻は凍り付いてます。
「そちらのご令嬢と婚姻されるということでよろしくて?」
「それは、」
首をかしげて扇で口元を隠します。悲しそうな顔をします。
「先に道理を通すべきかと思います。クルー伯爵家とエルシー様への謝罪は必須ですわね。私も伝手がありまして、エルシー様が望まれるなら新しい婚約者をご用意しても構いません」
「レトラ様、息子には言い聞かせます。どうかお許しを」
「謝る相手が違います。私はエルシー様の名誉を傷つけたことについてお話してますの。もしクルー伯爵家へ圧力をかけましたら侯爵家としてお相手します」
「恐れながら、混ぜてもらってもよろしいか?」
「クルー伯爵!?」
クルー伯爵が来ていたのは知りませんでした。
「スカイはエルシーとの婚約破棄を望んでるのか?うちの娘は私の判断に従うと。」
「クルー伯爵、このような場所でお話することではありません」
「いや、丁度よい機会だ。当事者が揃っておる。皆様よろしいでしょうか」
「どうぞ。私達のことは気にせずお話ください」
私が了承すれば他の貴族は頷くしかありません。
ここでは私が一番位が高いのです。
「騎士様、私と踊ってください」
この状況でニコラスを踊りに誘うこの令嬢はすごいです。
「俺は婚約者以外と踊る気はないので」
「どうしてですか」
「ニコラス、踊って差し上げても構いませんわ」
「踊らないから。家より下位なら話しかけないでください」
ニコラスの言葉に頬を膨らませて去っていきました。いつの間にか他の殿方に囲まれてますわ。ロロ伯爵令息が追いかけようとするのをロロ伯爵が腕を掴んで止めました。
「スカイ、クルー伯爵に謝りなさい」
「父上、ですが」
「謝罪はいりません。この婚約は破棄しましょう」
「クルー伯爵お考え直しを。この婚約には神殿の承認を得ているんですよ。神の名のもとの婚約ですよ」
婚約には二種類あります。両家だけの間で交わす婚約。もう一つはその後に神殿に婚約の申請を行う本婚約。
本婚約は破棄すると神の加護がなくなると言われています。絶対に破棄することはないという両家の意思表明の婚約です。
破棄には神殿に申請が必要です。神官・巫女の承認のサインをもらえれば破棄できます。
一般的には神殿に申し立てして、理由を説明、婚約破棄の宣誓、書類にサインが一連の流れになります。
そんな大変なことをしなくても書類に私がサインするだけなのですぐに終わります。
クルー伯爵に向き直ります。
「エルシー様のためなら私が引き受けます。クルー伯爵家に神のご加護がありますように、取り計らいましょう」
「レトラ様、」
「私、神殿には伝手があります。ご成婚の折にはエルシー様に祝福も贈りますのでご安心ください。もし神殿に断られましたらレトラ侯爵家が責任をもって、巫女か神官を派遣しましょう。」
私とニコラスかお兄様でとり行えば問題ありません。
婚姻にも神殿の承認が必要になります。
「そこまでしていただくわけには」
恐縮して顔の汗を必死に拭いているクルー伯爵に微笑みかけます。
「派閥は違いますが、大事なお友達のためです。またクルー伯爵邸にお伺いさせていただいてもよろしいですか?」
「なんとそこまでエルシーを。是非。お待ちしております。」
夜会は台無しです。台無しにしたのは私ではありませんよ。結局婚約については、この場ではなくまたゆっくりと話されるそうです。
「レトラ様」
ロロ伯爵に縋るように見られています。
言いたいことはわかりますが取りなしたりしませんよ。
「エルシー様とクルー伯爵家に誠意を示すなら神のご加護があるでしょう。ただ神の身心に反する行為をするなら闇の祝福がまいおりるでしょう」
闇の祝福を受けると神の加護や祝福を受けにくくなります。私は使えませんがお兄様が使えます。
クルー伯爵家に嫌がらせしたら、闇の祝福を贈ります。お兄様が。
ロロ伯爵令息はニコラスを縋るように見ています。
「ニコラス」
「リリアは不誠実な男が嫌いだから。そろそろ帰ろうか」
私はニコラスに促されるままに退席しました。
翌週、私はセノンを連れてエルシー様を訪ねました。
私はエルシー様と一緒にセノンとマロンを愛でています。
「エルシー様、私、余計なことをしましたか?」
「あの人私が見てるとは気づかなかったみたい。翌日の朝に突然花束が贈られてきて驚いたわ。私はお父様の判断に従うわ」
「本婚約を破棄してもなにも変わりはありませんのでご心配なく。儀式なんてしなくても、私がサインを貰ってあげます。」
「リリア様、それは他の貴族の前で言わないで。」
神聖な本婚約が意味がないと知れば、確かに大変です。
「エルシー、謝るから許してくれないか」
「雑音が聞こえますね」
「エルシー様?」
「闇の祝福が怖いだけよ。リリア様、気にしないで」
「さすがに、それは…。」
「リリア様は派閥のお茶会には参加されますの?」
「ええ。」
「そうなの。どうしようかしら」
「エルシー、頼むから考え直してくれないか」
ロロ伯爵令息は気にしないことにしましょう。
「うちの派閥は歓迎します。外国でよければ、派閥に関係なく縁談をご紹介します」
クレア様やお姉様に頼めば隣国の貴族を紹介していただけます。
「ニコラス、お前の婚約者を止めろ。」
「無理。リリアは令嬢の味方だから。自業自得だから巻き込まないでくれ」
「あの二人はどうすればいい?」
「必死に謝るしかないだろう。」
「謝っても全然相手にしてもらえない」
「必死に追いかけるしかない。マジで」
「ニコラス?」
セノンとマロンを可愛がりたいのにやっぱり雑音がうるさいです。
「ニコラス、離れた所でお話してください。二人がいると私はエルシー様と遊べません。」
ニコラスがロロ伯爵令息を連れて離れていきました。
マロンを撫でているエルシー様にたずねます。
「お仕置きいつまでするんですか?」
「彼次第。当分はこのままよ」
たぶんエルシー様は婚約破棄しない気がします。
ロロ伯爵令息を見つめて微笑む姿に寒気がするのはどうしてでしょうか。
セノンを抱いてるのに全然癒されません。




