第六十九話 新しい友達
私は少女を探してるんですが中々出会えません。
アイ様はブツブツ言いながら話がまとまってないと教えてくれません。ただエルシー・クルー伯爵令嬢の名前を教えてくださったので会いにいこうとおもいます。
私はクルー伯爵家の夜会にニコラスと一緒に出席してます。
ただ婚約者がいるはずなのにクルー伯爵令嬢はお兄様にエスコートされてます。夜会の主催家族は婚約者も一緒に参加しているはずなんですが・・・。
「あら?リリア様、珍しいですね」
同派閥のご令嬢に声をかけられました。この方はライリー様のお友達です。
「お母様にそろそろちゃんとしなさいと送り出されました」
「まぁ!?。ならご存知ないかしら?」
怖い笑顔を浮かべてます。令嬢が綺麗に笑う時は要注意です。
「なんでしょう?」
「エルシー様の婚約者は平民の女に夢中なのよ。今日も来てないわ」
非常識すぎる事実に驚きました。
「そんな」
「ありえないわ。でも惹かれる殿方は多いらしいわ。婚約者のいる令嬢達は警戒してるわ。リリア様も気を付けて」
「わかりました。気をつけます」
「ライリーにも頼まれてるし、困ったら相談にのるから」
「ありがとうございます」
「リリア、そろそろ挨拶に行かないと」
「忘れてましたわ。失礼しますわ」
礼をして立ち去ります。ニコラスの表情が固いです。
「あれは俺への警告だよな」
「私達二人へのです。愚かな行為は気をつけなさいってことです。うちの派閥を揺るがすなということです。へたなことをすればライリー様に報告しますと」
「脅しかよ」
「私は王太子殿下の有力派閥の中で最年少ですから。ニコラス、クルー伯爵令嬢の婚約者とお友達ですよね?」
「リリア?」
「好きな物作りますから、調べてくれませんか?」
「平民の女を?」
「ええ。あと必ず彼が出席する夜会を。招待状もほしいです。」
「お礼は?」
「何が欲しいんですか?」
「あとで考える」
「あんまり高価なものはやめてください」
「俺はリリアになら簡単な物しか頼まないよ」
ニコラスと一緒に伯爵に挨拶し夜会は滞りなく終わりました。
翌週、私はエルシー・クルー伯爵令嬢のお茶会に参加しています。夜会のお礼にとお茶会の招待状をいただきました。形式的なご招待なのでまさか私がお茶会に参加するとは思わなかったでしょう。
「レトラ様、本日は来て下さるなんて思いませんでしたわ」
「招待状をいただいて嬉しかったです。この家のお庭は素敵なので明るいうちに散策したかったんです」
「今日はイラ様はいらっしゃらないんですね」
ニコラスは別行動してます。ディーンが護衛についてくれてます。
婚約者とうまくいっていない令嬢の家に婚約者を護衛に連れて訪ねれば、やっかみを買いますから・・。
「いつも一緒にいるわけではありません。ニコラスはお父様に命じられて私の護衛をしているだけです。今日はお休みだと楽しそうに出かけていきました。最近、どこに行ってるのか教えてくださいません」
困った風に微笑みます。
「リリア様、それは大丈夫ですの?」
「私とニコラスの婚約は家と家のものです。心まで縛ることはできません」
「レトラ様、まだ、あなた・・・。」
「内緒にしてください。ニコラスは昔から想う方がいますの。この婚約には心の繋がりなどありません」
王位争いに含まれない中立貴族で下位貴族ばかりのお茶会なので、いくらでも握りつぶせます。彼女達も自分の身が可愛いので下世話な噂はたてません。
「どうして、そんなにわり切れますの?レトラ様もニコラス様とは幼い頃からのお付き合いと聞いています」
「近くにいるからこそです。私は役目さえ果たしていただければ愛人を持とうと構いません。両侯爵を納得させていただけるなら喜んで婚約破棄しましょう。敵わぬ愛を願うよりも犬を愛でるほうが有意義ですわ」
令嬢から仕方のない子供を見るような視線をむけられました。
この視線、オリビアも時々向けてくるんです。1歳しか、かわらないのに…。
クルー伯爵令嬢だけが目を丸くしていました。
「まぁ、リリア様ったら。ニコラス様より犬ですか。そういえば犬を飼ってらっしゃいましたね」
「はい。犬は素晴らしいです。見ているだけで癒されるなんて、不義理な婚約者よりも役にたつと思いませんか?」
「レトラ様・・・、私も犬を飼おうかしら」
「是非。飼ったら一緒に遊ばせましょう。私の愛犬を連れてきますわ。」
「リリア様ったら。達観してると思えばまだ子供なのね」
周りの令嬢に哀れみの視線を感じる気がするのはどうしてでしょう。
お茶会は無事に終わりました。
しばらくしてエルシー・クルー伯爵令嬢から犬を飼ったと招待を受けたのでセノンを連れて訪問しました。
「リリア様、ようこそ」
「お招きありがとうございます。この子がセノンです」
セノンを見せるとエルシー様は茶色い仔犬を見せてくださいました。
「この子はマロンにしました。たくさんいる犬の中でこの子が私に近づいて見つめるんです。お父様に頼んで買ってもらいましたの。家族の中でも私にしか懐かないのが可愛くて。つれない婚約者のことなど頭からなくなりましたわ」
エルシー様が清々しい顔で話されてます。
前回会った時の暗い感じがなくなってよかったですわ。
「わかります。無駄な時間を過ごすより有意義に過ごしましょう。」
「私は婚約者を説得するのは、やめました。勝手にすればいいでしょう。今後の夜会のエスコートもお兄様が務めてくださるのよ」
「羨ましいですわ。私もお兄様にエスコートされたいんですがもう婚姻してしまいましたの。お姉様も大好きですが妹として寂しいです」
「リリア様もお兄様をお慕いしているんですか?」
「はい。私のお兄様とお父様は世界で一番素敵なんです」
「まぁ?ニコラス様よりも?」
「比べる価値もありませんわ」
「社交界ではお二人はさぞ仲が良いと噂ですのに」
「公の席では婚約者ですもの。私の婚約が良好と見せないといけません。内緒にしてくださいませ」
私はエルシー・クルー伯爵令嬢とお友達になりました。
マロンは私には懐きませんがセノンがいるからいいんです。エルシー様もマロンのお蔭でどんどんお顔が明るくなってよかったです。
まさかエルシー様が婚約者に勝手にしてくださいませとお手紙を送ったとは私は予想もしませんでした。そして、婚約者はその手紙を読まずに、遊びほうけていることも…。




