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夢みる令嬢の悪あがき  作者: 夕鈴
10歳編

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第六話 作戦

今日は授業はお休みです。そういえば王太子殿下と約束してました。オリビアのためには王太子殿下の恋のお手伝いをしないといけません。

お昼過ぎにローブを着て待ち合わせの場所を目指すと周りをきょろきょろ見ている王太子殿下がいました。

私、早く来たつもりですが・・。

そんなに必死に愛しい少女を探すなら、権力を使えばいいのに。


「レア!!」

「こんにちは。」

「来てくれないかと」

「早く来たつもりでしたが、お待たせしてすみません」

「私が早すぎたのかもしれない。気にするな」


穏やかな顔で笑う王太子殿下の言葉に固まりました。この人、非を認めました。


「どうした?」

「いえ、なんでもありません。何を探されているんですか?」

「レアがいないか見ていただけだ。小さいから踏まれないか心配したよ」


この人冗談言ったりできるんですね。


「そんな心配無用です。今日はどうされます?」

「街を見てまわりたい。」

「わかりました」


王太子殿下の手を引き歩きます。よく見ず知らずの私に手をひかれて歩きますよね。

この迂闊さが平民の少女に惹かれたんでしょうか。

うん?

見たことのないお店はに目が惹かれてしまいました。


「レア、興味があるなら見ていい。私もレアの興味があるものが気になる」


私の様子に気づいたのか、王太子殿下が声をかけてくれました。少女を探したいのに、私のことも考慮してくれたことが意外で驚きました。傍若無人で横暴な人だと思ってました。

殿下が小さく笑みを浮かべたので呆然と殿下を睨んでいたことに気づいて慌てて笑顔を浮かべて取り繕います。

うっかり顔にでないようにしないといけません。


「ありがとうございます」


見慣れない異国のものをたくさん置いてあります。殿下の言葉に甘えて足をとめます。壺をあけると、この中身はもしかして・・・。


「気になるかい?」


店主の声に顔をあげるとニヤリとした顔を浮かべてます。


「はい。これは」

「知ってるんかい。この地域は冷菓子の文化がないからね」

「これゼラチンですか!?ゼリーというものを作れる」

「よく知ってるね。これも見るかい?」


商人に差しだされる本を見ると、レシピが乗っています。

すごい。見た事ないものばかりです。

異国語の勉強はじめて良かった。


「両方ください。言い値で構いません」


市は値切ることが基本ですが、いいんです。

私はお小遣いがたくさんありますもの。言い値を払ってゼラチンと本を受け取ります。

ゼラチンの入った壺と本を持つと両手が塞がります。


「持つ」


王太子殿下が分厚い本を持ってくれました。いいんでしょうか・・。

差しだされる手を取ります。


「料理が好きなのか?」

「はい。」

「レアは料理人なのか?」

「御想像にお任せします。」


まさか侯爵令嬢とは言えません。

街を見て回りますが王太子殿下は探し人がいるとは中々教えてくれません。


兄弟喧嘩をしている子供に声をかけようとする王太子殿下の手をつよく引っ張ります。


「大丈夫ですよ。もう少し見ていてください」


兄に蹴られた弟が立ち上がり向かっていきます。しばらくすると母親が出て来て二人を叱っています。

二人は手を繋いで家に入っていきます。


「よくある兄弟喧嘩です。怪我をしなければいいんです」

「兄は弟に優しくあらねばならないのではないか」


戸惑った顔の王太子殿下に笑ってしまいます。

やっぱり王太子殿下、第二王子と仲悪いんですね。無理して優しくしようとしてたのかしら…。


「時と場合によります。私のお友達は弟に厳しいですよ。年の離れた弟に容赦がないです。」


実際に会ったことはないけど、ニコラスの話を聞いていると彼は弟に優しくしてません。

それでもニコラスのところにくる弟君はニコラスを兄として慕っているんでしょう。お兄様を慕う気持ちはよくわかります。

私のお兄様はいつも優しく素晴らしい方です。


「レアは兄弟はいないのか?」

「私の歳の離れた兄は優しく優秀で素晴らしいです。」

「レアは兄が好きなんだな」

「はい。大好きです。自慢の兄です」


私の顔を見て動かない王太子殿下に、素性を話していることに気付きました。

お兄様がすばらしいのがいけないんです。リリーはお兄様のすばらしさならずっと話せます。

お兄様の話なら大丈夫ですよね。名前出してませんもの。きっと世の中にはお兄様に及ばなくても素晴らしいお兄様はたくさんいますわ。


「うらやましいな。私は自分より優秀な弟にどう関わればいいかわからない」


声には戸惑いは感じますが、嫌悪している感じはありません。


「優秀なら頼ればいいではありませんか。私のお兄様も優秀ですが、一人でできることは少ないから交友関係を広めなさいってよく言います。私は優秀ではありませんがお兄様のお役にたてるように頑張ります。お兄様も頼りにしていると笑ってくれますよ」

「頼るだと?」


訳が分からないみたいですね。


「はい。私はお兄様に頼りにされたら嬉しいです。それに弟君も必死に努力されてるかもしれません」

「弟が?」

「弟君のことはわかりません。私の友人は天才と言われてますが誰よりも努力家です。みんなに期待されるたびに期待に答えようと無理してるのに大人は誰も気づきません。ただ友人の才能を褒めて期待をかけるだけです」

「レアはその友人をどう思う?」

「本人が大人に言わないなら見守るだけです。時々バカだなって思いますがひたむきに努力する姿は尊敬します。だから無理して倒れた友人をこっそり看病してあげます。」

「レアは努力する人間が好きなのか」

「はい。好きです。努力家で誠実で人の言葉をしっかりと聞いてくださるなら尚更」

「レア?」


うっかり素が出てしましました。


「なんでもありません。失礼しました」

「弟も努力しているんだろうか」

「貴方が優秀というなら陰で努力しているかもしれません。ただ男性は努力しているところを隠したいんでしょ?」


格好いいのにな。ニコラスも最初の頃はこっそり訓練しているのを見つけると気まずい顔してました。幼いころは騎士たちに負けてばかりだから余計に隠したかったんでしょう。負けても諦めずに立ち上がる姿は格好良いのに。負けず嫌いの見栄っ張り。さすがに、もう私が見てても気にしませんが。


「確かに一理あるな。うまくやれるだろうか」

「どうですかね。でも優秀な兄弟に恵まれるのは幸運です。血のつながりは切れません。強い味方です」

「それがそんな単純にはいかないんだよ。」


王家の事情は私の知ったことではありません。

暗いお顔ですね。


「貴方よりも全部弟君が優秀なんですか?」

「比べたことはないが」

「兄の矜持でしたら一つだけ、極めればいいのでは?全部勝てなくてもいいんです。向き不向きはあります。私の優秀なお兄様は料理と掃除が苦手です。でもお兄様を私は尊敬してます」

「料理と掃除って・・。そんな考えもあるんだな」


第二王子が優秀だからって完璧ではない。第二王子殿下って武術がそんなにお得意ではなかったような噂があったような・・・。あんまり覚えておりませんが。興味がないから両殿下のことは調べてませんし。


オリビアを殺したことは許しません。でも彼が努力しても誰にも認められなかったのなら可哀想な人だと思います。しかもずっと第二王子殿下と比べられ、兄として男として矜持がボロボロだったかもしれません。


「頑張ってください。」

「レアは応援してくれるか?」

「どうでしょう。でも必死に努力したのに笑う方がいるなら性根を叩きのめしてさしあげます。一生懸命努力しても何一つ叶わないなら慰めてあげます。弱音も聞き流してさしあげます」


頭にのせられる手に慌ててフードを引っ張ります。

見られるわけにはいきません。


「必死だな」

「勝手に脱がせるとは不躾です。失礼します」

「待て。悪かった。脱がせたりしない。」


殿下の手を離そうとしますが強く握られてます。

悪かった?謝ることができるんですか…。この人は想像と違って戸惑います。まぁいいですわ。


「また会えるか?」

「ご縁がありましたら」

「レアはつれないな。私と親しくすると損はない」

「興味ありません。もうお会いすることはないでしょう」


権力を使おうとするなら、会うのは危険。


「レアのことを調べないし無理強いもしない。また話をしてくれるだけでいい」


この人も可哀想な人なんですよね・・・。


「話をするだけなら。ただ会う約束をしても守れる自信はありません」

「来週も同じ場所で待っている。」

「期待はしないでください」

「ああ。これ、大事なものだろ」

「ありがとうございます。では失礼します」


殿下から本を受け取り別れます。もしかして根は良い人なのでしょうか。

まぁいいか。殿下がどんな方でもやることは変わりません。

本の上に壺を乗せて歩くのは中々歩きにくいです。人にぶつからないように慎重に歩きます。同時に買ったのは買いすぎでしょうか。

でも次回も店があるとは限りません。欲しいものはすぐに売れてしまいます。こんな素晴らしいものに出会えた幸運を喜びましょう。気をつけて歩けばいいだけです。


「リリ」


聞きなれた声に思わず足を止めました。ニコラスも買い物ですかね。歩くのに集中したので、うっかり反応してしまったことに今更後悔しても遅いです。

お説教されたくないんですが。


「お前、また一人で」

「スラムには行ってません」

「貸せ」


本と壺を取り上げられました。片手で軽々持てるところは羨ましい。


「今日はうちに来ると思っていたのに」

「はい?」

「なんでもない。母上がリリに会いたいってさ」

「さすがに気まずくて行きづらいです」

「父上達は気にしてない。気がかわかるのは大歓迎だけど」

「ありえません。もう少し、心の整理がつけば伺いますわ」


疲れた顔をしているニコラスの腕を掴んで、治癒魔法をかけます。

この人はきっとまた無理をしています。

体力オバケにも限界はあります。魔法が効いて嬉しそうな顔をするニコラスをみて、やっぱり無理してましたか・・。

仕方のない人です。ニコラスの腕を離して馬車に乗り込みます。


「荷物ありがとうございました」

「また異国料理を作るなら俺の分もな」

「美味しいかわかりません」

「ならリリアが食べる前に俺が毒味するよ」

「羨ましいくらい頑丈ですよね。失礼します」


手を振るニコラスに礼をして御者に命じます。

関係を終わりにしたいのに中々うまくいきません。

でも今日は素晴らしいものが手に入ったので余計なことを考えるのはやめましょう。

明日の朝にまた厨房を借りましょう。楽しみです。


「お嬢様、ニコラス様と仲直りされたんですね。」

「喧嘩してません。」

「私はお二人の様子に安心しました」

「私の言葉を、聞く気はないんですね…」


この御者はなかなか不躾です。御者のことは放っておいて、本を読みましょう。

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