第六十六話 生誕祭
今日は陛下の生誕祭です。
愛しい少女が現れます。アイ様のお話によるとみずほらしいドレスで出席するそうです。
私は着替えさせるべきドレスを何着か用意しました。エリを侍女として連れてきています。
なぜエリかと言いますと、見知らぬ少女を捕まえさせて、無理やり着替えさせようなんてお母様に知られたら大変です。エリは私の味方なのでお母様にも内緒にしてくれます。そこまで恩に感じていただくことはしてませんが、ありがたいので頼らせていただきます。
私は馬車を止めて待機しているんですが少女が現れません。
「リリア、そろそろ行かないとまずい」
「ニコラス、先に行きますか?」
「できるか。遅れるわけにはいかないから行こう。レトラ侯爵夫人が怒るし色々まずい。来ないかもしれなし」
ニコラスの意見も一理あります。陛下の生誕祭に遅れるなんてありえません。御者に命じて王宮に向かわせます。
馬車が止まったのでニコラスの手を借りております。今日はニコラスもイラ侯爵令息として出席です。
「ニコラス、扉の前で待機するのは」
「バカ言ってないで挨拶行くぞ。」
「わかりました」
ニコラスのエスコートに従い挨拶周りです。レトラ侯爵令嬢としてお務めを果たさないといけません。
「レトラ様、イラ様」
敵対派閥の伯爵令嬢に声をかけられました。下位から上位に声をかけるのはマナー違反です。
「お二人で公の場に来られるのは初めてでなくって。私、心配してましたのよ」
「お恥ずかしながら私がこういった席は苦手なもので」
「まぁ?でしたら年上の頼りになる方を選んだほうが、他意はありませんわ」
扇で口元を隠して可憐に笑う伯爵令嬢に悩みます。
うちとイラ侯爵家を取り込みたいんですよね。
流すか叩きのめすか悩みます。他国の貴族の目があるなかこの挑発はいけません。争っていると知られてはいけません。王位争いは水面下で行うものです。他国の貴族の前で争うのは恥です。
ここはニコラスと私の非にしましょう。
ニコラスに甘えた振りをして寄り添います。
「ニコラス、いけませんわ。久しぶりの社交会とはいえ、礼儀は大事です。侯爵家より下位の方には私達から声をかけなくてはいけません。しっかりしてくださいませ」
「そうだったな。忘れてたよ。伯爵令嬢配慮にかけて申し訳ありません。私の婚約者はしっかりしていますので心配無用です。長い時間一緒に過ごしたのでお互いの得手不得手はよくわかってます。二人で補い合いながら両家を盛り立てていきますので暖かく見守りいただけると幸いです。私達はこれで」
すれ違う伯爵令嬢に囁きます。
「同じ外交家系としてこの席の意味を分かっていただけますよね?慣れないご令嬢の間違いを咎めることは致しませんわ。お気をつけくださいませ。失礼します」
優雅に微笑んで立ち去ります。ニコラスが笑ってます。
「挑発すんなよ」
「忠告です。いませんね」
「現れないならそれにこしたことはない。」
「本当に?」
「ああ。そろそろ始まるな」
王家の皆様が登場されました。
「静粛に」
大臣の声に会場内が静かになります。礼をします。
「頭をあげよ。堅苦しい挨拶はやめよう。集まってくれたことに感謝する。今日は楽しんでいかれよ」
陛下が王妃様の手をとり、ホールに降ります。王太子殿下も檀上から降りてオリビアに手を差し出します。
第二王子殿下はどなたを誘われるんでしょう。
王家の方々がファーストダンスを踊られます。
扉が開きました。空いた扉には黒目黒髪の少女がピンクのワンピースで立ってます。
視線が少女に集まります。ドレスでもなくワンピースですか!?
彼女を着替えさせないと。オリビアが目を見張りました。オリビア、我慢してください。急いで少女のもとに足をむけようにも
ニコラスに腰を抱かれて動けませんでした。
「リリア、今は駄目だ」
耳元で囁かれた声に今は王家の方々のダンスを見なければいけないことを思い出しました。
第二王子殿下が少女に手を差し出しました。本気ですか!?
手を重ねてホールに歩く二人を唖然と見るしかできません。音楽の演奏が始まり、王家の皆様が踊り始めました。無邪気な笑みで踊る少女に視線が集まってます。
一曲目が終わったので私達も踊らないといけません。
ニコラスと踊りながら、少女を見ると王太子殿下と踊ってます。第二王子殿下はオリビアと踊ってます。
「ニコラス、次はオリビアと踊ってくれます?私、少女と話します」
「いや、この状況では無理だよ」
ダンスが終わったので礼をしてホールから離れます。少女は第二王子殿下の隣にいるのでニコラスの腕を引いて近づきます。令嬢達の少女へ向ける視線が痛い・・。両殿下と踊った少女へ色んな視線が集まるのは仕方がありません。
「騎士様!!」
少女がニコラスのところに駆けよってきます。第二王子殿下を放っておいていいんですの?走ってはいけません。
「探していたんです。お礼が言いたくて!!」
上目遣いで見つめる少女は可愛いです。
「ダンスの練習したんです。だから」
これはチャンスですわ。
「はじめまして。ニコラスの婚約者のリリア・レトラと申します。ニコラスと踊るなら準備が必要です。こちらにおいでくださいませ」
「え?」
「ニコラス、少々彼女をお貸しくださいませ。」
ニコラスの手を離して少女を連れていきます。
「嫌。邪魔しないで」
「ダンスするなら後でごゆっくりどうぞ。ですがダンスするには準備がいりますのよ。ニコラスと踊りたいなら来てくださいませ。上位の者の命令は絶対です。」
泣きそうな彼女を会場から連れ出し、控室に連れて行きます。エリに扉と鍵をしめさせます。
「なにするのよ。貴族だからってなんでも思い通りにならないわ」
「エリ、やりなさい」
「リリ様、お任せを」
「嫌、何するのよ、」
「見苦しいです。静かにしてください。その言葉遣いは品位を疑われます。お気をつけくださいませ。」
「あんた、なんなのよ」
「リリア・レトラと申します」
「苦しい。何するのよ」
「コルセットですわ。我慢してください。どなたがお好きなんですか?」
「は?」
「教えていただければ協力しますよ。ただ令嬢として最低限の嗜みを身に付けていただければ」
「何様なの!?」
「レトラ侯爵令嬢です。貴族に嫁ぎたいのならそれなりの教養が必要です。今の貴方ではいけません。やる気があるなら仕込んであげます」
「えらそうに。絶対に後悔させる。余裕でいられるのなんて今だけよ」
支度をおえましたね。暴れる少女を押さえつけて支度させるエリの侍女能力は素晴らしいです。特別手当を出してもらいましょう。
「エリ、御苦労さま。これならニコラスと踊っても構いません。どうぞ、お戻りくださいませ。服はここにおいておきますから」
すでに立ち去った少女をゆっくりと歩いて追いかけます。全然言葉が通じないんですが・・・。
ニコラスとの約束で映像魔石で常に録画させていただいています。
会場に戻るとニコラスに手を差し出されたので手を重ねます。
「もう踊ったんですか?」
「まさか。触れたくもない。王太子殿下にリリアに乱暴されたと騒いで衛兵に連れて行かれた」
「何てことを・・」
王太子殿下が来賓の方々に謝罪に回ってます。私も来賓の方々にお話にいかないといけません。
「可愛かったですね」
「リリア、医務官に見てもらうか?」
「なんでですの?」
「どう見てもリリアの方が可愛いだろ。」
「お母様のお顔が好きですね。行きましょう」
第二王子殿下はどうして少女を招待したのかしら・・。
考えるのは後です。私の作戦は台無しです。ぼんやりしててもニコラスが私のかわりに応対してくれるので問題はないんですが・・。ニコラス、社交が苦手で参加しないわりに私よりうまいってどういうことですか!?貴方、優秀過ぎませんか!?




