第六十五話 下準備
私はセノンとの関係性を悩んでます。よく考えるとセノンは私よりもニコラスの言うことを聞きます。
「オリビア、私のセノンが、どうすればいいんですか!?」
「突然会いたいって言うから何事かと思えば」
そんな憐れみの視線で見ないでください。オリビアが忙しいのはわかってますよ。
手紙を出して当日に招いてくれるなんて奇跡ですもの。でもこの悲しさとモヤモヤを聞いてもらう相手はオリビアしか思いつきませんでした。
「セノンはどうしたの?」
「ニコラスといます。躾って・・」
「任せればいいじゃない?イラ侯爵家は動物多いから犬の躾くらい簡単よ」
「私が育てたいのに・・・」
「リリアのお気楽ぶりに気が抜けるわ」
優雅にお茶を飲むオリビアがひどいです。
「ひどいです」
「褒めてるのよ」
「褒め言葉に聞こえません。オリビア、ニコラスが話したいことがあるって言ってました。」
「何かしら?リリアの話は終わり?」
「終わってないです。セノンのこと」
「この緊迫した情勢で本当に・・・・。リリア、わかってる?」
呆れた顔しないでください。第二王子殿下が勢力的に動いているのはわかっています。
「もちろんうちは外交の名家。新興貴族なんかに主導権は渡しません」
「陛下の生誕祭で他国の貴族も招かれるわ」
「私に任せてと言いたいですが難しいです。でもお兄様とミリアお姉様も帰国されます。ご安心ください」
陛下の生誕祭は大行事。レトラ侯爵家は全員参加です。他国の貴族の持て成しと取引の話をするそうです。
「ミリア様の噂は知ってるわ。事情はともかく優秀なご令嬢を他国から引き抜いてくれたことは王妃様もよろこばれていた。横槍が入るかもしれないけど」
「今更ですか?」
「必死なのよ。王太子殿下が隣国との強い繋がりを持ったから。隣国での儀式はレトラ侯爵家が神官と巫女を用意したことになってるわ。レトラ侯爵家が上皇様と親交が深いことは有名だもの。」
「オリビア、時間ができたら王太子殿下と人気取りしましょう」
「人気取り?」
「王太子夫妻で民の視察を。あと孤児院の視察も。見目麗しい二人が姿を表すだけで民は喜びます」
「リリアがちゃんと考えてることに驚いた」
「あと下位の方々の無礼は私が咎めます」
「え?」
「オリビアは優しく助けてあげる役目。優しい未来の王太子妃でいきましょう」
「リリア、口出すな。オリビア嬢がどうするかはリリアが口をだすことじゃない。サン公爵令嬢に無礼だ。」
いつの間にかニコラスがいました。気配ありませんでした。執事がいるから呼ばれて来たんでしょう。
「ニコラス様」
「リリアがすみません」
「気にしないで。どうぞ座って。ご用件は?」
ニコラスが私の隣に座りました。
「オリビア嬢、お抱え魔導士いますよね?」
「ええ。上級魔導士を雇っているわ」
「これを」
ニコラスが二つの袋をオリビアに渡しました。
オリビアが袋の中から手を出しました。聖属性の魔石に魔法陣が描いてあります。そういえばニコラスが作っていましたね。まさか、これは私は立ち去った方がいいでしょう。愛しい少女の前にオリビアに告白ですか。魔石は愛の告白という風習の国もありますもの。
立ち上ると腕を掴まれます。
「リリア、座ってて」
「サロンの入り口に立ってます。聞き耳立てないから、安心してください」
「絶対勘違いしてるよな」
「王太子の婚約者に告白なんて、でも伝えるだけなら自由です。セノン行こう」
「待て。しないから。座れ。お前にも贈ってあるだろ?」
いつも身に付けているペンダント・・。
「外すなよ。それは絶対に身に付けてろ。約束したよな」
「ニコラス様、これは?」
ニコラスに強引に腕を引かれて座らせられます。
この強引さはエスコートとは認めません。
「魅了魔法を知っていますか?」
「ええ。ただ禁止されているわよね」
「はい。魔法で心を操ることは禁止されています。ただ魅了魔法を乱用するものもいます。一人は見つけてもう二度とそんなことができないようにしました。ただ二人目が現れないかはわかりません。この聖と闇の魔石を身に付けていると魅了魔法にかかりにくくなると言われています」
「ニコラス様は魅了魔法にかかったの?」
「思考が奪われぼんやりしたところに剣で足をさしたら意識がはっきりと。その後、始末しました」
「ニコラス、足、どこ、」
「昔の話だ。もう治っているよ」
「バカなんですか」
「リリア、その話は後にして。いくつか魔石に魔法陣を書いてあります。残りはオリビア嬢のお抱え魔導士にお願いしても」
「呼ぶわ。」
オリビアが笛を吹きました。音は聞こえません。
「私と王太子殿下も肌身離さずつけてほしいと?」
「はい。危険な物ではありません。その聖属性の魔石を用意したのはリリアです」
「魅了されたら困る人物に下賜しろと?」
「ただ魅了魔法のことを知られると悪用されることもあります。この魔石の効能も極秘でお願いします。」
「装飾品に加工させて下賜すればいいのね。」
「お嬢様お呼びですか」
ローブをきた方が来ました。
「ええ。この魔法陣を魔石に刻める?」
オリビアの渡した魔石を真剣にみています。
「なかなか難解な魔法陣ですが、わかりました」
「魔石は作れる?」
「申しわけありません。この純度の魔石は私には」
「魔石はこちらで用意する。頼めるか?ただ魔法陣を間違えないようにだけ気を付けてほしい」
「できる?」
オリビアのできないなんて言わないよね?って心の声が聞こえました。魔導師様、気の毒です。
「わかりました」
「もういいわ。後で部屋に持って行かせる。下がって」
「はい。失礼します」
「オリビア嬢、その魔石は強いから悪用、盗用、紛失は気を付けてください。魔法陣を刻めば、魅了魔法予防としての価値しかありません」
「ええ。厳重に管理させるわ。」
この二人って昔から二人の世界を作るんですよね。途中で話についていけなくなります。
「ニコラス、全然わかりません」
「お守りだよ。時々また魔石作ってくれるか?闇の魔石は俺が用意するから」
「構いませんがお金大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない」
「オリビア嬢、いりようならリリアに伝えてください。あとオリビア嬢と殿下は生誕祭の時には必ずつけてください」
「貴方が警戒するなら事情があるんでしょう。わかったわ。殿下にも加工してお渡しするわ。せっかくだから流行作りに利用するわ。」
オリビアが優雅に笑っていますが絶対に企んでいます。私の膝でお昼寝しているセノンが羨ましいです。家に帰ればニコラスを問い詰めましょう。魔法陣書くなら手伝いましたのに・・。
もうすぐ陛下の生誕祭です。
愛しい少女を見つけないといけません。




