第六十四話前編 イラ侯爵邸
私はお役目を終えて帰ってきました。
我が家が一番です。お兄様とお姉様は旅立ちました。寂しくなります。
私はこれから3日間お休みです。社交もお勉強もありません。隣国では全然お休みがなかったので嬉しいです。なにをしようかな。
「ニコラス、当分はイラ侯爵家に帰ってください?護衛にも休みは必要です。私も三日間お休みです」
「勝手に休むから問題ない。」
「出歩きません。セノンとエルと遊んでます」
「信用できない。リリアがうちに来るなら帰ってもいいけど。母上がリリアの部屋を作ったよ。帰国したらリリアと顔を出してほしいって手紙が来た」
同じ国にいるのに手紙が来るっていつから帰っていないんですか・・。
きっと心配されてますよ。
「私もですか?」
「張り切ってたよ。泊まるか?」
悩みます。でも呼ばれているなら行ったほうがいいんでしょう。
「そうすればニコラスは安心して休めるんですか?」
「まぁな」
「エルとセノンを連れて行ってもいいですか?」
「なんでエル?」
エリ親子はうちで使用人として引き取りました。
クレア様は貴族として頼りないですが、エクレ公爵家はさすがです。エルさえもう大人顔負けの仕事を仕込んでくださいました。
うちの執事長が喜んで面倒をみています。
「私の専属執事だそうです。幼いのに将来有望って執事長が褒めてました」
リリ様の専属執事になりましたって胸を張るエルが可愛かったです。
「母親と一緒にいさせてやれ。セノンはもちろんいいよ」
ニコラスが頑固です。たぶん一人では帰らないでしょう。
「わかりました。お伺いしますわ」
「帰るか」
「これからですか?先触れだしてません」
「いらないだろ。荷物はいらないから行こう」
「はい?」
「服も全部ある。訓練着もな。」
仕方がないのでニコラスとイラ侯爵家に行くことにしました。ニコラスさえ置いてくれば私は帰ってもいいですもの。久々に帰って息子をイラ夫妻が傍から離さないかもしれません。
馬車に乗るとすぐにつきます。イラ侯爵夫妻にご挨拶をしないといけません。
「リリア、お帰りなさい」
「突然すみません」
「いいのよ。もううちの子なんだから」
婚約してからイラ侯爵夫人のテンションがおかしいです。
「ありがとうございます。イラ侯爵夫人、いえ義母様」
義母様と言わないと悲しそうに見つめられます。
「リリア、私のことを」
「旦那様」
「父上」
「なんでもない。ゆっくりしていきなさい。」
「ありがとうございます。イラ侯爵」
「そうだ、リリア、いらっしゃい。見せたい子がいるのよ」
イラ侯爵夫人と一緒に馬屋に行くと、なんと牛がいます。
これは幻覚でしょうか!?
この国で牛に出会えるなんて奇跡です。
「リリア、欲しがってたでしょう?」
「義母様?え、本物」
「ちゃんと手続きしているわ。好きなだけミルクを使っていいわ」
「セノン、聞いた?ミルクが飲めるよ。ケーキも作れる!!嬉しいね。セノンも嬉しい!?ちゃんとお礼を言って。義母様、イラ侯爵ありがとうございます」
「あともう一つあるのよ。いらっしゃい」
案内されたままについて行くと離れがあります。ここ何もなかったような・・。中に入ると立派な厨房があります。
ベッドや書斎もあり、住めそうです。
小さい別邸みたいです。
「リリア、ここ自由に使って。貴方用に用意したのよ。私達からの婚約祝いよ」
「すごい!!。義母様よろしいんでしょうか」
「ええ。先触れもいらないわ。いつでも来なさい」
「ニコラス、どうしよう」
「住めば?」
「さすがにそれはご迷惑が」
「いいのよ。本邸にもリリアの部屋はあるから、好きな方で過ごしていいわ。泊まっていく?」
「ご迷惑でなければ」
「大歓迎よ。食事は一緒に食べましょうね。必要なものがあれば厨房の材料は自由に使っていいわ」
「ありがとうございます」
感動です。ここなら料理し放題です。
しかもミルクもあります。ケーキが作れます。セノンも喜びます。お母様がいないので、夜ふかししても怒られません。腕の中のセノンも嬉しそうです。
「父上、」
「お前がいない間リリアが全然こなかっただろう。だから色々考えたらしい」
「よく牛が手に入りましたね」
「レトラ侯爵が手に入れたのを、うちで飼うとあやつが引き取ってきた。」
「母上、どれだけリリアが好きなんですか」
「レトラ侯爵夫人にも感謝された。牛なんてうちは育てられんと。レトラ侯爵の独断らしい」
「このままいけばうちは動物園になりそうですね」
「お前だって時々連れてくるだろうが」
「もうないと思います。母上が帰国したらリリアを連れてこいと言った意味がわかりました」
「義母様、さっそくなんですがミルクをいただいてもいいですか?」
「ええ。好きなだけ使いなさい。」
「セノン、良かったね。ミルク貰おうね」
私はミルクを取りに行くことにしました。牛のミルクってそのまま飲めるんですか?
牛、大きいです。ミルクってどうやって絞れば。
「セノン、わかる?わからないですか。とりあえず近くに行ってみようか」
「リリア、待て」
腕を掴まれます。
「慣れない動物に近づくな。あとで届けるから違うところにいて」
「ニコラスは休んでください」
「そんなに疲れてない。俺に休んでほしいなら言うこと聞いて。どこにいる?」
「シロと遊んでます」
ミルクはニコラスに任せてシロのところにいきます。
久しぶりにシロを撫でます。セノンは膝の上です。シロがいる時はセノンは膝の上から降りないんです。
仲がよいかはわかりませんが怯えなくなりました。最近はますますシロは私に無関心です。寂しいですが私はセノンがいるからいいです。牛の育て方を勉強しないといけません。
「リリア、離れに運べばいいか?」
ニコラスが大きい瓶を抱えてきました。
「はい。ありがとうございます。持ちますよ」
「重たいから無理だ」
ニコラスと一緒に離れの別邸に行きます。お皿にミルクを入れて貰いました。
セノンが飲み始めました。かわいいな。
ニコラスがテーブルに本を何冊か出してますが、読むんでしょうか。
「リリア、そこ座って」
ソファに座ります。ニコラス、なんで人の膝を枕にしますの?
「俺、寝るから」
「え?」
「その本読んでていいから、お休み」
はい?いや、ベッドで寝ればいいでしょ。
ミルクを飲み終わったセノンがニコラスの上に登っても起きません。もう寝たんですか!?
仕方ありません。疲れてたんでしょう。料理をしたかったけど、ここまで熟睡されると起こせません。寝てるの久しぶりに見ました。
頬に手をあてて治癒魔法をかけます。体が楽になるでしょう。
この人はいつまで無理をするのかな。疲れてないって言ってたのに。
小さい頃もよく人の膝で寝てましたね。
セノンはニコラスのお腹の上で寛いでます。
「セノン、ニコラスは意地っ張りなの。昔から全然休まなくてよく倒れてたんです。だからいつもこっそり魔法をかけてあげたの。」
「こっそり」
「そう。こっそりかけないと隠れちゃうから」
「なんで」
「男のプライドというものです。膝の上に頭をのせて、起きるのを待ってるの最初は怖かったの。本当に起きるかわからないから。でも起きるときょとんとする顔が好きだったな。必死な顔で訓練してる時とのギャップが」
「いちばん?」
首をかしげるセノンが可愛い。最近のセノンは一番って言葉がお気に入りです。
「一番は難しいわ。セノンを優しそうにみてる顔が最近は好きかな。時々する真剣な顔も格好いいけど。」
久々のニコラスの神官姿は正面で見られなかったのはちょっと残念です。
「リリアはにこらすも好き?」
「そうね。セノンが一番だけど」
「セノンもリリアがいちばん」
「ありがとう」
「ずっといっしょ」
「うん。ずっと一緒にいようね」
「にこらすも?」
寝ているニコラスの頭を撫でます。
この人はいつまで私の膝で寝るんでしょうか。
「ニコラスはいずれいなくなるわ。」
「なんで」
「大好きな人ができるの」
「ニコラスはリリアが好きじゃないの」
「難しいかな。ニコラスの好きは違うから」
「違う?」
「魔法にかかっている好きだからいずれ解けちゃうの。でもニコラスがセノンを好きな気持ちは本物よ」
「なんで?」
「セノンが可愛いからよ」
「リリア、悲しい?」
「悲しいより寂しいかな。大事な幼馴染の幸せは嬉しいわ。ニコラスの結婚式は参列できたら盛大な祝福をしてあげようかな」
「セノンも」
「二人でお祝いして驚かそうね」
セノンと一緒なら楽しくお祝いできそうな気がします。
ニコラスが結婚する頃、生きてるといいな…。
いえ、オリビアと生き抜くために頑張るんです。
「自分の結婚式に自分で祝福するのかよ。生きてれば上皇様がしてくれるだろう」
「上皇様に失礼よ。ニコラスの結婚式なら上皇様も来るかしら」
「リリアの結婚式なら絶対に来るだろ。お前、上皇様の愛弟子だろ?」
ニコラスのお腹の上にいるセノンから視線を動かします。
「起きたんですか?」
「さすがにな。」
「寝るんならベッドで休んだほうがいいですよ。」
「いや、ここがいい」
「昔から好きですね」
「ああ。昔からリリアが好きだ。なぁ、セノン、聞きたかったんだけど」
最近、ニコラスは好きがお気に入りですよね。いずれ愛しい少女に囁く練習でしょうか。
私で練習するとは失礼です。とろけそうな笑みを向けられると勘違いしそうになります。
「なに?」
「なんでシロ嫌がってたの」
そんなこともありましたね。最初の頃怯えてましたね。
「シロはリリアをねらってた」
「狙う?」
「シロにとられたらリリア一緒いられない」
「もう平気なのか?」
「セノン、リリアと契約。リリア、もう契約できない」
「シロはリリアに危害は加えないのか?」
「シロはニコラス怖いから平気」
どういう意味?
「ニコラス、シロをいじめたんですか?」
「躾だ。うちの訓練だよ。シロがリリアやセノンにとって危険になったら教えて」
「うん。シロ、セノンが契約したから残念って。シロは女の子が好きだからニコラスは嫌だって」
「あの駄犬。隣国に送りつけるか」
「シロはこの国がいいって」
「なんで?」
「魔力が美味しい人が多いって。シロはニコラスは嫌だけど魔力は好きって」
「やっぱり、あいつ俺の魔力食ってやがったな」
「ニコラス、交換」
「たまには譲れよ」
「次、セノンの番。リリア、セノンもお膝のりたい」
「ニコラス、終わりです。」
「足りない」
「セノンはまだ子供ですよ。年上なんだから我慢してください」
「リリアが俺の膝の上にくる?」
「休憩にならないでしょ。頭どかしてください」
「もう少し俺を労われよ」
「えらそうに。ありがとうございます。いつもお疲れ様です。どいてください」
「気持ちがこもってない」
「無理やりお礼を言わせようとするニコラスが悪いんです。あんまり、駄々こねると水かけますよ」
ニコラスが目を閉じました。
「ここで寝るの?起きてください、嘘でしょ!?寝るの早すぎますよ。セノン、ごめんね。ニコラス寝ちゃった。抱っこでいい?」
「や」
「ニコラス、セノンのミルクを運んで疲れちゃったの。明日もセノンのミルクを届けてもらうために休ませてあげよう」
「リリア」
「ニコラスのおかげでこれからは牛のミルクが飲めるのよ。抱っこでいい?」
「リリア、本読まない?」
「うん。セノンと遊ぶ」
「抱っこ」
「おいで。セノンは可愛いわ。」
ニコラスが熟睡しているのでセノンと遊んでいたら気づいたら食事の時間になっていました。
イラ侯爵夫人がニコラスの貴重な寝顔を保存したいと映像水晶を取りに戻るとニコラスが起きました。
疲れが取れたなら良かったです。なぜか顔が赤いんですが、調子は悪くないようなので気にしないことにしました。
戻って来たイラ侯爵夫人が嘆いてました。でも映像に残されるのって恥ずかしいので、ニコラスのことを思うと笑って宥めるしか方法はありませんでした。




