第六十二話 隣国6
無事にクレア様と第二王子殿下の儀式が終わりました。
あとは、二人の披露宴で御祝いをして終わりです。
この大事な日に第一王子殿下は何を考えているんでしょうか。
幸せなお式が台無しです。
会場に入ると王太子殿下を見つけました。
お兄様もいますわ。
「お疲れ様」
「ありがとうございました。殿下、オリビアがそろそろ来るのでお迎えに」
王太子殿下が扉に向かいました。丁度来たのでエスコートしてます。二人は絵になりますわ。
お兄様の差し出さる手に手を重ねます。
「遅かったから心配したよ」
「すみません。お兄様、お姉様はよろしいんですか?」
「ミリアは久々の帰国だから、自由にしてるよ」
でしたら、お兄様のエスコートに甘えましょう。婚姻されたお兄様のエスコートは貴重です。お兄様はエスコートも素晴らしいのです。社交界でも人気の貴公子でした。さすが私のお兄様です。いけません。お務め中でした。いくつか確認しないといけません。
「私、儀式の時に参列しなかったことになりますか?」
「神官達をリリアが接待したことになってるから問題ないよ」
「良かったです。最後だけ違うんですが大丈夫でしたか?」
「あれか…。大丈夫だよ。ここの国は簡易での儀式だったからね」
「やりすぎましたか!?」
「正式な儀式だから大丈夫だよ。」
「良かったです。」
無事に儀式をおえたという評価を得られたなら良かったです。
戻ってきた王太子殿下とオリビアの後について時々通訳しながら控えます。必要なことはお兄様がしてくれます。
無事に披露宴は終わりました。ケーキが食べられなかったのは残念ですが仕方がありません。
無事に披露宴も終わって何よりです。
明後日にはこの国をたちます。明日はお休みです。
帰国の準備を整えたら、ケーキを食べに行くんです。きちんとニコラスの許可をとってあります。明日に備えてもう休みましょう。
***
私はお休みを楽しみにしていました。
ただ国王陛下より謁見せよと命令がきました。
ケーキはお預けです。
悲しい気持ちを隠して王宮に参内しました。陛下は私と二人で話したいと申されましたが、なぜかニコラスが言葉を交わして護衛の付添いを許してもらいました。
おかげでニコラスとディーンは後にいます。
「レトラ嬢、頭をあげなさい」
頭をあげると、国王陛下が笑ってます。なぜか悪寒が走りました。
「君には2つの選択肢がある。第一王子と婚姻か神殿で聖女になるか。選び給え」
「恐れながら国王陛下、おっしゃる意味がわかりません」
「うちの息子が君と深い仲になったと言うんだ。意味はわかるか」
「身に覚えはありません」
「君とうちの息子が寝室に二人で入った映像があるんだが」
映像水晶に私が寝室に入ったあとに、第一王子殿下が入る映像が映されます。編集されてます。
脅された侍女が映ってません。どうして国王陛下が映像水晶を持ってるのでしょう。私が記録したのは映像魔石です。
「レトラ嬢が腕につけてるのはうちの息子が渡したものだろう?」
魔封じの腕輪のことですね。私、魔道具をつける趣味はありません。
そして同じ色ですが、こっちのほうが高価です。だって外せませんもよ。
「事実はわからん。ただこの映像を見せれば周りはどう思うかわかるだろう?私は君がどうしても息子との婚姻が嫌ならこの国の聖女として歓迎するよ」
脅されてます。嫌らしい笑みに悪寒が止まりません。
聖女?うちの国では聞いたことがありません。
でも第一王子と婚姻するなら神殿行きで構いません。ですが、私は神殿に籠もっていられるほど暇ではありません。
どうしましょう。私が話していないのに、どんどん話が進んでいきます。
「恐れながら、それは私がリリア嬢に贈ったものです。また彼女はまだ未成年です。この話は兄のノエル様と我が国の王太子殿下も交えて話していただけますか。」
「君はレトラ嬢の護衛騎士なのにこの映像が見られて構わないと言うのか」
「はい。皆様を集めていただいて構いません。貴国の王子殿下もお呼びください」
陛下が満足そうに笑ったのはどうしてでしょう。
「ニコラス」
「大丈夫だ」
頼もしいニコラスの顔に頷きます。きっと大丈夫です。
しばらくすると、人が集まってきました。
第二王子殿下とクレア様はいません。
王太子殿下とオリビアとお兄様が来ました。
「リリア、どうした」
突然呼ばれた王太子殿下に穏やかな顔で見られます。
場合によっては友好どころの問題ではなくなります。王太子殿下の外交が失敗すれば取り返しのつかないことになります。
最悪の結果を招くなら大人しくここの神殿に入りましょう。
「王太子殿下、切り捨ててください。」
「リリア、大丈夫だよ。お兄様に任せなさい」
お兄様の頼もしいお顔に泣きたくなってきました。
「静粛に」
大臣の声が響きわたります。
「急な呼び出しに集まってくれたことに感謝する。これからうちの第一王子とレトラ嬢の婚姻について話をしよう」
視線が私に集まります。
まず婚姻の了承してません。神殿一択です。
「恐れながら国王陛下、リリア嬢にはすでに婚約者がいます。」
王太子殿下の言葉に陛下は悲しげな視線をむけました。
心の中では絶対に笑ってますわ。
「これを見ても言えるか。」
映像が映され周りがざわめきだします。
私と第一王子殿下が寝室に入る映像です。
婚前交渉したと思わせたいんでしょう。ですが私まだ未成年です。残念ながら豊満なお胸もありません。今更ですが、大人が子供に手を出そうとするなどありえませんよ。
「これは!?」
「まあ!?」
私に非難の視線が集まります。
よく考えたら無理ですよね!?子供相手に子作りですよ!?
周りの貴族の皆様、よく考えてください。
「おかしいですわ。うちの映像と違います。こちらをご覧ください」
オリビアが、護衛に命じて映像水晶を映しました。
やっぱりオリビアも部屋に仕掛けてあったんですね。
陛下の確認もとらずに映していいんですか・・・。周りから非難の声があがらないならいいでしょう。
オリビアの部屋で侍女が脅された所から始りました。
さらに周りがざわめきます。
「次はこれです」
お兄様が魔力を流した映像魔石が寝室でのやり取りを映し出します。
「父上、どういうことでしょうか!?」
第二王子殿下が飛び込んできました。王族ならばどんな時でも優雅にですよ。この空気では口に出したり致しませんが。
「セシル、なぜ」
「早馬で知らせがありました。リリアを王宮に呼び出したと。急いで引き返してくれば」
「セシル殿下、私はリリアを第一王子と婚姻させる気はありません」
「え?父上、まさか」
「セシル、国のためだ」
「国のためといえば、許されるものではありません。」
第二王子殿下の眉間に皺がよりました。
「私達は友好を深めるためにこの国にきましたが残念です。」
オリビア、残念そうな顔をしてなにを言い出しますの。
「上皇様へも報告させていただきます」
ニコラスまで・・・。護衛は静かにしてください。
「そなた、まさか」
陛下がニコラスを見ています。
神官がニコラスって知られてしまいますよ!?
騎士なのに神官って知られたくないんじゃありませんの!?だから似合わない眼鏡を神官姿の時はかけてるんですよね!?
「王太子殿下、この国は神の怒りに触れましょう。終る国と親睦を深めるのも時間の無駄かと」
ニコラス、何を言いますの!?ニコラスが魔石に手を当てると陛下と私の謁見の映像が流れます。いつの間に撮ってたんですか?
「上位神官として神殿ならびに上皇様に報告させていただきます。聖女の認定は本人の意志が絶対条件。国の最高責任者がこの条件を違えました。そんな国には神の加護はなくなるでしょう」
お兄様が上位神官なんて知りませんでした。
さすがお兄様。お兄様がその気になればできないことなんてありません。お兄様のすばらしさにうっとりしてる場合ではありません。
お兄様、中々過激なことをおっしゃっているんですが…。
上皇様の言葉一つで神官達はこの国から引き上げます。神殿に見捨てられればこの国に未来はありません。
貴族達の顔が青くなっています。
「私は陛下は何か勘違いをされてると思うのだが、もう一度事実確認をしてもらえませんか」
さすが王太子殿下。たったお一人だけは穏便におさめようとしてくれてますわ。
王太子殿下、平凡じゃありません。優秀です。私、王太子殿下への態度と評価をあらためます。
「ギルバート殿下」
「セシル殿下、どうだろうか」
「申し訳ありません。私の名でもう一度調査しましょう。陛下、この件は私に預けていただけますか」
「セシル・・・・」
国王陛下と第二王子殿下が見つめ合っています。
「私達はこのままでも構いません。私達の映像魔石は本国にも送っているので、ここで壊しても無駄ですわ」
オリビア、隣国の国王陛下を脅さないで。お願いですから。
「陛下、ご決断を」
陛下、私にそんな顔されても困ります。助けませんよ。侍女に危害を加えた第一王子を許せませんもの。
沈黙が続いてますが、私は折れるつもりはありません。
「セシルに一任しよう」
「ギルバート殿下、リリア嬢申し訳ない。ここは一旦預けてもらえないだろうか」
「王太子殿下、私は侍女への罪をしっかり裁いていただければ十分ですわ。」
「リリア、それはリリアが決めることではない。レトラ侯爵家として私が話をつけるから任せなさい」
「わかりました」
「ギルバート殿下、部屋を用意するので、そちらで休んでください。後程で伺います」
「わかりました。よろしくお願いします。行こうか」
王太子殿下について退室します。
案内された部屋で待機するしか選択肢はありません。やっぱり私の唯一のお休みは台無しです。
「王太子殿下、申し訳ありませんでした」
「リリア、気にするな」
「そうよ。悪いのは相手なんだから。」
「リリア、大丈夫だから。」
お兄様に抱きつきます。
「リリー、怖かったな」
背中を叩いてくれる手が優しい。
安心して泣きたくなりましたが我慢です。
「もう帰りたい。この国、訳がわかりません」
「明日、帰ろうな」
「帰ったらリリーと遊んでください」
「時間を作るよ」
「あと一日がんばります」
私は第二王子殿下が来るまでここで待ちましょう。
今日はお休みなのに・・・。
午前中に準備を整えて、午後はお買い物の予定でしたのに。
私のケーキが・・・。色んな意味で悲しいです。




