第六十一話 隣国5
私はオリビアの部屋で巫女服からドレスに着替えています。
ニコラスは寝室で着替えてもらっています。
侍女の手を借りてドレスに着替えてると、コルセットを締める手が止まりました。
不思議に思い後ろを振り向くとなんで、侍女の首に短剣が突きつけられてました。短剣の持ち主の第一王子殿下を睨みつけます。
「声を上げるな」
この人、頭大丈夫ですか?
他国の人間に手を出す怖さを知らないんですか。
外交問題ですよ。
私のドレスには映像魔石がついてます。
慌てて怯えた顔を作ります。私も侯爵令嬢なので、表情くらい作れます。
侍女への貴方の行為しっかり裁いてもらいます。
「どうして」
「あいつに王位を奪われてたまるものか。」
「そんな、わたし、に言われましても」
「お前が、俺のものになれば王位は俺のものだ」
「婚約者が」
「手っ取り早い方法がある」
嫌な笑顔を浮かべる方です。
子供相手に既成事実を作ろうなんて、頭は大丈夫でしょうか。
素晴らしいお姉様がこんな男の妻だったなんて、嘆かわしいですわ。
お姉様のことを思ったら、涙がでてきましたわ。
あんな素晴らしいお姉様を、こんな男のために不自由されていたなんて。
「なんて…」
「優しくしてやる」
卑しい笑いに鳥肌がたちます。ミリアお姉様も、こんな顔を向けられてたんでしょうか…。
優しい人はこんなことしません。この方とも価値観が合いません。
「やめてください」
「こいつの命が惜しければ従え」
最低です。お姉様を不幸にして、侍女まで怖い思いをさせるなんて…。絶対に許しません。
怯えた顔が崩れそうになったので、慌てて戻しました。睨んではいけません。
「どうすれば、」
「これをはめろ」
こんな男の物を身につけたくありません。ただ侍女に手を出されては困ります。
渡された腕輪を大人しくはめます。この感じは魔封じの腕輪ですね。
「寝室に行け。声を出したらこいつを殺す」
ドレスをひきづって寝室にいきます。
せめてコルセットを締めて欲しかった。動きにくいです。
映像魔石にニコラスが映らないように手で隠します。
寝室の隅で腕を組んでるニコラスを見つめます。
きっとうまくやってくれます。
視線をあわせると頷くのであとはお任せしましょう。第一王子殿下は侍女を気絶させてからここに来るはずです。後で治癒魔法をかけるからごめんなさい。侍女さえ離してもらえばこっちのものです。
第一王子殿下が来ました。
予想通り侍女は連れてません。
「リリア、」
「嫌」
伸びてくる手に怯える振りをすると、背後からニコラスが剣をつきつけてくれました。
「リリアに触れないでください。ディーン来い」
駆けつけたディーンが寝室の状況に目を見張りました。
ドレスについている映像魔石を渡します。
「これを」
「リリア、いないの?」
クレア様の声が聞こえるのはどうしてでしょう。
「どうぞ。寝室にいます」
ニコラス、なにを考えてるんですか!?
「これは」
まずいです。クレア様だけでなく、オリビアもいます。
顔を青くしたオリビアが駆け寄ってきました。オリビア、どうしてここにいるんですか?
「リリア!?まさか」
「オリビア、落ち着いて。ニコラスがいたから未遂です。」
頬に手を当てられましたが、私、お姉様のことを思って泣いてしまいました。
クレア様が目をパチパチさせたあと、綺麗な笑みを浮かべました。
「ふふふふふ」
笑い出したけど、なぜか怖んですが。体が震えてきました。
「ふふふふふ」
オリビアも怪し気な笑いはやめて。
「リリア、俺がいるから安心しろ」
いつの間にかニコラスに上着を肩にかけられて抱き寄せられてますが全然安心できません。第一王子殿下は拘束されてます。ロープどこから出したんですの!?
「私、まだまだでした。殿下に止められたけど甘かったのね」
「クレア様、私が教えてさしあげますわ。最低でも3倍返しです」
どこから突っ込んでいいのでしょう。
いつの間にか手を取り合ってる見目麗しい二人の笑顔が怖い。
両殿下、婚約者を止めてください!!
ニコラス、邪魔です。ニコラスの手を振りほどきます。
「二人共、落ち着いてください。主役が抜けたらいけません。オリビアも戻りますよ」
「リリアにお礼を言いたくて来たんだけど、」
「戻りましょう。会場に。ここはお任せください」
「ううん。私が任される」
いやと首を横にふるクレア様をどうすれば説得できるんでしょう。貴方、王太子妃になったんですよ。優先順位を間違えてはいけません。ニコラスを見つめると苦笑してるから、なんとかしてくれますかね。
「断罪はいつでもできます。これは後にすればいいかと。イラ侯爵家の名にかけて逃したりはしません。リリア、ここのケーキ楽しみにしてたんだろう?早く行かないとなくなるんじゃないか」
大変です。私、ケーキ楽しみにしていたんです。
ここにいる場合ではありません。なくなってしまいます。
「クレア様、戻りましょう。私、お腹がすきました。ケーキ食べたいです。でも、主役にご挨拶をしないと食べられないんです。お願いですから、戻りましょう。オリビアもご挨拶終えたらここのケーキ一緒に食べよう。王宮のケーキは美味しいんですよ。」
「仕方ないわ。後で二度と使い物にならなくしてやるわ」
オリビアの言葉は聞かなかったことにします。オリビアが苦笑しているのでなんとかなりそうです。
「オリビア、行こう。王太子殿下も心配します。クレア様も第二王子殿下が心配されますわ。行きましょう。」
「リリア、あんなにひどいことされたのよ。なんで怒らないの!?落ち着きすぎよ」
不満そうな顔のクレア様に詰め寄られてます。
侍女のことは許せません。でも、私に関しては危険はありませんでした。クレア様に説明するしかありませんね。
「私はイラ侯爵家の騎士を信頼してますもの。イラ侯爵家は必ず守ってくれます。・・・その気があれば」
「リリア、お前、いい加減にいや後でいい。さっさと仕度を整えろ」
ニコラスの言葉で仕度が終わってないことに気づきました。
ゆっくりしている場合ではありません。
「大変!!侍女に治癒魔法を。ニコラス、回復薬、譲ってください。何本か隠し持ってるでしょう?この腕輪、外れないんですけど」
「貸せ」
ニコラスが魔法で壊してくれました。差し出される回復薬を飲みます。
「強いから半分な。」
途中で取り上げられましたが魔力が戻ったのでいいでしょう。
いつもこんなに強いの飲んでるってことは、また無理してるんでしょうか。ニコラスの無茶は、いつかなおるんでしょうか。
「リリア、侍女は医務官に見せるわ。来て」
オリビアに手を引かれて移動します。
オリビアがテキパキとコルセットを締めて支度を整えてくれています。椅子に座らされ髪を結われてます。
オリビア、いつも自分でやってますの!?
気づいたら終わってます。
「ずるい」
クレアが悔しそうに睨んでるのはどうしてかしら…。
クレア様のことは、よくわかりません。
「クレア様?」
「髪ずるい」
なぜかオリビアが勝ち気に笑ってます。
「クレア様、今日はだめですが、また今度オリビアに結ってもらいましょう」
「オリビア様ばかりリリアとお揃いずるい。私のお友達なのに」
「クレア様、私とリリアは特別なので比べてはいけませんわ」
「リリア、」
瞳が潤んだクレア様に慌てます。
「こんなところで泣かないで。綺麗なお化粧が台無しです。どうしたんですか、精神異常ですか?」
「リリア、魔法はいらないわ。私とクレア様にも色々あるのよ」
オリビアとクレア様がみつめ合ってます。
クレア様は、オリビアと仲良くなりたかったんですね。
それならそう言ってください。
「会場に戻りますよ。二人共お仕事してください。親交を深めたいなら終わってからにしてください。」
もう放っておきましょう。両殿下を呼んで来ましょう。
私には手に終えません。
放っておいて、会場にむかうことにしました。
ニコラスは何も言わずについてきます。私の護衛だから当然です。
「リリア、大丈夫か?」
腕をひかれて、振り返ります。頬に手を当てて顔を見られてます。
襲われたことを心配してるんですかね。
「大丈夫ですよ」
「泣いてるとは思わなかった。もっと早く助けてやれば」
「ニコラス、勘違いです。私はなにも心配してませんでした。あんな男が素晴らしいミリアお姉様と、結婚してたと思うと悲しくて、涙が止まらなかったんです」
「そっちかよ。」
「ニコラスがいるんですもの。怖いことなんてありません」
頬に添えられたニコラスの手を離して、会場をめざします。
足音が聞こえませんが、何をしてるんでしょう。後ろ振り返るとニコラスが固まってます。まぁ私も魔法で自衛ができるので問題ありません。セノンは私の足元を歩いてます。可愛い。
オリビア達がきましたわ。これで一安心です。
両殿下の手を煩わせずにすみました。
「赤面してる。」
「リリアって自覚してるかどうかよくわからないのよね」
「婚約したのに?」
「流されたし、きっといずれ破棄することになるって。」
「リリアのこと好きよね?」
「ニコラス様がリリアに惚れてるなんて一目瞭然よ。」
「私はいつでもリリアがうちの国に来てくれて構わない」
「リリアは渡さないわ」




