第五十八話 隣国2
私は隣国に来ています。隣国の第二王子殿下とクレア・エクリ公爵令嬢の結婚式のためです。
ただ一般的には3日前〜前日にかけてお呼ばれされます。1週間前に呼ばれることは稀です。
セノンは極秘で連れて来ています。
休みましたしドレスも着ました。セノンもローブを着せました。この魔封じのローブを着ると上皇様より魔力が強くない限り見えないそうです。私とニコラスはいただいた腕輪のおかげで見えております。
「セノン、本当に一緒にいくの?」
「りりあ、いっしょ」
「これから王宮にいくのよ。怖くない?」
「いっしょ」
「可愛い。わかったわ。馬車を降りたらちゃんと着いてくるかニコラスに乗っててくれる」
「うん」
セノンを肩に乗せて馬車に乗ります。
「ニコラス、馬車に乗りますの?」
「ああ。外はディーンに守らせる。本当に大丈夫か?」
「セノンはなにがあっても守ります」
「リリアがだよ。」
「我が国の名門イラ侯爵家の騎士様が弱気ですか?らしくありません。ニコラス達がいるなら怖いことなどありません。ねぇ、セノン」
膝の上のセノンがくうんと鳴きました。
「一番ひどい思いをしたセノンが落ち着いてます。だから大丈夫です」
「リリアの自信はどこからくるんだよ。俺の傍を離れるなよ」
「はい。セノン、ニコラスの言うことちゃんと聞いてね。」
セノンをニコラスの膝の上にのせます。可愛いわ。
王宮に着いたのですが、広間ではなく謁見の間に案内されました。
どうして一人で国王陛下と謁見することになりますの!?
「頭をあげよ」
「このたびはおめでとうございます」
「達者であったか。レトラ侯爵令嬢。歓迎しよう」
「ありがとうございます。」
「ゆっくりしていくといい」
なんと答えるのが正解ですか・・。扉が開いて誰か入ってきましたわ。
「失礼します。陛下、リリアはもうよろしいですか?」
「セシル、ああ。仲良くしなさい」
「リリア、」
第二王子殿下に差しだされる手に重ねて礼をして退席します。
「第二王子殿下?」
「リリア、決して一人になるなよ。ギルバート殿下やオリビア嬢は夜会に参加している。何かあれば俺の名前を使え」
「第二王子殿下?」
「俺はここで。」
「お待ちください。ディーン」
ディーンに預けたお土産を差し出します。
「リリアとしてのお土産です。これはサービスです」
第二王子殿下の手を握って体力回復の魔法をかけます。
目の下のクマが消えましたね。体も軽くなったはずです。
「ありがとう。クレアには直接渡してやれ。リリアと会うために準備も勉強も前倒しで頑張ってたから」
「かしこまりました。」
去っていった第二王子殿下を見送り会場に入ります。若い殿方が多いですわ。
私はオリビア達のお手伝いをしないといけません。今回はレトラ侯爵家として友好を深める必要はありません。
「レトラ侯爵令嬢、お目にかかれて光栄です。」
誰?たぶん初対面です。
「よければエスコートさせていただけませんか」
差しだされる手に微笑みかけます。
「お心づかいありがとうございます。私、まだご挨拶がおわってませんので。失礼します」
礼をして立ち去ります。オリビア達がいました。
「王太子殿下、オリビア様」
「リリア、遅いから心配してたわ」
「申しわけありません。陛下との謁見がありまして」
「あら、ふふ」
オリビア、その怖い笑顔やめてください。王太子殿下を見ると首を横に振ってます。
「王太子殿下、遅れて申しわけありません。通訳が必要でしたらお任せください」
「今のところ大丈夫だ。ただやけにこの国の貴族が多いな」
「きっとオリビア様を見たくて来られたんでしょう。しっかりお守りください」
「リリア、私の傍を離れないでね」
「もちろんです。お任せください」
私は王太子殿下とオリビアの傍で二人に挨拶に来る貴族達を見守ります。王太子殿下、ちゃんと対応できてます。わが国の第二王子殿下、貴方のお兄様はちゃんと優秀ですよ。
視線を集めるのは仕方ありません。
第二王子殿下とクレア様がまだ見えません。ダンスの時間なんですがお二人はどうしたんでしょうか。
王太子殿下がオリビアと踊りに行きました。私は休憩です。ケーキを食べに行きましょう。
「リリア様、一曲踊っていただけませんか」
リリア様?見たことありませんがここでお断りするのは無礼です。
笑顔を浮かべて手を重ねます。
「よろこんで」
私、お名前を知らないんですが聞くわけにはいきません。未成年は貴族名鑑にも乗ってません。
「お美しさに見惚れてしまいました。」
「お戯れを」
「お心も美しいんでしょう。神獣様が選ばれたのですから」
神獣・・。この方、セノンを狙ってますの!?
「とんでもありません」
「今度、我が家で夜会を開きます。よければおこし頂けませんか」
「申しわけありません。私はギルバート王子殿下とオリビア様のお傍を離れることは許されません。」
「もう少しお話したいのですが」
曲が終わります。もう一曲ということでしょうか。
「私、お務めがありますので」
曲が終わったのに手を離してもらえません。
「彼女を返していただけますか?」
この声は、王太子殿下。
「リリア、一曲。オリビアはとられてしまってね」
「はい。」
オリビアがどこにいるかはわかりません。でもお蔭で手が解放されました。
王太子殿下の手を取って踊ります。
「ありがとうございました」
「リリアが困ってるの初めて見たよ」
「お断りが通じないのは初めてでした。オリビア様は?」
「何人か友好を深めたいと。私がいないほうが良いらしい」
「オリビア様には私のお手伝いいらなそうですわ」
「そんなことない。」
「一週間頑張ります」
「ほどほどにな。オリビアがいないから、休憩しようか」
曲が終わったので、王太子殿下と移動します。
殿下がお料理の所にエスコートしてくれました。
「リリア、どれを選べばいい?」
「料理ですか?甘いのですか?」
「任せる」
王太子殿下にケーキを一つ取り分けさしあげます。
私も自分のケーキをとります。
いただきます。ほのかな甘さがたまりません。美味しい。
王太子殿下もぼんやりしてます。この美味しさは感動しますよね。
「殿下、お気に召しましたか?」
「一つでいい」
「わかりました。まだ何か召し上がられますか?」
「いや、いいよ。そろそろ休憩も終わりだな」
王太子殿下の視線の先には第二王子殿下とクレア様が見えました。オリビアはまだ戻ってきません。
ここからが大切です。
「王太子殿下、この戦い勝ちましょう」
「リリアまで」
「ご挨拶に行きましょう。」
第二王子殿下と一緒に二人のもとに向かいます。
両殿下が談笑をはじめています。
「リリア!!」
「クレア様、このたびはおめでとうございます」
「殿下にばっかりずるいわ」
クレア様のずるいは久々です。
その膨れた顔はだめです。
「そのお顔はおやめください。なにがですか?」
「お土産。」
「クレア様にも用意してます。ただこちらで渡すのは」
「明日、うちに来てくれる?」
「オリビア様がご一緒なら。視察が終わった後なら伺います。クレア様、ご公務が終わってなければお土産は渡しませんわ」
「うっ。頑張るわ。」
「では第二王子殿下のもとにお戻りください。」
「つれない。」
談笑の終わった第二王子殿下にクレア様を渡します。
「クレア様、お勉強の成果を見せてください」
人混みに紛れていった二人を見送ります。
「リリアの言っていた意味がわかった気がする」
「頑張って友好を深めてください。あの二人と一緒にいると頭痛とお友達ですが」
苦笑する王太子殿下の後で社交を見守りました。
王太子殿下は問題なく社交されてます。というか私よりうまいです。我が国の第二王子殿下、私はこれだけ社交ができれば十分だと思いますよ。どこが駄目なんですか?
オリビアは最後まで帰ってきませんでした。
無事に夜会が終わって良かったです。
明日は視察なので今日はもう休みましょう。




