第五十七話 隣国1
私は船に揺られて隣国に向かっています。
昨日はイラ侯爵夫妻に挨拶にいき、シロに会いに行きました。
セノンはもう近づいてもいいというので、撫でてきました。
セノンとシロの二人の映像を映像水晶におさめました。これは隣国のセシル王子殿下へのお土産です。ちゃんと絵の具も用意しました。クレア様にはオリビアに選んでもらった恋愛小説を用意しました。あとアイ様にクレア様のお話をしたらセシル様とクレア様のお話を書いてくれたのでそれもお持ちしました。私は読んでません。眠くなりますもの。オリビアが読んで絶賛していたので大丈夫だと思います。
風が気持ちい。一週間後にクレアさまとセシル王子殿下の結婚式です。おめでたいですわ。
セノンは内緒で連れて来てます。魔封じのローブを着るとセノンの姿が見えないみたい。私の肩の上にいますわ。すごいバランス感覚です。うちのセノンは天才です。
「オリビア、気分は平気ですか?」
「ええ。大丈夫。楽しみね。ふふふ」
「オリビアがそんなに楽しみなんて意外。」
「リリア、私に任せて」
「うん。クレア様をよろしくお願いします」
なんででしょう。オリビアが怖いんですけど。
「恐れながら王太子殿下、なにをしました?」
「いや、数日前からあんな感じだ。リリア、ギルバートでいい」
「はい?」
首を傾げます。
「隣国の王太子の方が私より親しく見えるのは・・」
「オリビアが呼んでないのに呼べません。」
「そうか」
「はい。婚約者への気遣いは大事にしてくださいませ」
「気を付ける」
ちゃんと私の言葉を聞く王太子殿下に満足して笑みを浮かべます。
「隣国のお料理はいまいちですがケーキは絶品です。楽しみですね」
「いまいち?」
「味が濃いんです。初めて食べた時は辛すぎて悲しくなってしまいました」
「それもそれで興味があるな」
「着いたら食べられます。そろそろ着きますわね。王太子殿下、気分が優れない時はすぐに教えてください。失礼します」
船が着いたら、挨拶して手紙を渡さないといけません。そのあとの予定の相談は王太子殿下の侍従がしてくれます。
手紙は、どこでしたっけ?
「ほら」
「ありがとうございます。え?」
差し出される手紙をニコラスから受け取ります。
「ローブのポケットに入れたままだから抜いといた」
「ありがとうございます。なんで機嫌悪いんですか?」
「気のせいだ」
眉間に皺が寄ってますが大事な手紙を置き忘れたから怒ってるんでしょうか。それは私の失態なので怒られても仕方ありません。
ただ護衛として来てるニコラスはここで私を怒ることはできないので、態度で表してるんですね。
反省しましょう。
「手紙のことはすみません。次から気をつけます、」
「お嬢様、そろそろ用意をされたほうが」
そういえば、またディーンが護衛してくれるんです。
イラ侯爵家に行ってもいないのでお会いするのは久しぶりです。ニコラスとディーンがいれば大丈夫です。オリビアを危険な目には合わせません。
「ディーン、久しぶりです。またお願いします。」
「お嬢様、その満面の笑顔やめてください。俺は不安で仕方ありません」
「失礼です。不安ですか?」
「リリア、そろそろ移動しよう。お役目だろう」
「はい、頑張ります」
私は船が着いたので降りて役人に挨拶をして手紙を渡しました。入港証と入国証をもらったので私のお役目は終わりです。一安心です。お父様、一人でできましたよ!!
「リリア!!」
「うわぁ」
突然抱き着かれて、倒れるのをニコラスが支えてくれました。セノンもニコラスが捕まえてくれました。セノンがニコラスの肩に、セノン、肩じゃなくて頭の上にいくの?落ちないように気をつけてね。
「リリア、会いたかった!!」
この国の未来の正妃のクレア・エクリ公爵令嬢がこれでいいのでしょうか・・。
「クレア様、お久しぶりです。お会いしてそうそうこんなことを言いたくないんですが、まずは挨拶からです。人目のあるところでは公爵令嬢らしく振舞ってください」
「クレア、怒られるって言っただろ?やぁ、リリ」
「第二王子殿下、止めてください。忙しいのにどうして来たんですか」
「クレアが行きたいっていうから」
「王宮でお待ちください。呼び出してくだされば伺います」
「なんで、俺降格してんの?呼び方戻ってるんだけど」
「セシル王子殿下と呼んで欲しければ、ちゃんとしてくださいませ。クレア様を引き取ってください。こんな光景は民たちに示しがつきませんわ」
「「リリ様!!」」
呼ばれる声に視線を向けると誰?手をふってる子供がいますわ。見覚えがあるような・・。
「リリの国の船が見えると一部の民が集まるんだ。村の子供達がリリがいないか探しにくる。今は王都に住んでる子供が多いからな」
あの村の口減らしにあいそうだった村人達・・。大きくなりましたね。
「あの村は大丈夫だよ。でも村を出て王都で働きたいと希望する者が多いから、俺が後見しているから安心しろ。」
離れないクレア様は放っておいて村人たちに手を振ります。元気そうでよかったです。第二王子殿下が後見してくれるならきっと安心です。
「クレア様、離れてください。お時間があるならエクリ公爵邸に伺います。」
「泊まる?」
「泊まれるかはこれからの行程次第です。クレア様こそ忙しいでしょ?」
「嫌」
「嫌じゃありません。うちに来るなら泊めてあげます。お土産があるんです。うちの殿下達へのご挨拶が上手にできたらお渡しします。できなかったら持って帰ります。クレア様のために用意したのに残念です」
「やる」
「頑張ってくださいませ」
クレア様から解放されたので王太子殿下とオリビアが降りてくるのを待ちましょう。二人共この国の言葉は話せるので大丈夫でしょう。
無事に挨拶をおえてよかったです。私は王太子殿下のフォローに来たのに、どうしてクレア様の挨拶ができたことに安心してるんでしょうか。隣国の臣下の皆様、この二人の面倒を押し付けないでください。
行程の確認が終わりました。
今日の予定は夜会と挨拶だけみたいです。屋敷に向かいましょう。
クレア様が王太子殿下達に挨拶が終わってこっちに来ようとしたのを侍女が捕まえてます。泣く泣く王宮の馬車に第二王子殿下と乗りましたね。オリビア達も同乗しました。手を振って見送りましょう。
私も移動しないといけません。オリビア達は王宮でお世話になるそうですが私はお断りしました。
「リリ様」
寄ってくる子供の前にニコラスが立ちました。
「ニコラス、知り合いです」
「駄目だ」
「元気そうでよかったわ。またね」
手を振って馬車に乗り込みます。
ニコラスの頭の上からセノンが馬車に飛び乗ったので静かに膝の上で撫でます。
馬車が着いたので降りましたが、おかしいです。
「場所が違います」
「ここでいい。」
小さな邸宅に入ります。使用人もいません。
ニコラスが魔石を使って結界をはりました。
連れてきた騎士と使用人が邸宅を整えてますが。
「この国の人間は信用できない。使用人は連れてきたから、問題ない。リリアも侍女つけられただろ?」
「いささか警戒しすぎでは?」
「可愛いセノンのためだろ?」
「わたくしが間違ってました。ここではセノンはローブを脱がせてもいいですか?」
「2階ならいい。1階は駄目。突然来客されたら隠せない」
「わかりました」
「リリア、絶対に一人で出歩くなよ」
「気をつけます。私、牛のミルクを買いに行ってもいいですか?」
「取り寄せてある。ほら」
「ありがとう。セノン、どうぞ」
ニコラスの視線を受けた侍従がミルクを出してくれました。
セノンがミルクを飲み始めました。
「ディーン、俺はリリアに男を近づけるなと言ったよな」
「坊ちゃん」
「たまには、手合わせするか」
「いや、護衛任務中ですから」
セノンが夢中でミルクを飲んでます。
「ニコラス、セノンがお代わりほしいって言うんだけど、あげてもいいですか?お腹痛くなります?」
「セノンの好きなだけ飲ませてやれよ。大丈夫だから」
「わかりました。」
器にミルクを注ぎます。
「坊ちゃん、俺に構う暇あるんならお嬢様をお願いします。休ませなくていいんですか?」
「帰ったら覚えてろ。リリア、それ飲ませたら休もう。夜は夜会だ。仮眠とらないと」
「大丈夫です」
「お前が休まないと俺が休めない」
「わかりました。どこの部屋を使えばいいんですか」
セノンを抱き上げて、ニコラスに着いていきますが、二人部屋です。
「ニコラス、セノンは私のベッドで寝るから一人部屋で構いませんよ」
「一つは俺用。」
「一人でお忍びに行きません」
「念のためだ」
「ニコラス、警戒しすぎです。」
「俺がここの護衛の責任者だから」
「わかりました。勝手にしてください。セノンは私と眠るから譲りません」
セノンのローブを脱がせて、ベッドに横になります。
イラ侯爵家ですから仕方ありません。護衛対象は必ず守るのが教えですものね。
オリビア達も休んでいることでしょう。




