第五十五話 王位争い
私はお母様の命のお茶会地獄がはじまりました。
今日は王妃様主催のお茶会で、ご令嬢が集められてます。ただ側妃様もいます。
敵対派閥も交えての探り合いです。先ほど、オリビアが敵対派閥の公爵令嬢を黙らせました。怖い。社交的な顔をしてやり過ごしましょう。常に笑顔でいなければいけません。
「まさかリリア様が参加されるとは思いませんでしたわ。さぞかし外交官のお勉強で忙しいんでしょう」
嫌味です。私はあんまり敵対派閥のお茶会には顔を出しません。
「リリアは私が呼んだのよ。これから隣国との外交準備で忙しくなるから。リリア、オリビア達を頼みましたよ」
王妃様直々のご招待とはあらかじめ教えてください、お母様。私、いつの間にか王妃様に名前で呼ばれてます。
「精一杯務めさせていただきます」
「王妃様、幼いリリア様には荷が重すぎませんこと?私は心配です」
「リリア、どうなの?」
喧嘩を売られてます。
「私では頼りないですが、レトラ侯爵家より兄夫婦が同行します。不便のないように精一杯務めさせていただきますのでお心づかい不要です」
他家の力を借りるほどうちは落ちぶれておりません。年齢を理由に辞退するなら引き受けません。
「まぁ!?でもレトラ侯爵家はお忙しいでしょう?」
忙しいですが、他家に力を借りるほどのことではありません。貴方の家にお役目は譲りません。
「大事なお祝いです。こんなお役目を任せていただけるなんて光栄です。慣れない環境で不便がないように責任もってオリビア様達のお世話も致します。私、隣国で二月も過ごしたので、お任せください」
にっこり微笑みます。家で刺繍してるご令嬢には負けません。
「頼りにしてるわ。リリアは隣国からの指名ですもの。さすがレトラ侯爵家、外交の要です。招待状もいただけない家が足を運ぶなんて失礼なことはわが国としてもできません」
「オリビアの言う通りね」
「お忙しい王太子殿下とオリビア様が行かれなくてもいいと。もともとは」
「あら、セシル殿下が是非ギルバートとオリビアと親交を深めたいと。特に婚約者のクレア様はオリビアと親しくされたいそうよ。友好国の王太子夫妻に言われればお断りできませんわ」
「でも大切な御身でしょう。なにかあればどうするんですか?」
第二王子殿下を行かせたいんですよね。他国の後ろ盾は魅力的です。考えることは同じです。
「ご安心くださいませ。わがスペ公爵家がお二人の御身は必ずお守りします」
「ライリー様、王太子夫妻だけですの?騎士が足りなければわが家の騎士をお貸ししますわ」
「うちの騎士でもいいんですが、レトラ侯爵家の皆様はイラ侯爵が騎士を派遣されます。イラ侯爵家に嫡男のニコラス様をリリアの護衛につけるのでご心配なくとお断りされてしまいました」
「まぁ!?ニコラス様は王太子殿下の護衛ではありませんの?」
「王太子殿下の護衛はスペ公爵家が任されております。ニコラス様にひけをとらない精鋭を用意しますわ」
ライリー様、強いです。なんで皆さま、好戦的なんですか・・。
敵対派閥の人間を一緒に隣国に連れて行きません。大事な外交の邪魔をされては困ります。
「リリア様、ご辞退されるべきでは?ニコラス様を護衛につけるなんて身の程をわきまえた方がよろしくてよ」
飛び火です。私は頼んでません。ニコラスが勝手に護衛をするって。
「無粋です。騎士として愛しい女性を守りたいのは当然です。誰に否定されようとも。」
「婚約したばかりのお二人を引き離すのは無粋よね。婚約者のいない方にはこの気持ちはわかりませんね。失礼しました」
「まぁ!?」
模範解答がわかりません。
お母様、このお茶会私には高度すぎます。今度お姉様に相談しましょう。
オリビアとライリー様が応答してくださるのでありがたいです。私も見習わないといけません。相手のご令嬢が顔を赤く染めて怒らせるのはどうかと思いますが。
このお茶会って、派閥の力の見せ合いということでしょうか?なんの意味があるんでしょうか。
なんとかお茶会がおわりました。疲れましたわ。
オリビアは王妃様に捕まっているので私は帰りましょう。
他の令嬢に絡まれるのが面倒なので庭園を散策してから帰ろうかな。
隅に隠れてぼんやりしようとしていただけですよ。
どうして両殿下がいますの!?道を戻れば令嬢に絡まれます。
ここで見守るのもどうかと思いますがどうしましょう。
「兄上、わざわざ自ら行くことはないかと。私が行きますよ。」
「いや、私が行く。隣国との友好を結ぶのも大切なことだ」
「外国語は私の方が得意ですよ。オリビアと私が行きますよ。兄上はここにいればよろしいかと」
「私が行くよ」
「話せればいいのは隣国の言葉だけではありませんよ。外交は私のほうが向いています。煩わしいことは私にお任せください」
王太子殿下、言い返してください。
お前の力なんていらない。思惑なんてわかってると。
「平凡な兄上には荷が重いでしょう?全てお任せいただければいい。家臣もそれを望んでいる」
どうしてお兄様に対してそんなこと言うんですか。傷ついた顔をしている王太子殿下・・。仕方ありません。
「私は望んでおりません」
「リリア、いたのか」
「申しわけありません。散策していたら偶然。第二王子殿下、ご心配不要ですわ。私とお兄様が通訳しますわ。外交はわがレトラ侯爵家にお任せください」
「愚鈍な兄上には任せられないか」
「王太子殿下のお手を煩わせるほどではありません。殿下は決断して命じてくださればいいのです。私達は王家の臣下という名の手足です。全てをおひとりでされたら私たちの仕事をなくなります。王太子殿下、私達のお仕事をとらないでくださいませ」
「レトラ嬢」
「王家がお心を傾けるのは国のこと。王太子殿下が望むことは私達が力になります。少しでいいのでうちの派閥を信用してください。オリビアもライリー様も私も王太子殿下の治める国に仕えたいんです」
「リリア、言っている意味はわかっているのか?泣きついても助けないよ」
「前にも申しました。私はレトラ侯爵の命令に従います。侯爵が王太子殿下を応援するなら一蓮托生ですわ。負けたら王太子殿下と一緒に斬首されましょう。命乞いなど致しません。この決意はオリビアも一緒です。それに、私個人としても、酷い言葉で自分のお兄様を傷つける殿方は嫌いです。」
「見る目がない。後悔するよ」
「その時はあざ笑ってくださいませ」
第二王子殿下が去っていきました。
「レトラ嬢」
まずい。うっかり言い過ぎました。
「申しわけありません。抑えきれずに」
「いい。不敬罪にはさせない。驚いた」
「申しわけありません。」
「まさか一緒に斬首されるとは。君は私より弟の方を好きだと思っていたんだけど」
「ありえません。人を傷つけて笑う人間なんて嫌いです。王太子殿下、言い返してください」
「図星だったから。弟の方が優秀だ」
「なにがですの?」
「頭の切れもいい。視野も広い、知識もある。話すのも。努力しても敵わない」
色んな人に言われたんでしょう。人の言葉に傷つくのはちゃんと言葉を聞いてる証拠。王太子殿下への憎しみはいったん置いておきましょう。
「殿下はどんな王様になりたいんですか?」
「身分に関係なく笑っていてほしい。危ない場所などない安全な国を。民が幸せであってほしい。そんな国をつくりたい」
優しい人。そんな国ができたらいいのにな。
王太子殿下の手を取り、体力と精神異常の回復魔法をかける。疲れが楽になるでしょう。
「王太子殿下、私は第二王子殿下ではなく貴方にお仕えしたいです。平凡でもいいんです。難しいことは頭のいい臣下に任せましょう。私、殿下の理想の国をみたいです。疲れたらオリビアと一緒に愚痴を聞いてあげます。オリビアが怒らないように宥めますからご安心してください。無理はしてほしくありませんが、必要なら治癒魔法をかけますよ。それにオリビアも公私は使い分けてますから」
「情けないだろ?」
笑ってしまうのは仕方ありません。
「私的なところでは構いません。ギルバート様の時は力を抜いてください。必要な時だけしっかりしていただければ充分です」
「レトラ嬢」
「リリアで構いません。第二王子殿下に意地悪されたら教えてください。オリビアと報復を考えます」
「おい。」
「隣国の王太子なんてポンコツですから安心してください。王太子妃なんて頭にお花が咲いてますよ。隣国は頭がおかしい貴族が多いんで覚悟してください。」
「違う意味で不安になってきたよ」
「私も驚きましたわ。隣国のセシル殿下と比べれば殿下は十分立派です。だから胸を張ってください」
「リリアの自信満々な顔ってこういうことか。オリビアの言う通りだな。時々、話を聞いてくれるか?」
「オリビアと一緒にお願いします。変な噂がたったら困ります。」
「リリアは不思議だ。知り合いに似ている気がする」
「どこにも似たような方は多いですもの。」
「ギルバート様」
「殿下、私は少ししたらいきますので先に行ってください」
「ああ。気を付けて」
「行ってらっしゃいませ」
立ち去っていく王太子殿下を見送ります。
忙しい人なんだろうな。もしかしてお友達いないのかな・・。
当分は憎しみは忘れましょう。王太子殿下に勝っていただかなくてはなりません。




