第五十四話 隣国からの招待状
クレア様からお返事がきました。お元気そうですね。
結婚式の招待状が同封されています。
来月なんですね。クレア様のお手紙の裏に第二王子殿下からですわね。
結婚式は無理して出席しなくていい。来るなら護衛を連れてこい。うちのやつらは信用するなと書かれてますがどういうことでしょうか?
お父様達は留守です。お母様に相談しましょう。
ニコラスは庭で訓練しています。出かけるなら声をかけろと言われています。
セノンをつれてお母様の執務室に行きましょう。
「お母様、クレア様から結婚式の招待状をいただきました。お返事はどうしましょう」
「旦那様が帰ってきたら相談ね。」
「わかりました。お母様、私はオリビアと王太子殿下のためにできることはありますか?」
「社交嫌いのリリアがどうしたの?」
「いつまでも子供のままではいられません」
「頼もしくなったわね。オリビア様と王太子殿下の傍にいてあげて。厄介な社交はお母様とお姉様に任せなさい。幾つかお茶会でニコラスとの仲をアピールしてきてね」
「え?」
「この婚約につけ入る隙はありませんって。横槍をいれてくる家がないように。うちの派閥の揺るぎなさをアピールしてきて」
「まだ取り込むことを諦めてないんですか・・・」
「ええ。うちもイラ侯爵家も名門だもの。第二王子派は新興貴族ばかり。うちの後釜を狙う家も多いわ。新興貴族がうちのやり方は古いから手を貸しますって言われた時は扇を叩きつけてやろうかと思ったわ。あげくにリリアをもらってあげるって、ふふ」
「お母様、落ち着いてください。私、お役目果たしますから。扇、折らないで。お母様、セノン見てください。」
「奥様」
執事長の声でお母様の怖い笑顔がおさまりました。お母様は怒ると怖いんです。
セノン、もう大丈夫そうよ。
王太子殿下派はサン公爵家を筆頭に歴史ある名門貴族が多いです。第二王子殿下派は新興貴族が占めています。新興貴族はお金で爵位を買った成り上がり貴族です。
正妃様の御子で嫡男の第一王子が継ぐことが習わしです。陛下が決めたことに異を唱えるなんておかしいですもの。ただ第二王子殿下はどうやって私たちを味方につけるつもりでしょう・・。新興貴族だけでは力不足です。
帰ってきたお父様に執務室に呼ばれました。ニコラスとお母様もいます。
「リリア、隣国の王太子夫妻から招待状が届いたのは本当かい?」
「はい」
「断りなさい」
「お父様、王家はどなたが行かれるんですか?」
「王太子殿下とオリビア嬢が出席される。第二王子殿下の予定が隣国が二人に是非と」
「お父様、私が出席することでレトラ侯爵家に不利益はありませんか?」
「リリア、あんな目にあったんだよ」
「私の心配は無用です。それに嫌な予感がするんです。オリビアが行くなら私も行かせてください」
「嫌な予感?」
「女の感です。」
「レトラ侯爵、すみません、確認させてください。リリア、お前、なにを隠してる?」
見つめられるニコラスの目から視線を外します。社交用の笑顔を浮かべます。
「ごまかそうとしてるよな。ちゃんと話せ。大事なことだ」
「セシル第二王子殿下より結婚式は無理して出席しなくていい。来るなら護衛を連れてこい。うちのやつらは信用するなと同封されていました。」
「リリア、その手紙を見せてくれるかい?」
お部屋にあるクレア様からの手紙を渡します。
「どこにそんなことがあるんだい?」
「裏に書いてあります」
お手紙の裏の絵は暗号になっています。第二王子殿下が時々クレア様のことを相談に綴られます。
ニコラスの視線が怖い。
「いつもは私的な内容です。クレア様のお話しかしていません。お父様、行かせてください。それにレトラ侯爵家も参加すればうちに無礼なことを言う新興貴族への牽制になります。」
「旦那様、隣国の将来の国王夫妻の誘いは断れません。」
「念のため、ノエルとミリアも当日そちらに向かわせよう。リリアとは別行動だ。ニコラス」
「うちから護衛騎士をつけます。後で名簿を用意します。」
「ニコラスはどうする?」
「護衛として同行しますが、場合によっては婚約者として立ち回りましょう」
「手配はしておく。わかっているな?」
「はい。二度とあんなことは。せっかくなので仕返ししてきます。オリビア嬢にも見せてもいいですか?」
「友好国というのを忘れるなよ。セノンはどうする?」
「セノンも連れて行きます。レトラ侯爵、リリアとセノンと一月ほど上皇様のところにお世話になってもいいですか?」
「ああ。行ってこい。社交はミリアを呼び戻す。」
「リリア、行くまでは外交官のお勉強はお休みよ」
「はい。お母様の選んだ社交を優先させます」
「励みなさい。招待状の返事は私がするよ。話はそれだけだ」
「わかりました。失礼します」
クレア様が好きそうな恋愛小説をオリビアに相談しないといけません。
セシル第二王子殿下には珍しい絵の具でも贈りましょう。趣味が絵をかくことって似合いません。
もしものために回復薬と魔石だけは多めに作っておきましょう。
「ニコラス、来てください」
隣を歩くニコラスの腕を掴んで部屋につれていきます。
「これ、着てみてください」
ニコラスにローブを渡してセノンにもローブを着せます。
「リリア、これって」
「セノンとお揃いです。どうですか?頑張って作りましたよ」
「リリアの分も?」
「はい。作りました。ただこのローブを着ると魔法が使えないのが難点です。普通の布で作れば良かったことを作り終わってから気付きました。」
「リリアとセノンのそのローブは俺が預かっていい?」
「どうぞ。」
「落ち着いたらこのローブで出かけるか」
「いつかそんな日がくるといいですね。」
「俺が守ってやるからリリアはいつ着てもいいけど」
「いえ、私はセノンを守るので魔封じされるわけにはいきません。セノン、絶対に守るから安心してね。隣国に行ったら牛のミルクを飲ませてあげるから楽しみにしててね。」
「リリア、本当にいいのか?怖くない?」
全く怖くないと言えば嘘になります。セノンを危険な目にあわせることになるかもしれない。でもそんな怖い場所にオリビアを一人で行かせられません。
それに今は大丈夫です。
「ニコラスとお兄様がいます。きっと大丈夫です。愛しい少女に出会うまでは守ってくれるんでしょう?」
「俺はすでに愛しいリリアに出会ってるからな。リリアが少女じゃなくなっても守ってやるよ」
この人はなんで恥ずかしいことを簡単に言うのでしょう。
ニコラスの言葉は聞かなかったことにしましょう。
私はニコラスは放っておいて魔石を作りはじめました。
「リリア、聖属性の魔石をまたいくつかくれないか」
ニコラスは聖属性の魔石は作れないんです。属性がないそうです。だから治癒魔法は使えません。
「大きさは?」
「純度重視でセノンの手くらい」
集中して作ります。
「リリア、ストップ。もういい。ありがとう」
気付いたら結構な量ができてました。
「魔法は使いすぎるなよ。」
これから魔石を作ろうとしたのばれてます・・。
ニコラスのことは気にしないで魔石作りに励むことにしました。
いつの間にかニコラスはいなくなっていました。セノンが膝にのってきたので魔石つくりは中断して遊ぶことにしました。社交にはセノンを連れていけないので、今日はセノンを優先させましょう。




