第五十三話 イラ侯爵家
私は陛下の生誕祭で少女に会えるそうです。ただ生誕祭まで時間があります。
その間に王太子殿下が王位争いに勝てるようにしないといけません。ただ侯爵令嬢の私にできることは少ないです。私はクレア様にお手紙を書くことにしました。
ご成婚のお祝いと招待状をいただいていないこと。お手紙の裏にセシル第二王子殿下に教えていただいた暗号で相談を書きます。この暗号はセシル第二王子殿下しか読めないそうです。できれば二人の婚姻式典は王太子殿下とオリビアを招待してほしいと。
隣国の未来の国王夫妻と親しいのは立派な後ろ盾ですよね。
ダメ元です。きっと隣国王太子夫妻の結婚式はうちの国からも王族が行きますもの。
お手紙を出し終えました。後は返事が来るのを待つばかりです。
今日はイラ侯爵夫人に呼ばれています。セノンに会いたいそうです。
プリンとカイロス様への差し入れも用意しました。私、名目上はニコラスの婚約者なのでイラ侯爵家でお勉強をってことですよね。
ニコラスと一緒に来ました。ニコラス、あなたやっぱりイラ侯爵邸に帰ったほうがいいのでは・・。アイ様が来てから私の傍を離れないんですけど、本当に大丈夫なんですか?
「イラ侯爵夫人、本日はお招きありがとうございます。」
「リリア、義母様よ。」
「いえ、さすがに」
「リリア、貴方は私の娘になるのよ。義母様、ママでもいいわ」
これは従うしかありませんわ。私が呼ぶまでこの門答が続きそうです。
セノンを紹介しましょう。
「義母様、こちらセノンです」
「この子がセノン。可愛いわ」
「はい。うちの天使です。たくさんの幸せをくれる子です。この子を見るとうちの使用人たちも笑顔が溢れます。」
「リリアはセノンが好きなのね」
「はい。大好きです。」
「もし、訓練させたくなったらうちで預かるわ。嫁ぐときも連れてきていいわ」
「義母さま、先の話です。それに・・」
ニコラスが私を選ぶとは限らないとは言えません。
「リリア、その考えはやめろ。行くよ。シロに会いたいんだろ?」
「私は義母様にお呼ばれしたんですが」
「リリア、行ってらっしゃい。後でお茶しましょう」
「はい。失礼します」
イラ侯爵夫人と別れてシロのところに行くんですが、使用人の方々の生暖かい視線はなんですか・・。
ニコラスの袖を掴むと、手を握られますが違います。この視線、なんとも思わないんですか。涙ぐむ方もいるんですが。
「ニコラス、使用人の皆様に魔法かけます?」
「いらない。気にするな」
もしかしてニコラスを見てこの反応ですか。理由がわかりました。
「ニコラス、やっぱりイラ侯爵邸に戻ってください。皆さま寂しがってますよ」
「そういうことじゃないけど、リリアがここで暮らすか?」
「いえ、私は帰りますよ。」
「なら俺も一緒にいく。あんな危ない女がいる家に帰せない」
「アイ様は大丈夫ですわ」
ニコラスはまだアイ様を警戒してます・・。警戒心が強いのは騎士の習性かしら。シロがいました。
「シロお久しぶりです。セノン、シロですわ。セノン、どうしましたの!?」
セノンが吠えてます。
「セノン、怖くないですよ。どうしましたの?シロも可愛いけどセノンが一番よ。違うの?どうしたの?お腹痛いの?セノン?プリンですか?」
ずっと吠えてる。こんなの国に帰って初めてです。撫でてもずっと吠えてます。
「リリア、移動しよう。シロと離してみるか」
「わかりました。セノン、大丈夫だから、落ち着いて。セノン、私が守るから。怖くないよ。」
サロンの椅子に座ってセノンの頭をなでますが、怯えてます。
プリンを出しても食べません。
「ニコラス、どうしよう」
「セノン、どうした?シロに何かあるのか?」
「セノン?」
「ニコラス、何しますの!?」
ニコラスに耳をふさがれてます。
両手が空かないから振り払えません。
「リリアには聞こえない。どうした」
「りりあ、だめ。とられる」
「とられる?」
「ちかづけないで。だめ。りりあ、いっしょにいられない」
「わかった。近づけないよ。だから安心しろ」
「ほんとう?」
「セノンがシロをみて怖がるならリリアは行かないよ」
「うん」
ニコラスの手が離れましたわ。
「ニコラス、なにをしますの!?」
「うちの秘術だから内緒。リリア、セノンはシロがリリアにとられるって。お願いだから近づかないでだってさ」
「まぁ!?もう、セノンったら。シロはニコラスが一番なのよ。私にとってはセノンが一番よ。」
くぅんとつぶらな目で見られると可愛いさ倍増です。
「貴方が嫌なら会いにいかないわ。シロも私がいない方がいいしね」
「セノンが怖いなら殺処分するけど」
「ニコラス、いくらセノンが可愛いからってやりすぎです。私はここでセノンを愛でますので、シロと遊んできてもいいですよ」
「いや、いいよ。シロはうちの者がみるから。それに俺はリリアの護衛だから」
「セノン、すごいです。シロに夢中のニコラスもセノンの可愛さに狂ってますわ。貴方はもっと自信を持っていいんですよ」
セノンが口元にあてたプリンを食べ始めました。これで安心です。
ニコラスも優しく笑ってます。さすがセノンです。
今度上皇様に会ったときに聞いてみましょう。あの怯え方は異常です。
その後はイラ侯爵夫人とお茶をしました。
カイロス様はニコラスに夢中で私は見向きもされません。
でもお菓子をあげたら嬉しそうに笑ってくれました。カイロス様と仲良くなるには時間がかかりそうですわ。




