第五十一話 お茶会
私はオリビア主催のお茶会に来ています。
時間通りに来たけど、誰もいません。
「リリア、あとから来るわ。話したくて早めに呼んだの。お茶会の後は時間が作れないから」
「王太子の婚約者は大変ですね」
「煩わしいものが多いわ」
頬に手を当てて憂いをおびた顔もオリビアは美しいです。
「オリビアでも大変なんですね。私、侯爵家でよかったです」
「リリアには難しいわね。婚約おめでとう」
「ありがとうございます」
「嬉しくないの?」
どうせ破棄しますもの。無理に微笑んでもオリビアには通じませんよね。
「流されました。ニコラスにのせられた気がしてなりません。でもレトラ侯爵家として同派閥との縁談はありがたいです」
「え?政略?」
「はい。でもいずれ破棄すると思います。その頃には王位争いが落ち着いていることを願います」
「そうなの。困ったら相談してね」
「ありがとう。オリビアもね」
この優しい友達の未来を守らないといけません。
絶対に斬首なんてさせません。
「お嬢様、」
「今いくわ。今日のお茶会はきっとリリアの話題で持ちきりね」
「勘弁してほしいです。」
オリビアに仕方のない子を見る目で見られてます。
うん。どうしてそんな顔されるかはわかります。
婚約したら喜ぶ振りをしないといけません。
お茶会は和やかに始まりました。
このまま私のことには触れずに終わってほしいです。
「リリア、婚約おめでとう。」
ライリー様!?
「こないだ来た時に教えてくれれば良かったのに。旦那様から聞いて寂しかったわ」
結婚式の御祝いのお礼にライリー様のお屋敷にお呼ばれしました。その時、ニコラスはブラッド様と手合わせするって着いてきました。
というか今日も着いてきてます。サン公爵家の騎士の方と訓練してます。
最近、どこに行くにも着いてきます。私がご令嬢とお茶会してる時にその家門の騎士と訓練してるってどうなんですか。
うちの国の騎士達って家に関係なく仲が良いと聞いています。ニコラスの家にも突然、見知らぬ騎士が混ざって訓練するのは日常茶飯事でした。武術は高め合うものでしたっけ?不審者は倒せる自信があるから問題ないって笑ってましたが、本気で言ってるから困ります。
「リリア?」
「ライリー様、リリアは恥ずかしがりやですの。ほどほどにしてあげてください」
ぼんやりしてる場合ではありません。
「ご報告が遅れて申し訳ありません。お恥ずかしながら実感が持てずに。」
「リリアったら、良かったわね」
「ありがとうございます」
「レトラ様、その腕輪はもしかして」
上皇様にいただき、外れなくなったとはいえません。
「流行のお揃いですか!?」
「華やかさにはかけますが、品がありますわ」
弱々しく微笑むしかできません。
「レトラ様が普段も身につけてられるのはご婚約者に贈られたんでしょう。」
本当のことは言えません。曖昧に濁すしかありません。
「お守りにといただきました」
「まぁ!?」
「羨ましいです。レトラ様も隅におけません」
令嬢たちが盛り上がってます。真実は違います。
話題をなんとか変えないと。
「そういえば、今日はニコラス様はおいでですか?」
どうして知ってるんでしょうか。
「サン公爵家の騎士の方々と訓練されるそうですわ」
「あら、仲がよろしいこと」
そんな微笑ましく見ないでください。
令嬢の視線が痛いです。
「リリア、訓練見るのが好きなら、サン公爵家の訓練見学させていただいたら?」
ライリー様の言葉にお茶をむせ込みそうになりました。訓練を見るのが好きなわけではありませんよ。昔、嘘をついたからその報いでしょうか。
「レトラ様が見に行けば騎士達が張り切りますわ」
オリビアならともかく、私のような子供が言っても効果はないと思いますよ。
「リリア、行きたい?」
「いえ、せっかくなので皆様と」
「私達のことは構いません。気にせずどうぞ」
これって、訓練の見学に行かなければいけない流れですか?
助けて、オリビア。
オリビアを見ると微笑んでます。オリビアはもしかして怒ってるんでしょうか…。
「リリア、ここはいいから行ってらっしゃい。今日はニコラス様とそのまま帰っていいわ」
これ、命令です。
周りの方にも勧められます。お茶会を退席を勧められるのは人生で二度目の体験です。マナー違反なんですが、オリビアが言うなら従いましょう。
「リリア様、ご案内します」
執事に椅子を引かれたので、立ち上がり礼をします。
「では失礼します」
騒いでる令嬢達がどう噂をたてるかわかりません。
「あの、邪魔になりたくないので目立たない所でお願いします」
「畏まりました」
訓練場の外れの木陰で見学してます。
本当はこのまま帰りたいけど、サン公爵令嬢の命令には逆らえません。
オリビア、どうしてこんなことを。
もしかして、お茶会でからかわれたくないって言ったからですか。
侯爵令嬢としてしっかりしなさいってことですか?
それとも、逃してくれたんですか?
意図はわかりませんがオリビアが私のためにならないことをするとは思えません。
気にするのはやめましょう。
ニコラスはどこにいるかわかりませんが、ぼんやりして時間を潰しましょう。
「あれ、どうしたの?」
お茶会疲れました。家に帰ってセノンと遊びましょう。
「君、大丈夫?」
顔をあげると、サン公爵家の騎士がいました。
「失礼しました。不審者ではありません。オリビアの命令で」
「オリビア様、君は、そうか。お待ちください」
はい?お待ちください?
私の返答を待たずに立ち去っていきますが、ニコラスを連れて帰ってきました。
「リリア!?」
ニコラスを呼んでこなくても結構ですよ。どこまで噂がひろまってますの?まだ婚約してそんなに経ってません。
「まだお茶会終わらないだろ。どうした?」
「オリビアに追い出されました」
心配そうな顔で見られてます。
「は?いじめられてんの?」
「違うと思いますが。令嬢にも色々あります」
「帰るか」
「いえ、気にしないで。私はここでぼんやりしてます」
「見てるなら、特等席につれてくよ」
「邪魔したくないです。それに目立ちたくありません」
「挨拶だけしてくるから待ってて」
騎士の中にニコラスが紛れて行きました。
戻ってきませんね。ねむくなってきましたわ。こんなに暖かいとうとうとしてきます。
目を開けると馬車の中にいました。
「起きたか」
「なんで」
「寝てたから。」
「まさか…」
「誰も礼儀をとがめたりしない。」
「そこではなく、どうやって馬車まで」
「運んだ。ご令嬢達にお幸せにって手を振られたから振り返しといたよ。」
「え・・?終わりました・・」
恐れていたことがおこりました。
「リリア?」
「噂が広まります。なんてことしたんですか!?起こしてくれれば良かったのに。」
「気持ちよさそうだったから。俺は一言は声をかけた」
「起きるまで声をかけてください。こんなことになるんなら、頭から水をかけりても許しますわ」
「そんなことしたら、俺がリリアのお父様とお兄様に殺されるだろうが」
「二人ともそんなことしません。」
「もう終わったことは何を言っても仕方ない。部屋まで運んでやるからもう一眠りしていいよ」
「しません。ニコラスのバカ」
「やらかしたのはリリアだろ。報告しても、俺は怒られないよ。義姉上と義母上に聞いてみようか?」
「おどすんですか!?」
「もうすぐ馬車がつくけど、大丈夫か?騒いだままでいいなら付き合うけど。俺に口で勝てるのか」
「その顔イラっとしますわ。」
「元々だ」
「いつか絶対に勝って謝罪させますわ」
馬車がついたので、ニコラスより先に馬車から下りて部屋に向かいます。
セノンを抱きしめてベッドに飛び込みます。
ニコラスのバカ!!
令嬢の噂の恐ろしさを知らないからあんな態度ができるのよ。
ありえません。訓練場から馬車までなかなか遠いですわ。
運ばれたのを見た方々の口から変な噂になってしまいますわ。
次回のお茶会も夜会もお断りしたいです。




