閑話 イラ親子の鑑賞会
リリアをレトラ侯爵邸に送って家に帰ってきた。
今朝、旅から帰ると父上にスペ公爵家の結婚式に行ってこいっと追い出された。久々に帰る俺のサイズにあった礼服が用意してあるのに引いた。
相変わらず父上は人使いが荒い。リリアも出席してたから丁度よかったけど。
身長が伸びてたな。お祝いに魔法を使ってる姿に見惚れてるやつらがいた。
俺は男共に捕まり、リリアに近づけなかった。俺、最初のおかえりはリリアから聞きたかったんだけど、むさい男のお帰りは聞かなかったことにした。
まさか帰りに襲われてるとは思わなかった。間に合って良かった。護衛、ディーン一人だと駄目か。
珍しく俺に抱きつくリリアは可愛かった。あのリリアがそばにいてって眠った時は夢かと思って頬をつねった痛みににやけてしまった。
いくつになってもリリアは可愛いよな。
「ニコラス、お帰り。遅かったわね」
「ただいま帰りました」
「ちゃんと成果はあったんでしょうね」
「もちろんです」
母上とは帰国して初めて会った。
俺はリリアの願いを叶えるために、旅に出た。ついでに修行もしてきた。
世界は広い。剣の天才と言われた自分が世間知らずだったと勉強になった。もう自分を天才と思わないことにしよう。昔の自分の愚かさに恥ずかしくなる。
「これでリリアは私の義娘になるのね。長かったわ」
「母上、まだ説得してないので」
「他に持っていかれたら追い出すわよ」
「そんなへまはしません」
「鑑賞会はどこでしましょうか」
「鑑賞会?」
「貴方のいない間のリリアの映像よ。ディーンにとらせたのと、レトラ侯爵夫人から譲ってもらったもの。色んな意味ですごいわ」
「俺、一人で見ます」
「せっかくだから一緒に見ましょう。何度見ても飽きないわ。旦那様はグラスを割ったけど、ニコラスはどうかしらね。やっぱり映像部屋がいいわ。食事は映像部屋に運ばせるわ。体を綺麗にして、着替えてらっしゃい」
「わかりました」
こうなった母上は止まらない。父上がグラスを割ったってどういう意味?
うちの両親はリリアを溺愛している。息子には死ぬほど厳しいのに。
俺達を甘やかせない分リリアを可愛がるんだろうな。
父上の初恋はレトラ侯爵夫人。うちの母上もレトラ侯爵夫人のファンだ。
レトラ侯爵夫人も鈍いみたいで父上のアプローチに全く気付かなかったらしい。どんな話し合いが行われたかしらないが、娘が産まれたらうちと結婚させるという約束のもと父上はレトラ侯爵夫人を諦めたそうだ。
その話を知った母上が私が息子を産むと嫁に立候補したらしい。
母上の「貴方が男に生まれた時は感謝したわ」というのはリリアを嫁にもらえるからだ。うちの母上は実はリリアを中心に生きているんじゃないかと思う・・・。
着替えて映像部屋に行く。
うちには母上の趣味で映像部屋がある。
映像魔石も映像水晶も大画面に、映し出される。
貴重な映像魔石も映像水晶もたくさん置いてある。
うちの母上は両方作れるらしい。魔法は使えないのに映像魔石は作れるっておかしいよな。俺はさすがに作れないよ。
笑顔で母上がファイルを眺めている。
「ニコラス、どれからいく?編集してあるけど。私のおすすめでいい?」
どうせ全部見るんだ。どれから見てもいいだろう。
「お任せします」
「やっぱり隣国編よね。」
映像にリリアが船に乗り込むところから始まった。今日見たリリアよりも見覚えのあるリリアが映っている。
船ではしゃいでるのが可愛いな。リリアを見るレトラ侯爵の顔も崩れている。
屋敷に着いたら早速散策か。楽しみにしてたんだろうな。
目を輝かせて市を見てるな。
リリアが市の料理を買って食べはじめた。泣きそうなリリアが隣を見上げる。
映像が止まった。
「ニコラス、ここ、このリリアの視線、見て」
「母上、止めないでください」
「ここ、いつもニコラスのいる所でしょ」
まさか・・・。いや、勘違いだろ。
「あの頃のニコラスの身長だとそうなのよ」
それはさすがにどうなんだ。母上、俺の身長把握してんの!?
「わかりました。母上、すすめてください。」
映像が進むとリリアが知らない男から果実をもらって食べ始めた。ディーン、何してんだよ!!止めろよ。危険物ならどうするんだよ。リリアは毒の耐性ないんだよ。
「この後は隣国の貴族二人との出会いはつまらないから、飛ばしてあるの。見たいなら編集してないほうで見て。ただリリアが亡命したいって言ってるのよね。」
それは、後で見るか。母上がうるさくて集中できないから、編集してあるのだけすぐに見てしまおう。そしたら出て行くだろう。
「次からはリリアの可愛さが凄いわ」
リリアが黒い仔犬を見つけて飛び出していった。ディーン、護衛だろうが。石、リリアに当たってるけど。あいつは・・。やっぱり護衛、一人じゃ駄目だったか・・。
確かに仔犬を可愛がるリリアは可愛い。
「リリアとセノンの映像はまた別でまとめてあるわ。次はニコラスはきっと喜ぶわ」
母上、うるさいんですけど。疫病が流行ってリリアが残るとレトラ侯爵を説得してるな。これはリリアは沈静に向かうよな。村で疫病が流行った時一生懸命勉強してたもんな。リリアもお兄様のお手伝いにいきますって言って聞かないから抜け出さないようにずっと見張っていたんだよな。うちに預けられたのに、なぜか自力でレトラ侯爵家まで帰ったし。うちで昼寝してるはずのリリアがレトラ侯爵邸に帰ったって連絡を聞いた父上が護衛を鍛え直してたな。
治癒魔法っていつの間にかリリアが覚えていたんだよな。
「懐かしいわね。よくニコラスが訓練しすぎて倒れるとリリアが潤んだ瞳で貴方の名前を呼んでたもの」
「見てたんですか」
「ええ。リリアが可愛くて。ちゃんと映像に残してあるけどみたい?あんまり無理がひどいなら止めようと思ったけどリリアがいるから放っておいたのよ。それにリリアがいたほうが、ニコラスは張り切るんだもの。一石二鳥でしょ?。」
「母上・・。」
「次は飛ばそうか迷ってたんだけど、念のため入れておいたわ。ライバルは知っておいた方がいいと思って」
ライバル?疫病の村に行く途中に奴隷を買っているな。一番安いからって、もう少し選ぼうよ。使い勝手で選ぶんだよ。
疫病の村ではリリアが策を考えてるんだな。この王子使えないの?俺はリリアの魔法の使い過ぎに眩暈がしてきた。ディーンに俺の魔石を持たせておいてよかった。弱めの回復薬の調合を教えてよかった。ディーン、もっと早めに止めろ。リリア、回復薬は魔力が切れるギリギリの状態で飲むものじゃないんだよ。ギリギリまで魔力を使うな。
俺が傍にいてリリアがここまで魔力を使うことなんてなかったからか…。ちゃんと教えないとだな。
ディーン、なんで村の男をリリアに近づけてんの?こいつ見惚れてるけど・・・。
この王子もリリアに見惚れてるよな。リリア、警戒しろ。男は危険なんだよ。
火事って、おい、護衛なにしてるんだよ。リリアがおさめたけど。
とりあえず治療に行こうとするリリアを止めたことは褒めてやる。
寝ているリリアを放っておいて王子に話しに行くってどうなの?
リリアは起きたら勝手に出かけるよ。
ディーンと王子の話し合いを母上が飛ばしてないのが意外だ。リリア出てないのに。
リリアが途中で出てきた。だから飛ばしてないのか。
王子の話に全く興味をしめさないリリアに笑えてくる。どんな情報もあっては損はない。
リリア、求婚されてるけど、即答で断ったな。
母上、ライバルってこの王子ですか?
疫病が人災と気付いたリリアが怒ったな。
ディーン、止めろ。その回復薬を何本も持たせるなよ。それ飲む気だから。リリアが一晩かけて村長の治療をした。治癒した後、村長に話を聞こうとしたリリアをディーンが止めた。
「ニコラス、嬉しいでしょ?ちゃんと貴方の教えたことリリアは覚えてるわ。それにこのリリアの視線の先ってきっとニコラスのいた場所でしょ?傍にいなくてもリリアの中には貴方がいるのよ」
回復薬のことも魔法を使い過ぎたら休むことも覚えてたか。
「母上、解説いらないんで映像を止めるのやめてください」
「余裕があるのは今のうちよ。何も持たないでね。絶対に壊すから。覚悟しなさい。一週間寝込んだ後の貴族とのやりとりは飛ばしてあるわ。」
「え?一週間寝込んだ?」
俺の言葉を無視して意味深に笑う母上が映像をすすめた。
一週間寝込んだって魔力使い果たしてるよな。リリアに説教しないと・・。
リリアの家に第一王子と兵が入ってくる。使用人たちは動かない。
リリアを出せと言われたディーンがリリアを呼びにいく。寝起きのリリアが可愛い。リリアの寝室に入る王子と兵を止めてほしかったけど。
リリアと王子が話しているとセノンが捕えられた。
リリアが剣で威嚇されてる状況はなに?セノンにリリアが結界をはったな。あの結界なら安全だろう。
「リリア!!」
リリアの結界を通って黒い風が腕を襲った。ディーンは魔法で足が拘束されている。あのバカ。
リリアが歯をくいしばって汗をびっしよりかいて結界の維持をしている。使用人は動かないのかよ。
あんな顔させるなんて・・。
立ち上がると手を母上に叩かれる。映像、リリアは大丈夫。
たすけて、と俺の名を呼ぶリリアに手が震える。ごめん。リリア。
あんなに痛がってるリリアに峰打ちした兵、絶対に覚えていろ。隣国だろうと許さない。
「ニコラス、落ち着きなさい。まだ終わらないから。きついなら見るのやめる?」
「やめません」
「ハンカチなら持ってもいいわ」
寝ているリリアが俺の名前を呼んでる。あいつ、距離置きたいとか言ったくせに。
リリアに嫌われてないとは思う。リリアは俺をいらないって言うのに、呼ぶんだな。
ディーンがセノンを助けにいきたいと泣き叫ぶリリアを止めている。
リリアに呼ばれても助けてやれない。なんで離れたんだろう。でもあの頃の俺でも守れたかわからない。
神殿についても治療の痛みに泣き叫んでいるリリア。ずっと泣いてる。
「母上、俺はリリアにとって必要なのかな」
「こんなに呼ばれてるのよ。婚約したくないって言われた時は驚いたけど事情があるんでしょ。初恋が報われるわね」
流れる映像をみて、頭がごちゃごちゃになる。
「とりあえず、暗殺しに行ってきます」
「ニコラス、落ち着いて。まだ見せたいものはたくさんあるわ」
その後も俺のいない間のリリアの映像を見て、ディーンを絞めようと決めた。
男を近づけんなって言ったよな。危険な目に合わせるなとも。
「母上、俺はどうすればいいんでしょうか・。」
「どう?」
「暗殺か絞めるか、リリアの護衛か」
「ニコラス、バカなの?別に自分でやらなくてもいいじゃない。それに暗殺なんて簡単に終わらせていいの?」
「確かに。リリアへの行いは地獄に落ちるくらいでは許されません。俺、レトラ侯爵邸にお世話になってもいいですか?俺の部屋を用意してくれたようなので」
「ディーンは旦那様に任せましょう。貴方が帰ってこないから護衛を外せなかったけど。一人で平気?」
「はい。二度とあんな目には合わせません。リリアが俺を必要としてくれるなら遠慮しません。外堀埋めて本気で説得するので、書類の準備だけお願いできますか?前の婚約の書類はレトラ侯爵に破かれましたよね」
「決めたの?」
「はい。もう迷いはありません。ちゃんと説得します」
「わかったわ。書類は旦那様に持って行かせるわ。楽しみだわ。リリアがとうとう私の義娘に」
「母上、嫁にもらうか婿に行くか決めてないので、それはリリアの成人まで待ってもらっていいですか。成人したら結婚してどちらの家に入るか決めます」
「婿に行ってもいいけど、定期的にリリアを連れて来るのが条件よ」
「わかりました。父上に説明はいりますか?」
「私がするわ。貴方はさっさとリリアの所に行って説得しなさい」
「婚約するまで余計な横槍いれないでください。警戒されると困るんで」
「わかったわ。ミリア様と仲良くしなさい。レトラ侯爵家の男共を抑えないとリリアは手に入らないわ」
「努力します。では、行ってきます」
「ニコラス、仮眠と食事は?」
「食欲ないんでいいです。」
「わかったわ。荷物は後で届けさせるわ。リリアを絶対に守るのよ。行ってらっしゃい」
もう辺りは明るいから大丈夫だろう。
リリアの顔が見たい。母上に任せておけば大丈夫だ。
昔、リリアを湖に落とした妄言女にリリアのことをはかせたんだよな。
縛って、森に捨てたけど気になって親方に情報を調べて家を突き止めた。
女を見たら、ぼんやりして思考が奪われる気がして足に剣をさした。痛みで思考がはっきりしたから脅して聞いた。
どうして俺達のことを知っているか。俺とリリアの未来の可能性を。
語られた未来は、どれも俺にとっては耐え難いものだった。なにより話の中の俺の行動の意味がわからなかった。
信じたくないけど、リリアが信じてる。俺に捨てられたってバカリリア。
俺はあの妄言女が語るものを現実になんてさせない。絶対に。
それにあんな目にも二度と合わせないよう。
泣きながら俺を呼んだリリアの傍を絶対に離れない。リリアの護衛はほかの奴に任せられない。俺以外の男が近くでリリアに笑いかけられるなんて許せるかよ。
欲しいもののためには手段を選ばないのはイラ侯爵家の男として当然だよな。
リリアの説得とどうやって守るかよく考えないといけないな。




