第四話後編 幼馴染
私は洗脳されているニコラスと睨み合っています。
ニコラスが外交官を目指したい理由を知りたいなら、距離をおきたい理由を話せと言われてます。
ニコラスを説得するなら理由を聞かないと説得できません。洗脳を解かなければいけません。
私の理由・・。説明すれば納得するかもしれません。
どうしてこんな簡単なことに今まで気づかなかったんでしょう。
「五年後、貴方は一人の少女に心を奪われます。そして邪魔な私を切り捨てます。」
「は?」
「私は話しました。次はニコラスの番です」
「そんな理由が俺から離れたい理由なのかよ!?」
そんな理由ですって!?。
その呆れた顔はなんですか!?
「充分でしょ?将来捨てられる人間に心をかたむけるなど愚かなことはしません。それに私はその程度でしたのよ」
「違う。ありえない。どうしたんだよ。俺はリリアを捨てたりしない」
「しましたよ。殺されかけて必死に逃げた私を貴方は捕まえた。私の言葉なんて聞かずに。最後まで貴方を信じようとした私が愚かだったのよ。」
「なんのことだよ。リリア、落ち着いて」
「もういらないの。」
「どうしたんだよ。いらないってなんだよ。じゃあリリアはいらない俺のことをどうして心配するんだよ。放っておけばいいだろうが」
なんで私を捨てたニコラスのほうが傷ついた顔するんですか。
「それは・・・、」
「俺はリリアだけは切り捨てない。5年後も10年後もお前以外に心を奪われたりしない」
「それは洗脳」
「なんでそうなるんだよ。リリアがそんな理由で離れろなんて納得できない。それなら俺は今まで通り好きにする」
「外交官を目指すのやめますか?」
「やめないよ。今まで通り勝手に傍にいるってこと。」
「ありえません。洗脳されてるんです。ニコラス、お願いだから気付いてください」
「洗脳されてないよ。こうなったリリアには俺の言葉なんて聞こえないよな。でも俺がなにかして嫌われたんじゃないならいい。うん。大丈夫だ」
突然笑ったニコラスに戸惑います。人が真剣な話をしているのに。さっきの傷ついた顔より全然いいけど…。安心してる場合ではありません。
「大事な話をしてるんです。なんにも大丈夫ではありません」
「父上にはリリアは未来のイラ侯爵夫人と教えられていた。リリアと結婚するのは次期イラ侯爵。だから俺はイラ侯爵を目指そうとした」
「え?」
「父上には憧れているよ。でも俺はリリアと結婚したかっただけで別にイラ侯爵はそこまで拘ってない」
「ニコラス、自分が何を言っているかわかってます?」
「ああ。レトラ侯爵がうちとの縁談を白紙に戻しただろ?。リリアは嫁に出さないって言うなら俺が婿に行けばいい。うちには弟が二人もいるし」
軽い。家の一大事をサラッと言いました…。
「ニコラス、意味がわかりません」
「リリアはレトラ侯爵家にいたい。俺はリリアといたい。それなら俺が外交官になってリリアの傍にいればいいだろ?よく考えるとイラ侯爵夫妻よりおいしいよな。イラ侯爵家の仕事は危ないからリリアを連れていけないけど、外交官夫婦ならずっと一緒だ。」
「私、ニコラスと婚約しません」
「これ」
目の前に差しだされる紙を見ると・・・。
リリア・レトラとニコラス・イラは結婚します。
ニコラス・イラ
リリア・レトラ
サインしてあります。サインした記憶はありません。
「昔、練習で書いたよな。リリアも俺と結婚すること頷いていたよな」
よくニコラスのお嫁さんになると言われていた記憶はあるんですが・・。
サインした記憶はありません。
「お父様の命に従います。でもそれは無効だと思います」
「どうだろうな」
ニコラスが企んでる顔をしているときって、碌なことしません。
「ニコラス、なにが目的ですか?」
「俺はリリアを切り捨てない自信がある。だから今まで通りでいてくれないか。」
「それ、私へのメリットありません」
「俺はリリア以外に心を奪われない。リリアが18歳になった時に俺と結婚して。」
「私の言葉を聞いてますか?」
「剣と魔法を教えてやるよ。無償でリリアの護衛してやるよ」
「それ、今までと変わりませんよね。将来捨てられる私にメリットがありません」
「リリアは俺のことを疑ってるけど心外だ。5年後の俺の行動を決めつけてるけど。俺がリリアを裏切らなかったらどうする?。俺、傷つけられ損じゃないか」
「傷ついた?」
「俺、産まれて初めてこんなに傷つけられたよ。」
「嘘です。ニコラスはそれくらいでは傷つきません。誰に何を言われてもさらっと流しますもの」
「リリアだけは違う」
「それは洗脳です。勘違い」
「なんでそうなるんだよ。鈍すぎる。俺を拒むならお前のお忍びをレトラ侯爵に話すよ。スラムに一人で行ってるなんてあの侯爵夫妻やノエルが許すかな」
まずいです。そこは秘密です。御者には市に行くと伝えてあります。スラムは絶対に知られてはいけません。恐怖のお説教が・・。
「脅しですか?」
「さあな。」
どうしよう。ニコラスは言い出したらきかない。それに確かに今のニコラスは悪くない。
私がこれ以上、気を許さなければいいだけ・・。
いずれ洗脳も解けることを祈りましょう。まだニコラスは成人していないので当主争いには間に合います。
悲しそうな顔を作ります。
「わかりました。お互い好きにしましょう。ただ私、イラ侯爵の跡を継ぐためにひたむきに努力してるニコラスが一番好きだったのに残念です。もうお目にかかれないんですね。」
「一番?」
「せっかくなので貴方の弟を見守ります。昔、ニコラスのために治癒魔法も極めましたし」
「俺のため?」
「外交官を目指すニコラスには必要ありませんもの。私は貴方のかわりに当主を目指す弟君を」
「リリア、外交官を目指すのはやめないけど、ちゃんと今まで通りにするよ」
「無謀です。弟君に譲られるんでしょう?おいくつでしたっけ?」
「2歳と5歳」
この二人は年齢差があるので殿下の愛しい少女に魅入られてないはず。
ニコラスより全然安全です。それに弟君たちがイラ侯爵に洗脳されないか心配です。
「私、せっかくなので弟君を支えます。きっと苦労されますし、イラ侯爵とお父様の約束を我儘で潰しましたし」
「リリアは俺に当主を目指してほしいの?」
「私はあなたが次期イラ侯爵だと信じてましたわ。ニコラスにその気がないなら弟君たちを応援するだけです。訓練のサポートは得意です。今はお勉強で忙しいので都合の良い日だけですが。将来のイラ侯爵の成長を傍で見守れるなんて楽しみですわ」
「わかった。当主を目指すのはやめない」
「外交官やめますか?」
「両方やる」
「バカですの?」
「倒れてもリリアが看病してくれるだろ?」
「放っておきます」
「できるならな。気が向いたら弟を紹介してやるよ。」
ニコラスに外交官を諦めさせるのは失敗しました。
ニコラスは負けず嫌いです。私が弟君の成長を魔法でサポートしながら応援するといえばニコラスが負けるかもしれません。
歳の離れた弟に負けるなんて耐えられないはず。
負けず嫌いのニコラスの性格を利用しましたが謝りませんよ。
一番大事なところは守られました。ニコラスの次期イラ侯爵への道がまた見えてきました。良かったです。
「私はあなたが願うなら次期イラ侯爵はニコラスと信じてます」
「自分勝手だよな。その顔、他でやるなよ」
「失礼ですね。」
「リリア、また明日な。お前が望むなら当主の座も手に入れてやるよ」
部屋をでていくニコラスを見送ります。
私の望みは外交官を目指すのはやめてほしいことと離れてほしいことなんですけど。全く私の話を聞いてませんね…。
本当にイラ侯爵と外交官を目指すんでしょうか。
いくら優秀とはいえ無謀だと思います。でもニコラスは体力おばけです。
きっと、いずれ無理に気付いて外交官を諦めるでしょう。
ニコラスの洗脳を解く方法も探しましょう。それがお互いにとって一番です。精神異常回復では効果ないんですね。やることが増えてしまいました。




